けれど七瀬くんは、皆の視線をもろともせずに俺に話し掛けてくる。「わあ、びっくりした! ミイくん、きれいなんだもん」いやいやいや、それはないでしょ。全力で首を横に振る俺に、七瀬くんはきれいにカールした睫毛の下から、窺うように俺の顔を覗き込む。「ああ。でも、やっぱりそうなんだ。ミイくんって」「はあい。参加者の皆さん、聞いてくださーい」七瀬くんの言葉は、実行委員の声に中断されてしまう。あとでね、と肩を竦める七瀬くんに、俺は気がかりなまま頷くしかなかった。ステージの上に見世物のように並ばされて、俺はどこを見ればいいのかもわからずもじもじと視線を泳がせることしかできない。司会者が何かを喋ってるのが遠くで聴こえるけれど、言葉が耳に入ってこない。この角度なら観覧者からも見えないと思うんだけど、ノーパンでこんなところに立っているという状況が気になって、むしろ人前に出てること自体はどうってこともない。ひょっとするとこれも李一くんの計算なのかもしれない。ステージの周りはすごい人混みでごった返してて、李一くんがどこにいるのかなんてとてもじゃないけど見つけられそうになかった。スマホやデジカメをあちこちから向けられて、そのほとんどが七瀬くん目当てなんだろうけど何だか居た堪れない。隣に立つ七瀬くんの横顔を覗き見れば本当にかわいくて、勿論俺にとって1番かわいいのは李一くんなんだけど、それでもこんなに近くにいると妙にドキドキしてしまう。李一くんがコンテストに出なくてよかった、と心から思う。だって七瀬くんの彼氏はきっと、この状況に気が気じゃないはずだ。あ、彼氏じゃないんだっけ。「ミイくん」小さな声で、七瀬くんが俺を呼ぶ。どうでもいいけどミイくんって呼び方、定着しちゃったんだ。別にかまわないんだけどね。「その服とかメイク、リイくんが?」「うん、そうだよ」そっと頷けば、七瀬くんは納得したようにそっか、と言葉を続けた。言われてみれば、この服はきれいだけど新品という感じじゃない。このワンピースといい、使いかけのメイク用品といい、李一くんが家にあったのを持ってきたのかもしれない。じゃあ、それはもしかすると。「俺も、中学のときに1回しか会ったことないんだけど。ミイくんって、リイくんのお母さんに、ちょっと似てるんだよね。前からそう思ってたんだけど、今のミイくんは本当によく似てる」七瀬くんの言葉にびっくりして、ステージの上だというのも忘れて勢いよく振り返ってしまう。「え? 俺が?」ん、と首を縦に振る七瀬くんは、なぜだか少し悲しそうな顔をしていた。豪華な広いマンションにたった1人で住んでる李一くん。その事情を、七瀬くんは知ってるのかもしれない。 - 45 - bookmarkprev next ▼back