the 3rd day[18/25]

ミチルは、父親にそんなことをされるのは自分のせいだと責め続けてきたんだろう。
この子は父親から性的な虐待を受けただけではなく、根深い罪の意識まで植えつけられたんだ。そう思うとやるせない気持ちで胸がいっぱいになった。

黙り込む俺たちに向かって、ミチルは淡々と言葉を続けていく。

「今日、おばあちゃんの家に連れて行ってもらって、お父さんのところにはもう戻らないってやっと覚悟することができた。そのときに決めたんだ。僕はもう、一生誰ともしない。だってセックスは汚くて、いけないことだから」

そう言い切って、ミチルはまた深呼吸をする。それほど、一言一言がこの子にとっては重いものなんだろう。
ミチルが言わんとすることは、何となくわかる気がした。なんせ初めに刷り込まれたのが、父親からぶつけられた歪んだ性欲だ。
セックスは汚いもので、してはいけないこと。そう思い込んでしまうのも、無理はなかった。

「昨日の夜、寝ようとしたのにすぐに目が覚めちゃって、トイレにでも行こうと思って廊下へ出たら、この部屋から拓磨さんとハルカの声が聞こえてきた。でも、僕には2人が悪いことをしてるようには思えなかった。それが、本当に不思議だったんだ。だから、聞いちゃいけないって思ったのに、ここから動けなくなった。僕はちゃんと知りたいんだ。拓磨さんもハルカも、お互いのことが好きだから、してたんだよね? だったら僕は、それを」

この目で、見てみたい。

震える声で吐き出された語尾は、消え入りそうに微かなものだった。

単に他人のセックスが見たいと言うのならAVでも観ておけばいいだけの話だ。けれど、あれは手っ取り早く性欲の捌け口に使う道具でしかなくて、少なくともあの中には愛なんて存在しない。ミチルが求めているのはそういうものじゃないんだ

ミチルの言いたいことはわかるつもりだった。それでも、何よりこの子はまだ16歳だ。そんな年齢の子に生々しい性行為を見せつけることが、いいはずはない。
そして、生憎俺には誰かにそんなところを見せる趣味もなかった。

「 ─── ミチル。悪いけど」

「タクマさん」

なんとか当たり障りのない理由を付けて断ろうとする俺の言葉を遮って、ハルカはゆっくりと口角を上げた。まだ幼さの残る不安げな顔を覗き込みながら、言い聞かせるように言葉をかける。

「いいよ。見せてあげる」

「本当?」

驚いたようにパッと目を見開くミチルに、ハルカは優しく頷く。そんな2人を前に、俺は開いた口が塞がらない。

「おい、ハルカ」

「セックスは悪いことじゃない。それをきちんとミチルに教えてあげたい。お願いだ」

被せるようにそう言って、ハルカは澄んだ眼差しををこちらに向ける。その真剣な表情を見れば、ミチルのことを真剣に考えているんだとわかった。だが、いくらかわいいハルカの頼みでもできることとできないことがある。これは、間違いなく後者だ。

けれど、次にハルカの口から零れた言葉に俺は二の句を失う。

「タクマさん、責任なら僕が取る。これが何かの罪になるのなら、その罰は僕が受けるよ」

その口調に迷いは微塵もなかった。ハルカはハルカはなりに覚悟を決めている。そう気づいた途端、俺は自分が情けなくて仕方なかった。
14歳も年の離れた、好きな相手にこんなことを言わせるなんて、俺は一体何をやってるんだろう。

「わかったよ、ハルカ。その代わり、お前が背負う必要はない。大丈夫だから」

何がどう大丈夫かなんて、本当はわかっちゃいなかった。それでも口先だけの言葉に頬を緩ませたハルカの顔を見て、俺はもう腹を括れると思った。
視線を感じてミチルの方に向き直れば、大きな目を何度も瞬かせながら俺を見つめている。
全く、何てことを言いだすんだ。

「拓磨さん。本当に、いいの?」

「お前が言い出したんじゃないか。その代わり、これは俺たちだけの秘密だからな」

こくりと首を縦に振るミチルに、俺は深く溜息をつく。俺の人生で他人にセックスを見せるのは、これが最初で最後であってほしいと思った。

「お前の望んでるようなもんじゃないかもしれない。それでもいいなら、見てろよ」




それは、全く奇妙な光景だった。

自分の部屋なのに、まるで見知らぬ場所になってしまったみたいにひどく居心地が悪く落ち着かない。
ダブルベッドのすぐ脇で拳を握りしめながら、ミチルは説教でもされているかのようにきちんと正座をしていた。そんな正しい姿勢で見つめられると余計恥ずかしいんだと言ってもこの子にはわからないだろうか。

「硬くならずに、見やすいようにしていればいいよ」

まだ、夜は長いから。
ハルカはそう囁いて、俺たちの前で纏っている服をしめやかに脱いでいく。衣擦れの音が重なる中、その身体を隠していた最後の布地が剥ぎ取られれば、白くきめ細かな肌が露わになった。
ミチルが息を呑む音が聞こえる。

部屋の灯りを消して、スタンドライトの調光をギリギリまで絞った状態にしているのは、恥ずかしいからという名分もあるけれど、それだけじゃない。この光加減がハルカをよりきれいに見せるからだ。
仄かな橙色に照らされて、しなやかな肢体は薄闇に淡く浮かび上がる。

一糸纏わぬ姿になったハルカは陽射しの下にいるよりも更に妖艶で美しい。誰の目から見てもそうに違いない。
それでも、どれだけベッドの上で乱れてもハルカが持つ天使のような清らかさは不思議と少しも穢れない。



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