「へ? ホントに? うん、してして!」
俺の願いは通じなかった。すぐさま、李一くんの冷たい声が聴こえてくる。
「おい、来いよ」
その声に逆らう術を俺は持ち合わせていない。それでも裸で出ていく勇気はなくて、ドアからそっと顔だけを覗かせる。ぼんやりした俺の視界に、ふわふわした髪に愛くるしい顔をした七瀬くんが朧げに映り込んだ。
「わあ、リイくんのクラスの子だよねっ」
あれ? 七瀬くん、こんな地味で冴えない俺のことを知っててくれてるんだ。いや、この状況だとむしろ知らないでいてほしかったけど。
「来いっつってるだろ」
李一くんに促されて、俺は泣きそうになりながら全裸で登場する。そうか、これも李一くんとのプレイの一環なんだ。どうでもいい理屈で、強引に自分を納得させてみる。
「え、ええ? も、もしかして」
瞳を輝かせる七瀬くんの表情が裸眼でもわかるぐらいの距離まで歩み寄っていく。俺の全身を上から下まで舐めるように眺めて、最後にあそこに目を留めてまじまじと確認してから、七瀬くんは花が開くように顔を綻ばせた。
「リイくんの彼氏?」
違います、下僕です。
もじもじと所在なく視線を泳がせる俺とは裏腹に、七瀬くんは満面の笑顔で飛びつかんばかりに李一くんの手を取った。
「わああ! すごいすごい! リイくん、よかったねえ」
いや、こんな冴えない俺が李一くんの彼氏とか、どう見てもありえないでしょ? てっきり否定されると思ったのに、李一くんはそんな七瀬くんを微笑みながら見つめるばかりだ。そりゃそうだ。こんなに喜ばれてしまうと否定しにくいよ。
「邪魔してごめんね。俺、帰るっ」
え? 用件は?
「七瀬」
扉を開けようとしていた七瀬くんが振り返る。李一くんは、すごく優しい笑みを浮かべながら口を開いた。
「ありがとう。気をつけて」
「ううん。家、すぐそこだし平気。また来るねっ」
学校一変態だけど学校一かわいいと噂される顔が、照れたようにはにかむ。 ああ、そうか。 七瀬くんは、雷が鳴ってるから李一くんのことを心配してここまで来たんだ。 それに気づいた俺は、李一くんに心を開くことのできる友達がいることに安堵する。 その反面、俺の胸はほんの少し痛んでしまう。もしかしたらこれは俺よりも李一くんのことを知ってる七瀬くんに対する小さな嫉妬なのかもしれなくて、そんな自分の浅ましさに我ながらびっくりしてしまっていた。
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