そんな七瀬の喜ぶ顔が見たいと思った。 だから、俺はずっと言えずにいた言葉を、とうとう口にする。
「好きだ」
たった一言を伝えただけで、心臓がドクドクと大きく跳ね上がる。 けれどその瞬間、七瀬は目を見開き ──── あからさまに困惑の表情で俺を見た。 予想外の反応に、俺は驚いて動きを止める。
「七瀬、好きだ」
もう一度、口にしてみる。けれどそれは虚しく宙に浮いてしまって、七瀬の心には届かない。 唇を噛み締めて俯いたまま、ふるふるとかぶりを振るその顔は、今にも泣き出しそうに歪んでいた。
「……七瀬?」
それでも、数秒後に顔を上げたときには、もういつもの七瀬に戻っていた。へへ、と笑いながら抱きついてきて、不自然なぐらい明るい調子で言う。
「ごめん、何でもない。俺も、カイくんのこと大好き。だから、いっぱい突いて?」
そうねだりながら自ら腰を動かす七瀬に煽られて、俺は納得のいかないまま抽送を再開させてしまう。 一度限界の寸前まで来ていた感覚は、容易く同じ場所まで辿り着き、更にその先へと高められていく。互いを貪るように求め合いながら口づけて、けれどどこかチグハグした納得のいかない感じが鋭い棘のように心に引っ掛かっていた。 七瀬、お前が欲しい言葉はこれじゃなかったのか?
「カイくん、ああッ……イく、イく……」
腕の中で震える七瀬に引きずり込まれるように、溜め込んでいた熱を残らずその奥へと注ぎ込んだ。
1度出してしまえば妙な身体の熱は収まって、それと共に気持ちの昂ぶりも少しずつ引いてきていた。 けれど、七瀬の様子がおかしい。いつになく無口で、表情も暗いのが気になる。いつもなら終わった後はベタベタ抱きついてくるくせに、それもない。
「カイくん」
後処理を終え、シャワーを浴びて服を着たところで、七瀬が思いつめた顔のまま俺の名を呼んだ。
「………ごめんね」
やけにしおらしい声で謝ってくる。向かい合って座り込み、七瀬はしょんぼりと項垂れて視線を落とす。
「何がだよ」
「あのチョコレート、実は惚れ薬なんだ」
「はあ?」
素っ頓狂な声が飛び出した。惚れ薬だと? そんなあやしいものが、この世に存在してたまるか。
「そんなもん、どこで手に入れたんだよ」
「なんか、偶然もらったんだもん」
そんなものを偶然もらう奴がどこにいる。
「誰に」
「それは」
言えない、と口ごもるが、そんなあやしいものを七瀬に渡した相手について、おおよその見当はついていた。
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