知らない感覚に狼狽えながら、それでももっとこの体温を感じたくて。少しでも密着する部分が増えるように、しがみついて小さく震える身体を押しつける。
戸惑いと本能の狭間で、俺の下半身は確かに熱を持っていく。
身体に掛かる重みを心地よく感じながら、口の中を優しく刺激するように這う舌をゆっくりと追い掛ける。
ようやく捕らえることができて、嬉しくて焦る気持ちを抑えつつも舌先から手繰り寄せるように吸っていく。
ちゅるり、と小さく濡れた音を立てて、滑らかなそれが緩やかに俺に絡みついてくる。
このままこうしていれば、この熱で2人の境目は融けてしまう。
器用な動きに翻弄されて、俺の持つ全ての感覚が次から次へと呼び覚まされてはふつふつと粟立つように反応していく。
絡まる舌も、触れ合う身体も、このまま形がなくなるんじゃないかっていうぐらい、触れ合う全部が蕩けてる。
「ん、ふ……ッ」
口の中全体が性感帯になったみたいに感じてしまってて、何度も唇を離して快感をやり過ごそうとする。
その度に多田さんは吐息ごと口づけ直して俺の全部を浚っていく。
経験なら俺だって絶対負けてない。なのに、多田さんとのキスは本当に気持ちよくて、酸素が足りなくなったように頭がぼうっとしてくる。
このまま身を委ねてしまえば、意識が飛びそうだ。
舌を軽く吸われる度に身体が小さく跳ね上がる。水揚げされてもがく魚みたいに喘いでるのに、上から押さえつけられて、俺の動きは封じ込められてる。
舌先から流れ込む煙草の苦味さえ、甘い刺激に変わってく。
苦しいぐらいの快感に揺蕩いながら、硬く閉じていた目をそっと開ければ、多田さんの瞳にはハッキリと俺が映り込んでた。
そこに浮かぶ艶っぽい光の美しさから、目が離せない。
うっとりと舌を絡ませれば、何度も軽く吸い上げられる。隠し切れないぐらいに熱を持った俺のものは、今にもはだけそうなバスタオル越しに多田さんのお腹のあたりではっきりと欲を主張してた。
でも俺はとっくに気づいてる。さっきから太腿に触れる多田さんの半身も、確かに反応してることに。
それが嬉しくて、このまま多田さんを気持ちよくしてあげたいと思った。
背中に回してた腕を離して、下肢に手を伸ばそうとしたその瞬間、強い力で手首を掴まれる。
「ん、ぅ……っ」
制止するように抑え込まれたまま、なおも唇は重ねられて、ぬめる舌先で舌の裏をくすぐられる。
多田さんから与えられる熱っぽいキスで、俺の中に閉じこもっていた欲はするすると魔法のように引き出されていく。
なのに、キス以上のことを拒まれてしまえばどうしようもなく身体が疼いてたまらない。
きっと今なら、この昂ぶりを何回か扱かれただけで果ててしまう。
「……ふ、っあ……」
ゆっくりと、糸を引きながら唇が離れてく。
視界がぼんやりとしていて、目を凝らして焦点を合わせていけば、多田さんのくっきりとした二重瞼がやけに鮮明に目に入る。
ああ、やっぱりこの人の瞳はすごくきれいだな。
改めてそんなことを思いながら、ぬくもりを失った唇が淋しくて、俺はもう一度多田さんの身体を引き寄せる。
額がくっつきそうな距離で、差し出された親指が俺の濡れた唇に触れる。何度か軽くなぞられる度に、また背筋を軽い電流が走ってく。
指を離して、俺の伸び過ぎた前髪をそっと手で払ってから、多田さんは低く囁いた。
「─── 楓くん、これでいい?」
それはまるで、仕方なく義務を努めたみたいな言い方で。
よくなんかないよ。もっと欲しい。
そんな言葉を放つことさえ、躊躇ってしまうような醒めた空気を纏ってる。
「シャワーを浴びてくるから、先に寝てていいよ」
淡々と告げられた言葉に呆然と目を見開く俺から身体を離して、多田さんはそのまま部屋を出て行ってしまった。
意味がわからなくて、振り返りもせず閉められた扉を見つめながらそこに広い背中の残像を思い描く。
火照る身体にひんやりとした空気が触れて、どうしようもなくやるせない気持ちになる。
反応したままのそこは、全然萎えそうになかった。
多田さんは大人の対応をしただけ。俺は適当にあしらわれたんだ。
眠気なんてどこかへ飛んで行ってしまった。目が冴えてとても寝られそうにない。
冷たい布団の中に入って、身体を丸めたまま深呼吸する。
息を吸って、吐いて。昂ぶる体温を持て余しながら、俺はかくれんぼをする子どものように、じっと息を潜める。
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