the 3rd day[5/7]

神崎さんが俺を間近でじっと見つめる。その瞳には、ぼうっとした顔の俺が映ってる。

「指、挿れて……」

恥ずかしさを押し殺してそう言うと、唇に優しくキスしてくれた。

「いやらしい子だね」

なぜか涙が出そうになってしまう。耳の中に舌を挿し込まれて、背筋がゾクゾクと震えた。

「大好きだよ、ヒナ」

甘ったるい告白。早く刺激が欲しくて、身体の中心に灯った熱がじわりと全身を回っていく。
神崎さんは起き上がって、ローションを指に塗りながら色っぽく笑った。

「どうしたの」

「え……」

「我慢できないって顔してる」

指摘されて、黙って俯く。だって、もう本当に我慢できないぐらいに中が疼いてたから。
俺はチューブからローションを出して、掌で温めたそれを神崎さんのものに塗り込んでいく。丁寧にしないといけないのに、焦ってうまくできない。

「ヒナ、かわいいね」

耳をくすぐる低く甘い響きに、また恥ずかしくなった。二人でベッドに横たわって、横向きで向かい合わせになれば、また抱きしめられる。その体勢のまま、神崎さんのものを手に取って、股に挟み込んだ。熱くぬるりとした感触に、鼓動が一層高鳴る。

「ヒナ……」

後孔に神崎さんの指が触れた。ゆっくりとくすぐるように愛撫されて、もどかしさに抱きついてねだってしまう。

「あ、ぁ……、早く……」

焦らすように指が中に入ってくる。緩やかな動きに自然と腰が揺れて、脚の間に挟み込んだ神崎さんのものを扱く形になった。

「ん……あっ、あァ……ッ」

指の数を増やされて、与えられる快楽が段々求めるものに近づいてくる。でも、一番いいところにはまだ触ってもらえない。
もっと欲しくて見上げると、きれいな顔がじっと俺を見てた。

「ヒナ、ここ……」

「あぁッ……ふ、ぁ……っ」

急に指が深く突き立てられる。前立腺を強く擦られて、身体が跳ね上がった。

「俺だけのヒナになったら、早くここに挿れてひとつになりたい」

熱っぽい瞳で見つめられて、また体温が上がっていく。今でも入ってると錯覚するぐらい気持ちいいのに、本当に挿れられたら俺はどうなっちゃうんだろう。
神崎さんが腰をグラインドさせながら俺をどんどん高いところへ連れていってくれる。中の深いところを指先で刺激される度に、ひときわ強い快感が身体を駆け上がる。息がどんどんあがって、全身に快楽が廻って頭が真っ白になっていく。

「も、イきそう……あ、あッ」

てっぺんまで、あと少し。
下肢の筋肉がどんどん強張っていくのを感じながら必死に神崎さんの身体にしがみついて、肩に額を押し付ける。なのに、急に指が浅いところをじりじりと往復し始めた。

「や……ぁっ」

イきたくて堪らないのに刺激を取り上げられて、涙が滲んだ。

「ヒナ。初めて会ったときに教えた俺の名前、憶えてる?」

不意に投げかけられた言葉に、思わず顔を上げる。

──憶えてる。

初めて会ったとき、神崎さんがあいつに似てるから本当にびっくりした。ちゃんとフルネームを教えてくれたのに、あえて名字で呼ぼうと決めたんだ。
距離を置かないと、自分を見失ってしまいそうだと思ったから。
戸惑いながら頷くと、神崎さんは艶っぽく微笑んだ。

「俺の名前を呼んでくれたら、ヒナの一番感じるところを触ってあげる」

その言葉に、身体が期待で震えた。

「ヒナ。俺のところにおいで。外に出てデートをして、二人で楽しい時間をたくさん過ごそう。ヒナが大好きなんだ」

真剣な眼差しだった。神崎さんのきれいな瞳に俺が映ってる。
ああ、それはきっとすごく幸せな時間だ。
この人には奥さんも子どももいる。どんなに頑張っても、この人の一番にはなれない。それに、俺は確かに神崎さんのことが好きだけど、それはあいつの面影を重ねてしまってるせいかもしれない。
それでもかまわないんだ。だってこの人は、俺のことをこんなにも大切にしてくれる。大好きだって言ってくれるから。

「……諒介さん」

大好きな顔を、じっと見つめる。僅かな距離で視線が絡まって、甘く融けていく。
これで、少しは距離が縮まった?

「お願い、気持ちよくして」

顔を近づけて唇を重ねる。手に入らないと思ってた自由はすぐそこにある。なのに胸が痛むその理由がわからない。
目を閉じて、長い指がやっと奥に入ってくる。待ち望んだ刺激は、想像よりもずっと強かった。

「ん、あ……ッ! あ、あぁ……」

指の本数を増やされて、執拗にそこばかりを刺激される。ローションでぐちゃぐちゃになった中を掻き混ぜられれば、自分の口からこぼれる甘ったるい声が水音と共に聴覚を犯していく。与えられる快楽に、勝手に涙が溢れて止まらない。

「りょ、すけさ……ん、ンッ、あっ」

「ヒナ、大好きだ」

ビクビクと動く身体をしっかりと抱きとめて、深いところへと連れて行ってくれる。荒い呼吸を絡めながらキスを繰り返す。腰が打ち付けられる度に、後孔に与えられる快楽が増していく。大きな波に浚われて意識が飛んで行きそうで、必死にしがみついた。

「あ、あァっ、イく、イく……ッ!」

身体の中心から頭のてっぺんまで快楽が突き抜けていく。後孔の収縮が止まらなくて、まだ中に残る指を締めつける。
太股に熱いものが飛び散る感覚がした。ああ、イってくれたんだ。俺は余韻に浸りながら安堵する。
ひどい脱力感に襲われて、身体に力が入らない。

「……ヒナ」

優しい声だ。ベタベタになった身体がギュッと抱き寄せられる。

「気持ちよかったよ」

じんわりと涙が滲んでくる。今度は快楽のせいじゃない。

「神崎さん、ありがとう」

言葉にすると、また涙がこぼれた。

「ほら、名前」

「あ……ごめんなさい」

呼び慣れた名前を急に言い換えるのは、難しかった。

「いいよ。少しずつで」

そう言って俺の涙を指で拭って、すごく愛おしそうに見つめてくれる。優しく微笑みながら顔を近づけて、何度も何度も啄むようなキスを交わす。唇の感触が気持ちいい。
抱き合ったままキスをしてたら何だか恥ずかしくなってきて、互いの顔を見つめて笑う。
やがてまた、俺たちは快楽を求めて深いところへと沈んでいった。








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