Because I Love[8/9]

確かにあのチョコレートを食べたときには、身体が熱くなったし七瀬もいつになくかわいく見えた。けれどそれが惚れ薬の効果だというのは、俺に言わせりゃ錬金術と同じレベルでありえない。
しかし七瀬は完全に信じ切っている様子だ。今まで見たこともないぐらい神妙な面持ちで言葉を続けていく。


「カイくんが俺のこと好きになってくれたら嬉しいなって、ただそれだけだったんだよね。でもそうやって、好きって言ってもらえたんだけど、嬉しいっていうより何か悲しくなっちゃって」


一旦言葉を区切って、思い切ったように顔を上げた七瀬は、にっこりと微笑む。それが無理に作った笑顔なのは、見て取れた。


「俺、いつかカイくんに本当に好きになってもらえるように頑張るねっ。それまで、諦めないで目一杯カイくんをストーカーするから」


泣きそうな顔で笑う七瀬を前に、俺の胸はズキズキと痛む。そんな変な薬のせいなんかじゃない。俺は多分、もうずっと前からお前のことが好きなんだ。今ここでそれを言ったところで、七瀬はやっぱり薬の効果だと思うんだろう。


「わかったよ」


溜息をつきながら手を伸ばしてふわふわした髪を撫でてやると、七瀬は嬉しそうな顔でぴょこんと抱きついてきた。


「でもカイくん。俺の食べてるチョコレートを無理矢理取り上げようとしたのって、もしかして俺のことを守ってくれようとしたから? ああっどうしよう。あの時のカイくんもうホントにかっこよくて、思い出したらまた勃ってきた……!」


ボディソープのいい匂いを振り撒きながら、七瀬は股間を俺の太股に擦り付ける。そこは確かに硬くなっていて、布越しでもその熱が伝わってきた。
いや、今シャワー浴びたところだから。


「ねえカイくん。今度は変わった体位、試そ?」


うるうると瞳を揺らしながら誘ってくる七瀬に、俺は結局流されてしまう。

華奢な身体を押し倒しながら、俺は心の中で自分の弱さを糾弾する。






俺は、七瀬が俺に興味を失くすときが来るのが怖い。






翌朝。七瀬が日直当番で1限目の教材を取りに行くのを見計らった俺は、教室を飛び出して隣のクラス2ーBに顔を出す。

始業前だというのにきちんと席に座って教科書とノートを広げているその後ろ姿を確認して、俺は真っ直ぐに歩み寄っていった。


「おい、李一(リイチ)


呼びかけに振り返ったその顔は、いつもどおり涼やかで気怠げだ。
いかにも優等生然とした物静かでクールなこいつは七瀬と同じ中学出身で、俺と七瀬の1年次のクラスメイトであり、七瀬が全幅の信頼を寄せている友人でもあった。
変態ストーカーとはまるで対極に見える李一が、どうして七瀬と気が合うのかが全く謎だが、その辺の事情は俺の知るところではない。


「ああ」


ちらりと俺を一瞥した李一は眉を上げて、ちょっと意外そうな顔を向けてくる。


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