the 1st day[3/6]

『コースとオプションが決まって金を受け取ったら、まずは客とシャワーを浴びろ』

実技講習の相手は、マネージャーの澤井さんだった。『CAGE』には一応名ばかりの店長がいるけど、事務所には殆ど顔を出さない。実質この店を取り仕切ってるのは、澤井さんだ。
今でも俺は、澤井さんの感情のこもらない顔を見ると堪らなく不安になる。その時もそうだった。真っ裸で心許なく立ち尽くす俺に、澤井さんは服を脱ぎながら端的に説明してくれた。
服を脱いだら、まずシャワーに誘う。泡の作り方、全身リップ。フェラ。丁寧に順番を踏んでいくこと。
ガチガチに緊張してる俺に、一通り的確に教えてくれる。冷たく見えるけど、もしかすると本当は優しい人なのかもしれない。

『そうだ。しっかりと舌を動かすんだ』

俺が初めてフェラをした相手は澤井さんだ。初めて他人のものを口に挿れたのに、不思議なぐらい嫌悪感はなかった。
だけど、もつれるようにベッドへと倒れ込んだ途端、急に身体の中心を握り込まれて情けない声が出た。

『あ……っ!』

ゆっくりと俺の半身を扱くその手の感触は、確かに気持ち悪くはなかった。それでもやっぱり怖くて、身を捩りながら必死に謝る。

『ごめんなさい。俺、そこダメなんです。自分でするのは大丈夫なんだけど、他人に触られるのが苦手で』

今まで何人もの女の子とそういう関係を持とうとしたことがある。でも何をされても全然イけなかったし、挿入してもダメだった。自分でするのは大丈夫なのに。俺のここは不能なんだと思う。
澤井さんは俺をじっと見つめながら、薄く口を開いた。

『そうか。まあ、いい』

手を離されてホッとしたのも束の間、澤井さんはおもむろにチューブを取り出して、右手にとろりとした透明な液体を塗り出した。それが何を意味するのか、初心者の俺にも簡単に想像がつく。

『初めてか』

恐る恐る頷く俺を見て、澤井さんは小さく溜息をついた。

『力、抜けよ』

ベッドのシーツを掴んで身構える俺を、澤井さんが抱き寄せる。
ひんやりとした感覚が後孔を刺激して、それだけで身体がビクついた。ゆっくりと指が侵入してくる。

『う……あ、ぁ……っ』

ローションが塗り込まれているせいか、痛みはなかった。言いようのない異物感が怖くて俺はみっともなく喘ぐ。指が抽送を繰り返す度に、ぞわぞわとした感覚が身体を這い回った。

『いいか、ヒナ』

澤井さんが、初めて俺の源氏名を呼んだ。

『この店は本番なしだ。それでも、この部分は使う。中途半端なプライドは捨てて客と一緒にお前も愉しむんだ。じゃないとやっていけない』

慣れない感覚に必死に耐えながら、俺は思った。
ああ。この人もきっと、何かを諦めた人なんだ。

『……あ、あぁッ!』

長い指が奥の方を掠めた瞬間、身体が跳ねて口から甘ったるい声が漏れた。
何だ、これ。
奥の一点を刺激される度に、背筋を強烈な感覚が突き抜ける。

『やっ、あ、ん……っ、あァ……ッ』

めくるめく快楽に、意志に反して言葉にならない声がこぼれていく。初めての感覚が怖くて堪らなくて、視界がゆらりと滲んだ。

『ここが刺激されるように、自分で角度を調節するんだ』

『ああ……ッ、ふ、あ、アァッ』

大きな波に浚われて身体がしなる。苦しくて涙がこぼれ落ちた。

『や、なんか、ヘン……っ、ああッ』

何かに縋りたくて、腕を伸ばして澤井さんにしがみついた。その手の動きが一層速くなって、いやらしい水音が部屋に響き渡る。思考がもうグチャグチャで、理性が全部飛んでいく。
その時、忘れたはずの名前がふと脳裏に蘇ってきた。もう全てを諦めたはずなのに。
罪悪感と共にその名を思い浮かべた途端、ゾクゾクと快楽が増長して、俺は行ったことのない高みへと引き摺り上げられていた。

『あ、んッ、あっ、あぁ……ッ』

中がビクビクと収縮する。頭の中が真っ白で、強張った身体は意志とは関係なく痙攣し続けた。

『はあ……ぁ……っ』

指が中から引き抜かれるその刺激さえ、気持ちよくて喘ぐ。ずるずると尾を引く快楽の余韻に浸りながら、ぐったりとベッドに身体を預けて乱れた呼吸を整えた。

『上出来だ』

『え……?』

汗と涙で濡れた俺の顔を、澤井さんが撫でる。残酷なぐらいに優しい手つきで。

『お前、いい顔をするな。きっと売れる』

他人から褒められてこんなに絶望的になったのは、初めてだった。






「ああ、あ……ッ、ふ、あ……ぁッ」

甘ったるい喘ぎ声が、口からとめどなくこぼれ落ちる。四つん這いになって後ろから異物を突っ込まれて、振動が中を刺激していく。与えられた快楽が薄れる前に次の波が来て、苦しいぐらいに追い込まれてる。

「あ、あッ、もっと、奥、して……」

イイところを掠めては逸れるもどかしさに、息も絶え絶えに後ろを振り返りながらねだると、バイブを俺に突っ込みながら自分のものを扱く男の姿が見えた。

「おねが……ッ、あ、あぁッ!」

角度がズレて、モロに前立腺にあたった。ビリビリと電気が走ったみたいに背中が仰け反って、俺は頭の隅っこで安堵する。

「あ、そこ、いっぱい、突いて……ん、あァッ」

ああ、これで全部忘れられる。全部忘れて快楽に飲まれて、頭の中が空っぽの、ただ喘ぐだけの淫乱な人形になれる。
強過ぎる刺激を与えられ続けるうちに、俺はあっという間に頂点に辿り着く。

「あッ、イく、あ、ああァ……ッ!」

震える背中に、背後から生温かい精がぶちまけられた。







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