結局俺は、それ以上七瀬くんに突っ込んだことは聞けなくて、順番に回ってきたインタビューにも上の空で答えていって。投票時間が終わって開票してみれば、やっぱりダントツに七瀬くんが1番で、大盛り上がりのままミスコンは終わってしまった。その勢いで後夜祭が始まったステージを後に、俺は教室へと向かう。コンテストが終わればもうこの格好でいる理由なんてないから、とりあえず早く着替えてしまいたかった。誰もいないはずの教室の扉を開ければ、そこには俺の大好きな王子様が立っていた。夕暮れを背に、キラキラと後光が射している。ああ、なんてきれいなんだろう。「李一くん、ごめんね」優勝なんて最初から無理だってわかってたんだけど、それでも申し訳なくて謝れば、李一くんは険しい顔で俺に歩み寄ってくる。「もう1回、言えよ」「え?」「謝れっつってんの」ああ、怒ってるんだ。李一くんの期待に応えられなかった自分が不甲斐なくて、うなだれたまま俺は口を開く。「ごめんなさい」あの七瀬くんのかわいさには絶対に叶わないし、仕方ないよ。それでも俺、どうしてかわからないけど準優勝だったんだ。これも李一くんが俺をきれいにしてくれたお陰だね。一気にそう続けようとした言葉を、俺はごくりと呑み込んでしまう。李一くんが、今にも泣き出しそうにゆらゆらと瞳を揺らしながら俺を見ていたからだ。ねえ、李一くん。君は、誰を見てるの?「………いいよ」その唇からこぼれた赦しの言葉は、悲しみに満ちていて。俺はたまらず思い切り抱きしめていた。華奢な身体がたどたどしい呼吸に合わせて腕の中で小さく動いて、背中に回った腕が縋りつくように俺を掻き抱く。すん、と鼻を啜る音に、なぜだか俺まで泣きそうになってしまう。壊れものを抱くように、俺はかわいい李一くんを大切に大切に包み込む。落ちていく陽の射し込む中、愛おしくてたまらない時間がゆっくりと過ぎていった。バンド演奏だかダンスだかの賑やかな音が、ここまで響いてくる。しばらく背中をさすりながらそうしてると、やがて泣き腫らした顔を上げた李一くんが、おもむろに口を開いた。「カレー、食べたかったんだけど」なんてかわいいことを言うんだろう。今すぐ俺が李一くんを食べちゃいたいぐらいだ。 - 46 - bookmarkprev next ▼back