金曜日の夜。 俺はいつものように、放課後すぐに李一くんのマンションに直行して、セックスして、ごはんを食べた。今日はあそこにスースーする塗り薬をたっぷり塗られて散々焦らされたから、大好きな李一くんの前で恥ずかしい声をいっぱい出してしまった。 そんな俺を見下ろす李一くんの冷たい眼差しにまで感じてしまう俺は、もう普通の高校生に戻れない気がしてる。
帰り際、玄関先まで見送ってくれる李一くんを力一杯抱きしめたい衝動を抑えながら、別れの挨拶を口にする。
「李一くん、また来週」
週末は、李一くんに会えない。だから俺は休みの日が嫌いだ。 李一くんは唇をちょっとだけ噛み締めながら、視線を逸らす。俺は知ってるんだ。それがこのかわいい人の淋しそうな表情なんだってこと。 それでも、李一くんは絶対に俺をここに泊まらせようとはしない。今日も李一くんはこの広い家で1人の夜を過ごすんだ。
玄関の施錠を解いてドアを押し開けてみると、外は雨だった。今降り出したばかりという感じだけど、大粒の雨が結構な勢いで降ってきてる。 それだけじゃなくて、ゴロゴロと空が鳴って生ぬるい風も吹いていた。ここへ来たときには、晴れてたのに。 傘を持ってきてないけど、たとえずぶ濡れになろうと李一くんに傘を借してもらうなんて恐れ多くて俺には絶対にできない。 別に濡れてもいいか、帰ってお風呂に入るだけだし。
「じゃあね」
そう言って振り返った途端、背後から部屋に閃光が射し込んで、ドン、という大きな音が響いた。
「わ、雷すごいね。どこかに」
落ちたかな。 その言葉を、俺は呑み込んでしまう。李一くんの顔が、今にも泣き出しそうに歪んでたからだ。
「り、李一くん?」
焦って広い玄関の中を駆け寄れば、待ち受けていたかのように右手が伸びてきて、ぎゅっと俺の左腕を掴んだ。 心臓がバクバクとうるさく鳴り響く。それこそ雷なんかよりずっと大きいぐらいに。 視線を合わせようとしない李一くんの表情は、険しい。 李一くん、雷が怖いんだ。
どうしよう。こんなとき、なんて言えばいい? 俺は必死に頭の中を総動員させて、一生分の勇気を出して思い切って口を開く。
「あの、李一くん。俺、濡れるのいやだから、泊めてください」
俺の言葉に、李一くんは顔を上げた。その表情からさっきまでの怯えた感じが消えてることに、俺は心底ホッとする。
「………仕方ないな」
こうして俺は、李一くんのおうちにめでたく初お泊りをすることになりました。
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