the 3rd day[19/25]

大きな目で輪郭を辿るようにハルカの身体をなぞっていたミチルの視線が不意に一点で止まる。そこは、身体の中心で慎ましく反応している半身に釘付けになっていた。
こんなにきれいな顔をしているのに、俺と同じように男の象徴が付いていることが不思議だと思う。けれど、そのアンバランスなところが却って艶かしいと感じるのは、俺がもうハルカに溺れ切ってる証拠なのかもしれない。

どこもかしこも全てが愛おしくて仕方がない。俺にとってハルカは、赦されるなら人生の全てを捧げたって構わないと思うぐらい、理想の恋人だ。
たとえハルカにとっての俺がそうではなくても。

小さな溜息をひとつ吐き出して、俺は自分の着ているものを乱雑に脱いでしまう。いくらハルカがかわいくても、この試練を一刻も早く終わらせてしまいたいという気持ちは変わらない。

「タクマさん」

全く勃つ気配のない俺の股間に視線を流して、ハルカはクスリと笑った。

「もしかして緊張してる? 随分表情が硬いけど」

当たり前だ。この状況でしっかり欲情してるお前が俺には信じられないよ。

「まあね。こう見えて意外と神経質みたいだ」

どんな顔をすればいいかわからないまま曖昧に首を振ると、ハルカはゆっくりと目を細める。その奥にじわりと熱を燻らせながら、視線は真っ直ぐ俺を捕らえていた。

「大丈夫。タクマさんがリラックスできるように、気持ちよくしてあげるね」

きれいな顔でさらりとエロいことを言って、ハルカは視線をその横へと流し、手を差し伸ばす。柔らかそうな髪を優しく撫でられて、ミチルの頬がうっすらと赤く染まった。

「好きなところで見てて。でも、途中で無理だと思ったら、我慢せずに出て行くんだ。ミチルの好きなようにすればいい。わかった?」

小さな子どもに言い聞かせるような、穏やかで優しい口調だった。ミチルはどこか夢心地な眼差しでぼんやりとハルカを見つめたまま、こくりと頷く。
そうだ。ここは現実からほんの少し逸脱した世界なんだ。だから、何も気にすることはない。

それが合図だったかのように、ハルカは俺の首に両腕を回し、身体を押しつけるように抱きついてきた。滑らかな肌の温度がじわりと伝わってくる。すぐさま唇に触れる柔らかな感触に、俺は目を閉じて応える。
唇の隙間を割って舌を挿し込み、その奥で密やかに待ち受けている舌を誘うように突ついてみると、くちゅりと唾液が混ざり合う音がした。

「……ん、っ……」

鼻から抜けた声が漏れ聞こえてくる。気持ちよさそうなハルカの反応に気をよくした俺は、小さな後頭部を掌で支えながら、熱く熟れた舌を絡め取った。

濡れた音を立てながら、何度も唇を重ね直しては互いの官能を探り合ううちに、抑えきれなくなった情欲がするすると引き出されていく。

触れる部分が蕩けていくようなキスを交わすうちに、背中に回っていたハルカの右腕がするりと落ちて、反応し始めた俺のそこに温かな掌が触れた。緩やかに握り込まれ、擽るように指先でなぞられればぞくりと背筋が痺れる。
こんなふうに誘われるのは嫌いじゃない。ハルカからちゃんと求められていることに俺は安堵する。

うっすらと目を開ければ、至近距離で視線が絡まる。気持ちよさそうな顔をしながら、ハルカは唇を離して小さく吐息を漏らした。飲み込み切れなかった唾液が顎を伝い滴り落ちる。瞳だけで笑いかけてくる愛おしい人の髪に手をうずめて舌先でその雫を掬い、もう一度唇を重ねて腔内を深く貪りながら、俺は空いている方の手をそっと下に伸ばしていく。
硬く勃ち上がっているハルカの半身を握りしめようとすると、逃げるように腰が引けていった。

「ん、ダメ……」

唇を離して上目遣いで恍惚とした眼差しを向けながら、ハルカは妖艶に笑った。甘い蜜を湛えた花は、俺を惑わせながら可憐に咲き誇る。

「僕がしてあげるって、言ったでしょ」

かわいく咎められてしまって微笑み返せば、ハルカは目を細めて念押しするように顔を近づけてきた。
ちゅ、と小さな音を立てながら唇を啄ばめば、それを躱されて首筋に吸いつかれる。一瞬感じたチクリとした刺激に息を吐けば、ハルカは突然俺の身体にのし掛かるように押し倒してきた。

スプリングが大きく軋んで、俺は仰向けに倒れこむ。
ちょこんと馬乗りになったハルカが潤んだ瞳で俺を見下ろしている。影の射す顔はゾクゾクするほどきれいだった。

「ハルカ、おいで」

そう誘えば、魅惑の微笑みを浮かべながらゆっくりと覆い被さってくる。心地よい重みを両手で受け止めて、目を薄く開けたまま唇を軽く重ね合い、背中を撫で上げればハルカは小さく身体を震わせた。
けれど不意に視界の隅に、必死な顔をして俺たちを見つめるミチルの姿が飛び込んでくる。

なんとか気にしないようにと思っていたのに、一度意識してしまうとどうしても気がそがれてしまう。
一気に罪悪感が押し寄せて来て、せっかく入ったスイッチが切れてしまいそうだった。
それでもハルカはお構いなしにその先へと進もうとする。まるでミチルのことなど見えていないみたいに。

目を閉じて首筋から徐々に降りてくる唇の感覚を追いかけながら、どうにか気持ちを切り替えようと思考を張り巡らせる。

そうだ。ぬいぐるみだ。あれは、人じゃなくてぬいぐるみなんだ。

強引にそう自分に言い聞かせて瞼を開けてみれば、純真な黒いふたつの瞳がじっとこちらを見つめているのが目に入った。
瞬きさえ惜しんで俺たちの一挙一動を脳裏に焼きつけようとするその姿は、真剣そのものだった。


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