降りしきる雨音は激しさを増すばかりで、時折雷の音が部屋に大きく鳴り響く。 母さんには同級生の家に泊まらせてもらうってちゃんと連絡を入れた。お泊りセットなんて持ち合わせてないから、必要最低限のものを近くのコンビニにでも買いに行こうとしたら、なぜだか李一くんに頑なに止められてしまった。どうやら傍を離れるのも駄目らしい。かと言ってこの嵐の中、李一くんを連れて外に出るわけにはいかない。
そんな訳で、歯ブラシは李一くんが新しいのを下ろしてくれた。パンツはさすがに借りるわけにはいかないからどうしようかと思ってたら、「パンツなんていらないだろ」とあっさり言われてしまう。 まあ、言われてみればそうだよね。家の中なら、別にノーパンでも俺は全然平気だし。
李一くんのおうちのことは、何度も通っているお陰で大体の勝手はわかってる。大きなバスタブにお湯を張ってバスタオルを準備してると、さっきから付かず離れずの距離を保ってる李一くんがおもむろに話しかけてきた。
「コンタクト」
「え?」
「だから、コンタクトは?」
俺が眼鏡をやめてコンタクトにしたのは、李一くんからそうするように言われたからなんだけど、ちゃんと気に掛けてくれてるんだと思うと、何だか妙に感動する。
「大丈夫。これ、使い捨てだから。替えは普段から持ち歩いてるんだ」
そう笑いかければ、李一くんは返事をせずに照れ隠しのように俯いた。 李一くんは俺に対していつも冷たい素振りを見せるけど、本当は優しくて思いやりのある人だ。 王子様みたいな優等生の委員長。でも、そんな完璧な李一くんのいろんな素顔を知ってるのは、クラスで俺だけ。そのことにすごく優越感を覚えてしまう。
「李一くん、お風呂一緒に入る? 俺、全部洗ってあげ」
「調子に乗んな」
「ハイ、すみません」
それでも李一くんは、やっぱりどこか不安げな顔をしてる。雷の音はよく響くから、苦手な人にはつらいと思う。空の唸り声に合わせて、李一くんが身体を震わせてるのがわかる。 可哀想で、かわいくて。今すぐにでも抱きしめたくてたまらないけど、俺は必死に自分を抑える。
「じゃあ、李一くんが先に入って。俺、ドアの外で待ってるから」
そう言って後ろを向けば、着ているものを脱ぐ気配の後に、ぱさりと服が床に落ちる音がした。俺の背後でバスルームの扉が開いて、閉まる。
この半透明の扉の向こうに、裸の李一くんがいる。湧き起こる欲望を打ち消そうと目を閉じて座り込むけれど、視界を遮断することでかえって俺の妄想は煽られていく。
李一くん、ごめんなさい。
大好きな李一くんのあんな姿やこんな姿を目一杯想像しながら、俺はシャワーの音にじっと耳を済ませていた。
俺がお風呂に入ってる間も、李一くんはドライヤーで髪を乾かしたりしながら脱衣所でずっと待ってくれていた。李一くんを待たせてると思うと、俺は浴槽に浸かることなんてとってもできなくて急いで上がったわけだけど。
「あの、李一くん」
バスルームのドアを開けてそっと顔だけを覗かせれば、無表情な李一くんのきれいな瞳が俺を映し出す。
「そういえば俺、パジャマがないんだけど」
「裸でいいだろ」
「えっ」
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