「リン」
互いに服を脱いで向かい合わせに立てば、高鳴る鼓動が一層大きくなる。
僕は目の前に立つアヤハを頭の上から爪先まで順に眺めていく。均整の取れた、美しい身体だ。その胸の爛れた烙印が痛々しくて、そこから視線を逸らし顔を上げた。
「本当に、いいの?」
「セックスしようって言ってたのは、アヤハじゃないか」
僕を見つめる瞳はまるで戸惑うかのように揺らいでいる。本当に人間みたいだ。
「だけど僕は、こういうことをするのは初めてだから」
「ああ、それは大丈夫」
うっとりするぐらいきれいな微笑みを浮かべながら、アヤハはゆっくりと顔を近づけてくる。
「リン、おいで」
引き寄せられるままに身体を預けながら、吐息にくすぐられて唇を緩める。
柔らかな感触を覚えると同時に、挿し込まれた舌の熱さに身体の芯がぐずぐずと揺さぶられて体温が上がっていく。
大切なものに触れるように抱え込まれてベッドに寝かされれば、重なる肌から感じたことのない心地よさが生まれてくる。
ゆっくりと時間を掛けて、アヤハは身体の隅々まで僕を愛撫してくれた。どこもかしこも与えられる優しい刺激に敏感に反応して、自分が自分でなくなっていく感覚に翻弄されながら僕はその全てを呑み込んでいく。
「……ん、あっ、は……ッ」
どうすることもできない熱が、身体の中で渦を巻いている。
ドロドロに融かされて、このままだと僕という形がなくなってしまう気がする。
巧みな手つきで僕の昂ぶりを扱きながら、アヤハは誰にも触れられたことのない僕の中を少しずつ解していく。
「や、イく、イく……ッ」
快楽に流されるままにドクリと震えた先端から白濁が吐き出された。何度目かもわからない絶頂にぐちゃぐちゃに掻き混ぜられた意識は頼りなく空を漂う。
「リン、平気?」
何がどうならば平気だと言えるんだろう。それでもこくりと頷く僕に笑いかけながら、アヤハは僕の腹の上に零れたそれを愛おしそうに指で掬い取った。
長い指が僕の中で抽送を繰り返す。リズミカルな水音が耳まで届いては、僕を甘く刺激する。異物感に息を吐きながら、ぞわりとした何かが絶え間なく背筋をくすぐる感覚に抑えきれない声が零れる。
「………あっ、ん、アヤ、ハ……ッ」
「痛くない? 大丈夫?」
首を縦に振れば、アヤハは小さく微笑んで僕を見下ろす。
「じゃあ、そろそろ挿れるね」
脚を割り開かれて、僕の全てがアヤハに曝け出される。それがひどく心許なくて、両手の甲を被せるように顔を覆い隠せば、滑らかな優しい声が聴こえた。
「リン、駄目だよ」
そそり立つその半身が、僕の下肢にあてがわれる。ぬるりとした熱の感覚に肌が粟立った。
「ちゃんと顔を見せて」
切実な甘い声に導かれるように、僕は恐る恐る腕を外してそっと見上げる。
僕と同じ碧眼は、紛うことなく情欲に濡れていた。
「ああ。すごく、きれいだ」
感嘆の声を漏らした唇が、微笑みの形を作った。その美しさに僕は見惚れてしまう。
きれいなのは、アヤハだ。
恍惚とした表情でアヤハは抱え上げた僕の脚にそっと唇を押しあてる。その感触に僕の内側はまた大きく疼いた。
「大好きだよ、リン」
次第に拓かれる感覚にゆっくりと息を吐きながら僕はアヤハを受け容れていく。最奥まで到達すれば、未知なる強い圧迫感に目眩がした。
これ以上ないぐらいに、僕は満たされていた。
「あ、あぁ……っ」
喘ぐように呼吸しながら両腕を伸ばす。繋がる部分から伝わる凄まじい感覚に流されまいと、ゆっくりと前に屈み込んでくる身体にしがみついた。
「ああ、気持ちいい……」
耳元で囁く掠れたその声に、僕の中がまた過敏に反応する。やがて始まった緩やかな律動に揺さぶられる度に、身体の芯から湧き立つ波が僕を攫おうとしていた。
「……あ、ぁ……ッ、アヤ、ハ……ッ」
これが苦痛でない証拠に、僕の半身は硬く勃ち上がり雫を垂らしていた。抑えきれない声を引っ切りなしにこぼしながら、僕はアヤハに縋るように抱きつく。
熱くて熱くて堪らない。この甘やかな熱を感じているのが僕だけだなんて、思いたくなかった。
「アヤハ、好き」
機械相手に本気でそんなことを口走るなんて、人に話せば笑われるだろうか。
同じ熱を感じてほしいなんて、思う僕がおかしいのだろうか。
「……リン」
密着していた肌がふわりと離れて、アヤハが僕を見下ろす。真摯な瞳をキラキラと煌めかせながらその唇から零れる言葉は、僕が1番望んでいたもの。
「愛してる」
重なり合う唇の隙間から挿し込まれる舌が僕のそれを絡め取った。貪り合いながら、ドロリとした熱を2人で共有していく。
アヤハは夢見るアンドロイド。だから、僕たちは同じ世界に生きるために交わる。
これがどちらの夢なのか、もう僕には区別がつかない。
「 ─── は、あぁっ、ぁ、あ……ッ」
激しさを増す律動に、身体の奥から生まれる震えが止まらない。酸素を求めて唇を離せば、強く抱きしめられて奥を刺激するように貫かれる。その瞬間、体内を巡っていた熱が弾けて迸った。上擦った声をあげる僕の喉元に、強く吸いつく感覚がした。
「アヤハ、愛してる……」
熱に掠れた僕の声は、ちゃんと届いただろうか。
白んでいく頭の中になぜか浮かぶのは、アヤハの胸に刻まれた末尾のナンバー。
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─── アヤハ。ずっと一緒にいたいんだ。
だから、僕と約束してほしい。
もうけっして、誰も傷つけないと。
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