咲耶は家事も話し相手もこなせる優秀なアンドロイドで、僕たちはこの奇妙な同居生活をうまくやっている。
それに、僕が大学で専攻しているAS(アンドロイドサイエンス)に咲耶の存在は少なからず影響を及ぼしていた。
ロボット工学とよく間違えられるんだけれど、ASは人間とアンドロイドの相互作用を研究する学問だ。
認知科学と工学を融合させたASに関する研究は、アンドロイドの一般家庭への流通が始まろうとしている今、ますます必要になってくるはずだった。
「佳月から連絡はあった?」
「ううん、まだ。でも、こっちに帰ってくるのは夜遅くになると思う」
「じゃあ、今夜からしばらくメンテナンスに入るよ。佳月が月に戻ったら、起こして」
僕の顔を見つめながらそう言う咲耶は、どこか淋しげだ。
咲耶はいつも、佳月が帰っている間はセルフメンテナンスに入る。機能を一時的に停止させて休ませるその行為は、人間の睡眠ととてもよく似ている。
「咲耶も会えばいいのに。咲耶のホストは佳月なんだし」
「2人の邪魔をしたくないんだ。それに」
言葉を区切ってから、ふわりと笑う。
「朝陽の声は、きっと耳に毒だから」
何のことを言っているのかを理解した途端、顔に熱が集まっていく。
そんなに大きな声は出してないよ、咲耶。
言い訳するのも恥ずかしくて、僕はただ黙って温かいジャスミンティを飲み続けた。
*****
「佳月!」
扉が開いた途端飛びついた僕を、3ヶ月振りに会う恋人はしっかりと抱きとめてくれた。
「朝陽、元気にしてた?」
「うん、佳月は?」
「元気だよ」
抱き合ったまま2人でクスクスと笑う。
2日に1度は必ずディスプレイ越しにやり取りをしていてこんな挨拶をするのも変だと思うけど、久しぶりに会うと互いに何を言えばいいのかわからない。
こうして佳月に触れられることが格別に嬉しくて、もう居ても立ってもいられない気分だ。
前に会ったときより、少し髪が伸びた。けれど、優しい眼差しは変わらない。
顔を上げれば視線が絡み合って、唇が重なる。挿し込まれた舌に理性はあっさりと絡み取られて、身体の芯に熱が灯った。
「佳月、しようか……」
素直にそう誘えば、佳月は少しだけ戸惑いを見せる。
「シャワーを浴びてから」
「そんなのいいよ、待てそうにない」
それに、僕はもう浴びてるしね。
そう言ってもう一度口づける。濡れた音を立ててざらりとした舌を吸い寄せれば、それに応えてくれるまでそう時間は掛からなかった。
もう、勝負は決まってる。
戯れのキスを繰り返しながら、ベッドに縺れこんだ僕たちは互いを探るように愛し合っていく。
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