Out of Zero[11/11]

不安定な足下に気をつけながら、薄墨色の空を見上げる。澄んだ空気に夜明けがすぐそこまで近づいていることを知る。

ガラクタの山を歩いているうちに、塀の傍まで辿り着いた。僕の身長で何とか乗り越えられるほどの高さだ。

僕がいつも生きる糧としていたこのスクラップ場が、東9区の果てだった。

この塀を越えればそこには、見知らぬ外の世界が待ち受けている。


「僕が先に行くよ」


優しい声音でそう言うや否や、アヤハは2人分の荷物を持ったまま軽々とその塀を飛び越えてしまう。その所作は人間離れしているけれど、僕にはもう気にならない。

塀の縁に手を掛けて、何とかよじ登ることができた。身体を動かせば感じるのは、いつもと違う重い痛み。体内にくすぶる情事の名残に、つい苦笑してしまう。

すぐ下には、心配そうな顔で僕を見上げるアヤハの姿が見えた。ここから地面までは、僕の住んでいたビルの2階ほどの高さだ。


「リン、おいで」


両腕を広げるアヤハのもとへと、僕は躊躇うことなく飛び降りる。落ちていく感覚が心許なかったけれど、次の瞬間にはしっかりとその腕に抱きとめられていた。


「ありがとう」


軽い口づけを交わしてから、僕たちは手を繋いで歩き始める。色褪せたレンガ敷きの道が、地平線の向こうまで続いていた。

やがて背後から薄暗い世界を照らす光が射し込んで、2人の影が前に長く伸びていく。

目の前に広がるのは、キラキラと黄金色に輝くレンガ道。



ああ、夢に見た光景だ。



ねえ、アヤハ。君は知っているだろうか。

精巧なアンドロイドは、実在する人間をベースに型を取るということを。

つまり、君と同じ姿をした人間がこの世界のどこかに存在するはずなんだ。




『あなた達の目指す大都の名は ─── 』


ミハルの声が、脳裏に蘇る。その唇が唱えるのは、碧眼の民が住む魔法の国の名前。


そこにはきっと、アヤハの欲しがる "自我" があるだろう。


これは、僕たちを在りし姿へと導く道。

目指すのは、遥かなるエメラルドシティ。





"Out of Zero" end






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