「あれ、どうだった?」
「やっぱりお前か。あんなあやしいもん、七瀬に回しやがって。しかも惚れ薬って、何だよ」
息巻く俺を物ともせず、李一はわずかに口角を上げる。
「その様子じゃ、面白い展開でもあったみたいだけど。何があった?」
誰が言うか、しかもこんな公衆の面前で。押し黙る俺に、李一は落ち着いた口調で淡々と説明する。
「あれ、なかなかおいしくなかった? 唐辛子入りのチョコレート。マヤ文明ではカカオを煮だして唐辛子を入れたものを媚薬として飲んでたんだって。だから、惚れ薬っていうのはあながち嘘じゃない。実際、そういう触れ込みで販売されてるからね」
ああ、口の中でピリピリしたのも身体が熱くなったのも、唐辛子のせいか。納得しながら何か文句のひとつでも言ってやろうとする俺を制するように、李一は口を開いた。
「七瀬はカイといると、すごく幸せそうだ。これからも七瀬をよろしく」
その言い方に何か思惑が含められている気がして、問いただそうとしたそのとき。
「あっ、こんなところにいた。カイくーん!」
教室の後ろのドアから、聞き慣れた大きな声がした。
「リイくん、おはよう! あの話は、またあとでカイくんのいないところでねっ」
パタパタと駆け寄ってきて俺の腕を掴んだ七瀬は、慌てた調子で李一に声を掛けて、俺を引っ張っていく。 いや、もう全部聞いたから。 引きずられるまま隣のクラスを後にした俺は、妙に嬉しそうな七瀬の輝く笑顔に釘付けになる。 もはや否定しようもないぐらい、七瀬は抜群にかわいい。
「カイくん。1限目の美術、粘土を使った造形なんだけど、何作ってもいいんだって。ふふ」
「うん、それで」
適当に相槌を打ちながらも、次に出てくる言葉が俺には何となく想像がついている。
「だから、カイくんのおちんち」
「断る」
「もう! まだ、なんにも言ってないよねっ。カイくんの意地悪」
意地悪じゃなくて常識人なだけなんだが、七瀬はそんなことなどお構いなしに一度膨らました頬を引っ込めて、屈託なく笑う。
「でも俺ね、そんなカイくんも大好き!」
真っ直ぐ過ぎる告白が、ざっくりと心に突き刺さる。
はいはい、といつものように受け流す振りをしながら、俺はまだ当分言えそうにない言葉を胸の内にそっと仕舞い込む。
"Because I love" end
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