「ん……ッ、や、あぁ……ッ」
身じろぐ度に、スプリングがしなやかに重みを吸収して軋む。
「神崎さ……やっぱり、ダメ……、あ、あッ」
俺のものを包み込んで扱き続ける大きな手に、悲鳴を上げる。 他人の手でイけないそこは、神崎さんにしてもらうとすごく気持ちいい。でも、いつもあと少しのところなのに辿り着けない。ギリギリのところで焦らされてる感じが延々と続いて、苦しさに涙が滲む。
「ヒナ……その顔、堪らない」
こぼれる涙を舌で掬って、神崎さんが息を吹きかけるように耳元で囁いた。そんな行為さえも快楽を増長させていく。 背中にいくつものキスを落とされて吐息をつくと、そっと後孔に触れられた。ひんやりとしたローションを纏った指の感触に、期待で中が熱を孕んで疼く。
「……あ、ぁっ」
「ヒナ、かわいいよ」
ゾクゾクと背筋を電流みたいな快感が走っていく。俺は目を開けて、神崎さんの顔を見つめる。 大好きな顔。なのに、ズキズキと胸が痛む。 その顔をずっと見ていたくて、目を開けたまま口づける。口の中を舌で優しく撫で回すような、優しくて淫らなキスを交わした。 上顎を何度もなぞるように刺激されて、気持ちよくて夢中になって口を開けていると、後ろに指がゆっくりと挿入される。そこから焦れるような波がじわじわと拡がって、もう腰が揺れてしまう。
「ヒナのここ、指に吸い付いてる」
「ん、ふ……っ」
唇を離して息を漏らせば、神崎さんは俺の首筋から鎖骨をそっと舌で辿っていく。歯痒いぐらいにゆっくりと指が抽送されて、鳥肌が立った。
「は……っ、あ、あぁ……ッ」
急に長い指が一段奥まで挿入されて、前立腺を的確に探り当てられる。リズミカルにそこばかりを刺激されれば、堪らずに背筋が仰け反った。
「あ、そこ、ダメ……すぐ、イっちゃう……ッ」
程よく引き締まった身体にしがみつきながら必死に訴えると、耳元でそっと囁かれる。
「会えなかった分、たくさんしてあげる。ヒナ、何回イきたい?」
「や……わかんなっ、ああァッ」
指の本数を増やされて中の一番敏感な部分を挟み込むように擦られ続けば、ビリビリと背筋を強い快感が突き抜ける。 神崎さんの顔をしっかりと見つめながら、俺は早くも一回目の絶頂を迎えた。
「あぁ、あ……ッ、ふ、ああァッ!」
ビクビクとうねる中を掻き混ぜるように動く指に、苦しくて悲鳴をあげる。
「あ、ダメ……ッ! まだ、イってる、から」
途端にピタリと指の動きが止まって、もどかしさに自然と腰が揺れてしまう。
「ヒナのここ、トロトロだよ。やめていいの?」
耳の中をそっと舐められながらいやらしくそう囁かれたときには、もう快楽以外のことは何も考えられなくなってた。神崎さんの首に腕を回して、縋りつきながら懇願する。
「や……、もっと、して……ッ」
「ヒナはおねだりが上手だね」
視界に映るきれいな顔が、涙で霞んでしまう。次の絶頂は、きっとさっきよりも深い。 期待に震える後孔は、指が抽送を繰り返す度にぐちゅぐちゅと卑猥な水音を立てて、聴覚さえ犯していく。ひとすじ涙がこぼれれば、堰を切ったように止まらなくなった。
「あ、あ……ッ! ん、好き……っ」
思わずそう口走ると、大きな身体が俺を優しく抱きしめてくれる。
「大好きだよ、ヒナ」
ああ、違う。 与えられる大きな波に飲まれながら、やるせない想いに囚われる。
「あっ、ああァ……ッ」
──その呼び方じゃないんだ。
「神崎さん、ほんとにいいの?」
「すごくいい時間が過ごせたよ。ありがとう」
散々追い詰められて、絶頂まで連れて行かれた。気怠い身体を持て余しながら、ベッドでゆったりとした時間を過ごす。
「俺ばっかり気持ちよくしてもらうなんて、よくないよ」
温かな腕の中でそう言うと、神崎さんが俺の頭を撫でてくれる。髪を梳くその手つきはとても優しい。
「かわいいヒナが見たかったんだ。だから満足してる」
どうして神崎さんが俺に奉仕させてくれなかったのか、もう気づいてる。帰国して一番に、奥さんとセックスしたいからだ。 神崎さんには奥さんと子どもがいる。そして、家族をすごく大切にしてることもわかってる。 だったら、俺と会わなければいいのに。 少しだけ、そんな卑屈な気持ちになる。神崎さんにとって俺は、ただお金と引き換えに性欲を満たす相手だ。なのにそんなことを考えるなんて、俺は本当にどうかしてる。
「ヒナ、また俺の顔ばっかり見てたね」
「ごめんなさい」
不意にそう言われて、俺は思わず謝ってしまう。神崎さんの顔に、やっぱり俺は惹かれてる。
「いいよ、ちょっと妬けるけどね。そんなに似てる? ヒナの好きな人に」
ドキリと心臓が跳ね上がった。
「そんなんじゃないよ」
一気に胸が苦しくなって俯く。沈黙が続いて、神崎さんが気を悪くしたかもしれないと、無性に不安になった。
「ヒナ。親御さんの借金のために働いてるって、前に言ってたね」
話が逸れたことにホッとして、俺は顔を上げた。
「それ、あとどれぐらい残ってる?」
神崎さんの言葉に戸惑う。残金があといくらだとか、知ったってどうしようもない。だから知らないし、知ろうという気にもならなかった。
「わかんない。親が借りたのは五百万円って聞いたけど、利息もあるだろうし。給料から天引きされてるけど、正直今どの程度返してるのかも知らないんだ」
「そうか」
神崎さんは短く言って、俺の額に唇を押しあてた。そんな些細な仕草に鼓動が速くなる。
「ヒナが早く自由になれるように、俺も協力するから」
「ありがとう」
神崎さんの気持ちは本当に嬉しい。だけど、俺は自由にはならない。自分の閉じ込められた籠に、内側から鍵を掛けてるから。 だって、自由になったところで行くところなんてないんだ。だったらここで繋がれたまま、快楽に溺れていればいい。
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