不安定な足下に気をつけながら、薄墨色の空を見上げる。澄んだ空気に夜明けがすぐそこまで近づいていることを知る。
ガラクタの山を歩いているうちに、塀の傍まで辿り着いた。僕の身長で何とか乗り越えられるほどの高さだ。
僕がいつも生きる糧としていたこのスクラップ場が、東9区の果てだった。
この塀を越えればそこには、見知らぬ外の世界が待ち受けている。
「僕が先に行くよ」
優しい声音でそう言うや否や、アヤハは2人分の荷物を持ったまま軽々とその塀を飛び越えてしまう。その所作は人間離れしているけれど、僕にはもう気にならない。
塀の縁に手を掛けて、何とかよじ登ることができた。身体を動かせば感じるのは、いつもと違う重い痛み。体内にくすぶる情事の名残に、つい苦笑してしまう。
すぐ下には、心配そうな顔で僕を見上げるアヤハの姿が見えた。ここから地面までは、僕の住んでいたビルの2階ほどの高さだ。
「リン、おいで」
両腕を広げるアヤハのもとへと、僕は躊躇うことなく飛び降りる。落ちていく感覚が心許なかったけれど、次の瞬間にはしっかりとその腕に抱きとめられていた。
「ありがとう」
軽い口づけを交わしてから、僕たちは手を繋いで歩き始める。色褪せたレンガ敷きの道が、地平線の向こうまで続いていた。
やがて背後から薄暗い世界を照らす光が射し込んで、2人の影が前に長く伸びていく。
目の前に広がるのは、キラキラと黄金色に輝くレンガ道。
ああ、夢に見た光景だ。
ねえ、アヤハ。君は知っているだろうか。
精巧なアンドロイドは、実在する人間をベースに型を取るということを。
つまり、君と同じ姿をした人間がこの世界のどこかに存在するはずなんだ。
『あなた達の目指す大都の名は ─── 』
ミハルの声が、脳裏に蘇る。その唇が唱えるのは、碧眼の民が住む魔法の国の名前。
そこにはきっと、アヤハの欲しがる "自我" があるだろう。
これは、僕たちを在りし姿へと導く道。
目指すのは、遥かなるエメラルドシティ。
"Out of Zero" end
- 11 -
bookmark
|