Anniversary[4/6]

「正気ですか、匡人さん」

冷静に咎めようとするその声が擦れているのは、千早の内側に燻る熱のせいだと思いたかった。

「私は男ですよ。しかも、あなたよりずっと年上の」

「知ってるよ」

胸元に唇を寄せて薄く色づいたそこを舌先で転がせば、息を詰める気配がした。
わかっててやってるんだと、答えたところで千早は納得するだろうか。

湧き立つ衝動を抑え込みながら下に伸ばした手でバックルを外し、前を寛がせれば、窮屈なところから解放されたそこが小さく震えた。
下着をずらして、中へと右手を滑り込ませる。直に握りしめた千早の半身は熱く脈動していた。試すように何度か上下させて、徐々に力を込めて扱いていくうちに、その表情が変化していくのがわかった。

「……ッ、あ……」

目を閉じて漏れる吐息を呑み、何度も声を噛み殺しながら千早はかぶりを振った。ゆっくりと快楽に揺らされて欲に染まっていく千早はきれいだと思った。

「気持ちいい?」

滴り落ちてきた先走りが手の中で水音を立てていく。訊かなくてもわかる答えを求めるのは、我ながらガキっぽいと思った。

「ま、さと、さ……」

切羽詰まった声で名を呼ばれて、ゾクゾクと背筋を何かが駆け上がっていく。何度も息をつきながら、千早は時折艶かしく腰を揺らした。うっすらと額に浮かび始めた汗を指先で拭ってやりながら、俺は耳元で名前を囁く。

「千早」

びくりと反応して仰け反る喉にまた口づける。二度、三度と握り締めたものを強く擦ってやれば、掌の中でそれがドクリと大きく震えた。千早の半身は何度も収縮しては溜め込んでいた欲を断続的に吐き出していく。その光景を俺は不思議な気持ちで眺めていた。

「 ─── は、あ……ッ」

呼吸に合わせて上下する白く濡れた腹を見下ろしたまま、俺は自分の着ているものを脱いでいく。肩で息をしながら、千早はぼんやりと俺を見上げていた。
いつにも増して物憂げな眼差しなのは、記憶を手繰り寄せているからだろうか。
親父が生きていた頃の、想い出を。

「お前も脱げよ、千早」

身につけていた衣服を全て取り払ってやれば、全裸になった千早は俺が想像していた以上に美しかった。程よく筋肉のついたバランスのいい身体は、匂うように艶めかしい。

「……あなたは、こんなことをしたことが」

「男と?」

千早の体内から放たれた白く光る液体を指先で掬い、そっと後孔をくすぐる。硬く閉ざされたそこを何度も撫でてから指先をほんの少し挿し込めば、うっすらと開いた唇から小さな声がこぼれた。

「ないよ。痛いか」

何かに堪えようとする千早の表情はひどく扇情的だった。そこを傷つけないように恐る恐る指を奥へと進めていくと、わずかな抵抗を示しながらもするりと呑み込んでいく。

「……あ、ぁ」

奥まで咥え込んだまま、上擦った声をあげて千早はまた腰を揺らした。その動きに誘われて抽送を始めると、中の締めつけが一層強くなる。
濡れて摩擦の弱まったそこが少しずつ綻んでいくのを、俺は辛抱強く待った。指の本数を増やして押し広げていくうちに、何度かうねるように中が締めつけてくる感覚がした。

さっき果てたはずの半身は再び緩く勃ち上がり、もう新しい蜜を垂らしている。千早のそこは男を受け容れる器官としてきちんと機能していた。

「ん、あ……っ、あッ」

ぐるりと掻き混ぜるとビクビクと組み敷いた身体が跳ね上がる。うっすらと目を開き、千早は眩しそうに俺の顔を見た。いや、俺を通して別の誰かを見ていた。

千早の中から指を引き抜くと、溜息混じりの声がこぼれた。俺は起き上がって自分のものを掴み、何度か扱いていく。大きく割り開いた脚の間から先端をそこにあてがう。ぬるりした感触に息をついた。

「……後悔、しますよ」

見上げる瞳は情欲に濡れて光る。泣いているかのように眼差しは小さく揺れていた。

「するもんか。親父のものを、俺が継ぐ。ただそれだけのことだ」

そう告げれば千早は薄く笑った。その微笑みはなぜか幸福そうに見えた。

「怖いですか」

問いかけられて初めて、俺は自分が小刻みに震えていることに気づく。差し伸ばされた手が頬に触れ、宥めるように優しく撫でた。まるで母が子にそうするように。
胸の中に溜まっていたものを吐き出すように深く息をついて、俺はかぶりを振る。

「本当に、大きくなられた」

思いがけない感嘆の声に、胸が小さく傷んだ。母に似た面差しの義弟を、親父は何を思い抱いていたのだろう。
息を詰めながら少しずつ千早の中に入っていく。熱く濡れたそこはわずかな抵抗を示すかのように何度も俺を締めつけながらゆっくりと受け容れていった。

「……あぁ、は……っ」

奥まで到達した途端、痛いぐらいの刺激に顔を上げれば眉根を寄せて息を詰める千早の険しい顔が目に飛び込んできた。

「千早、キツイ?」

それには答えず、かぶりを振ってシーツを掻くように握りしめる。親父が亡くなってから3年間、律儀に貞操を守っていたんだろう。千早の中は灼けるように熱かった。繋がる部分から伝わるのは、何もかもを溶かしていくほどの熱だ。しがらみも葛藤も瞬く間に昇華していく。
強い刺激に萎えかけている千早の昂ぶりを握りしめて緩々と扱いていけば、俺を包み込む中が共鳴するように蠢き始めた。


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