大きくなってきたそこを包み込むようにぎゅっと握りしめて扱いていけば、みるみる熱を帯びていく。
「あぁ……ッ、ふ、あっ」
いつの間にか手の中にある俺のものは1番大きな形になっていて、ドクドクと脈打ちながら先端から雫を零してた。
湧き起こる罪悪感は快楽とぐちゃぐちゃに混ざり合って、どちらがどちらなのか区別もつかなくなる。
他の感覚は全部大きな波に呑み込まれてしまって、ひたすら襲いくる快感に息が上がっていく。
「……ひ、あッ」
いい感じに流されてたのに急に先の窪みに強い刺激を感じて、慌てて硬く閉じていた目を開ける。
視界に飛び込んでくるのは、濡れた俺の先端に人差し指の先をグリグリと突き立てて冷ややかに笑う兄貴の顔。
爪を立てて尿道を抉られればクチクチと小さく水音が鳴って、痛みとも快楽ともつかない強過ぎる感覚に涙が滲んでしまう。
「いッ、や……っ、あ、ぁッ」
引けていく腰はすぐに壁にあたって行き場をなくす。
追いかけてきた指先は蜜を帯びていやらしく光っていて、ヒクつく細い出口を塞ぐようにまた弄りだした。
「───ん、あ……っ」
今度はさっきよりも優しく触れられる。それが気持ちいいなんて認めたくないのに身体は正直だった。先端からはどんどん先走りが零れて伝ってくる。
早く、早くここから逃げ出したい。
必死に手を動かして、ただ終わりに辿り着きたくて。
「はは、なんだよこれ。こんなに垂らして。淫乱」
インラン。
そんなこと、言われなくてもちゃんとわかってる。
でも俺はその唇から紡がれた蔑みの言葉に囚われながら、引き摺られるように堕ちていく。
「ん、く……ッ、あぁ……っ!」
出口を堰き止められた熱が僅かな隙間から飛び跳ねていく。数回に分けてようやく全てを吐き出し切った後、喘ぐ俺の口の中に長い指が差し込まれた。
ぬるりとした苦い熱を纏った指先が、舌の上に押しつけられる。
自分の放った白濁を舐め取りながら、俺はもう安堵してた。
兄貴はいつも最後まではしない。だから、このどうしようもなく意味のない行為はこれで終わり。
愛情も性欲も、ここにはないんだ。あるのはただ。
「……楓」
優しい声音に目を開ければ、眼鏡越しに俺を見つめる瞳が見えた。
心臓を射るような、冷たい眼差し。
「俺はね、楓が嫌い」
───憎しみだけ。
興味を失ったみたいに動かなくなった神経質そうな指をそっと口から出して、俺は力なく頷く。
そんなこと、知ってるよ。
そう返事したかったのに、言葉は喉に仕えて声にならなかった。
両親にとって自慢の息子、中澤皐月は俺にとっても誇れる兄だった。
それはもちろん、こんな関係になる前の話。
兄貴に初めてこんなことをされたのは、中学1年生の頃だ。
そのキッカケとなった出来事を思い出そうとすると、今でも胸が苦しくなる。だから、俺はその記憶を強引に頭から追い払って、忘れたことにしてる。
実際俺だって普段の生活を送りながらいつもそんなことを思い出してるというわけじゃない。だからそれってもう、忘れてるのと同じだと思う。
とにかく、それからは何日かに1回、兄貴のを咥えて、俺が自分でしてるところを見せる、そういう奇妙な関係が続くようになった。
でも、そこから先へは進まない。
わけもわからなくて、考えても考えても答えの出ないまま兄貴の気紛れな要求に従うしかない日々は、どれだけ数をこなしたってやっぱり精神的にキツかった。
初めは性欲処理のためかと思った。でも、そうじゃなかった。
『……どうしてこんなこと、するの』
一度だけ、思い切って兄貴にそう訊いたことがある。
その時の冴え冴えとした眼差しと掛けられた言葉を、俺は一生忘れないだろう。
『楓のへらへらした顔がムカつくから』
そうだ。兄貴は俺のことが嫌いで、憎くて仕方がない。ただ、俺に屈辱を味わせることが愉しいだけ。
そんな鉛のようなドス黒い憎しみから逃れたくて、俺は縋ることのできる人を闇雲に求めるようになった。
他人と肌を合わせることでびっくりするぐらい気持ちが落ち着くことがわかるまで、そんなに掛らなかった。
男とも女とも、性別なんて関係なしに誰かれ構わずエッチしてるうちに、俺が兄貴としてることなんて取るに足らないことだって思えるようになった。
俺は別に兄貴とのことがトラウマになってるなんて思ってないし、俺のモラルが緩いのも兄貴のせいだなんて思ってない。
自分の気に入った相手と気持ちいいことができたらそれでいいんだ。本気でそう思ってる。
けれど、たとえば兄貴が俺に求めるこの行為が、単純に性欲を満たすためだったなら。そこに僅かでも好意があったなら。
同じことをしてても、俺はこんなにつらくなかっただろうなと思うことはある。
冷たい空気を閉じ込めるように、兄貴の部屋の扉を閉める。
「楓、今晩も来いよ」
背後から投げられた言葉に、聴こえない振りをした。
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