第1章 幼馴染の男の子



「よいしょっと……ねえ瞳子姉、こんなんでいいかな」



早朝。まだ荷物の片付いていない段ボールの散らかった部屋には、きらきらとした朝日が差し込んでいる。今日の天気は晴れだ。
新品の制服に袖を通した私は、隣で嬉しそうに微笑んでいる瞳子姉に制服が似合っているか不安げに問いかけた。



「ええ。葵、とっても似合っているわ」



すると、普段はあまり素直に笑ってくれない瞳子姉が、見たこともないような満面の笑顔で頷いてくれて。
ああ、やっぱり久しぶりに会っても瞳子姉は変わらず優しいなあ、なんて思う。
誰かに祝ってもらえるという嬉しさを前に、つい目を細めた。
もう一度最後の確認にと、全身鏡で自分の姿を映す。相変わらず長い碧の髪を、桜の花びらがついたヘアピン、真新しい制服には雷門中の生徒だということを示す青色のリボンがついている。



「……ありがとう」



咲き乱れる桜のように、朗らかに微笑む。すると、瞳子姉は私の頭を優しくなでてくれて。
新しい家、戻ってきたこの町、久しぶりに会えたお姉ちゃん。
彼女ただ一人に見守られて、私は今日、雷門中に転入する。




第1章 幼馴染の男の子




初めての学校ということがあるからか、HRが始まる前に着いておけばいい私にとっては少し早すぎる時間に家を出てしまって。だからと言って朝練をしている部員しかいない学校にそのまま行くわけにもいかず。
そこで、私は昔によく遊びに行っていた場所へと足を運んでいた。
ちなみに瞳子姉は、私の制服姿を見れたからと、私が家を出るときに一緒に出て行って帰ってしまった。久しぶりの再会ということもありもう少し一緒に居たかったのが本音だが、そもそも私が早くに家を出てしまったのがいけないし、それに彼女にも色々やることがあるのだからと(渋々だが)諦めることにしたのだ。



まだ早朝だということもあるんだろう。到着したそこにはほとんど人はいなくて、今いるのは私と同じ学校――――即ち雷門中の男子制服を身にまとった人だけだった。その人は私と同じ青い髪をなびかせながら、稲妻町の景色を眺めている。私には気付いていないようだった。



「……はぁ……」



それにしても。と、朝日が眩しい町の景色を眺めながら考える。
10年ぶりに来たここ――――稲妻町名物の鉄塔広場は、昔と全く変わっていないみたいで酷く懐かしい。少し錆びれた鉄塔に、少し大きめな池。景色をゆったり眺められるように建てられている手すりも、すっかり昔のままで。
私の中で印象に残っているのは夕方の鉄塔広場の景色だったのだが、朝日に照らされて爽やかなそれも、私としては新鮮で綺麗だと思った。
学校からここまでは近い。残念ながら住む家とは正反対の方向にあるが、別に家からでも20分とかからない距離だろう。
以外と短いこの程度の距離であれば、散歩程度にまた来ようと思えるものだった。



「昔、ここで約束したんだっけ……」



――――そう、昔。



私にもまだ本当の両親がそばに居た頃、家族で一緒に住んでいた頃。
よく一緒に遊んでいた仲の良い幼馴染達と一つだけ約束をしたのだ。
もう会えないということを知って嗚咽を漏らす彼らと、丁度この場所で。指切りげんまんをしながらそっと、「また、いつか会おうね」と。



酷く懐かしい記憶。その約束を交わして以来結局この町には一度も帰ってきていなかったから、つまりまだその約束を果たせていないことになる。その“彼ら”がまだ約束を覚えてくれていたらいいのだが、如何せんもう8年前のことだ、覚えてないかもしれない。かくいう私も、名前すらほとんど記憶に残っていないのだ。あるのは二人の男の子だったというおぼろげな記憶、ただそれだけ。
もしかしたら手がかりがあるかもしれないと思って此処まで来てみたのは良かったが、全くそんなものは落ちてなどいなかったし。



「また、会えるといいんだけどな……」



結構な遠くの孤児院に預けられていたということもあったか、その後の彼らの消息は知らない。もしかしたらこの町にまだ住んでいるかもしれない……とか、その程度。
今日から過ごす日々の中でその中の、どちらか一人にでも会えたらいいのに……なんて、淡い期待を抱いてみるけれど、それはほとんど確実に無理で、確率が低すぎるだろう。
そもそも、同じ学校なのかさえも怪しいのだ。
幼い頃すぎるがために、今どんな風貌をしているのかも分からない。
そんな状態で彼らを見つけるなんて、砂の中から小さな砂粒を一つ見つけるようなものだろう、期待はあまりできそうにない。



「はぁ………HRが始まるまでに学校に戻らなくちゃな……」



左腕に取り付けていた時計の時間を確認すれば今の時刻は8時。
朝礼が始まるのは確か8時40分だったからそろそろ学校の方へ向かわないといけない。
転校生が初日から遅刻だなんて、格好が悪すぎるだろう。



「…学校、行こうかな」



最後に、ちらりと先程の少年を盗み見る。
その綺麗な水色の髪色は、朝日でずっときらきらと輝いていて、一瞬だけだったがその長い前髪から覗き見えた表情は、昔仲の良かった幼馴染との記憶と少しだけ重なったような気がした。



***



学校に着いた時には、既に8時20分を回っていた。
学校の案内図を見て、とりあえずは職員室に向かう。分かりやすい造りをしているおかげで、初見の私でも一度も間違えることなく職員室に辿り着いた。



「ここが、職員室………」



少し大きめの職員室の扉をコンコンと控えめにノックすると「失礼します」という声と共に扉の中に入った。辺りを軽く見渡してみると、少し古めの校舎を見た予想の通り、少し汚れのついた先生のための机がズラリと並んでいるのが見える。
朝礼前だからか、生徒の影はほとんど見られない。
「転入生の神崎です」と少し大きめに声を発してみると、それに気付いた私の担任だと思われる先生が「あんたが転入生の……」と呟き、こちらへ来るように促した。
ラフに着崩したワイシャツの上に白衣を軽く羽織っただけのその男性は、少しだけぼさっとした頭をポリポリと掻きながら「あー、俺が担任の竹本だ」とだるそうな口調で自己紹介してくれた。
……彼の周りが異様に煙草くさいことには目を瞑っておこう。



「神崎の他にもう一人来るはずなんだが……見ていないか?」
「いえ……」



見ていません、と言おうとしたとき、「失礼します」とはっきりした声音を室内に響かせて一人の男子生徒が職員室に入ってきた。
それを見るなり先生が「おお、お前か。もう一人の転校生ってのは!」と彼もこちらに来るように促したのを見ると、どうやら彼がもう一人の転校生らしい。
鋭い目つきで私を一瞥した彼は、先生の前に来ると「転校生の豪炎寺修也です。これからよろしくお願いします」と礼儀正しい動作でお辞儀をする。
先生は「堅苦しいねえ君は」などと言ってそれを適当にあしらったが。
転校生も揃ったところで、丁度朝礼の始まりを告げるチャイムがが学校全体に鳴り響く。
そういえば、私が職員室に来た時には既に教室に向かい始めている先生の姿もちらほらと見えていた。



出会ってからまだ数分しか経っていないが、それでもこの先生の性格を考えれば、「どうしてさっさと教室に行かないんですか」と訝しげに問いかければ、私やもう一人の転校生を待つために職員室を出ていなかったんだ、別にギリギリまで職員室を出たくないって思っていたわけじゃないんだって、などと必死に言い訳しそうだ。
まあ、面倒くさいので言うことなどはしないけれど。
転校生も二人揃ったところで、と竹本先生はやっと立ち上がる。
チャイムは既に鳴り終わってしまった。



「まー、いつものことだからねえ……気にしなくていいから」



そう言った先生は私達に着いてくるように言ってくる。目指すは、私の一年間過ごす教室――――二年一組だ。



***



「ほら、先生が来たんだからさっさと席に着け―、今日は転校生がいるぞー」



ガラリと教室の扉を開け放ち、ズカズカと入っていく先生に続き私と豪炎寺も教室に入る。
職員室と同じで、少しばかり古ぼけた教室だ。
年季の入った机や椅子がズラリと並んでいる。
教卓は比較的まだ新しい素材でできているらしく、傷もほとんどない状態だった。



「ええー、そんなの聞いてないよ」
「そこの二人?二人もこのクラスに来るの!?」
「マジで?また楽しくなりそうじゃん」



そんな感じの台詞を何人かが呟いたところで、先生が「さっさと座れ、一時間目が始まっちまうじゃねえか」と少し低めの声で呟いた。
それを聞いた先程まで教室内をうろついていた生徒たちもやっと席に座る。
どうやら、この面倒くさがりな先生の影響なのかこのクラスの人たちは時間にルーズなようである。
すると、今度はクラス全体の物珍しいもの見るような目が自分に(正確には、自分たちにだが)集まり始める。
恥ずかしくなった私は咄嗟に視線を下に落とした。
生徒たちが座ったのを確認した先生は、黒板にチョークを走らせていく。
そこには私と、豪炎寺の名前が黒板に書かれていて。
面倒くさそうにしている癖に、字だけはやたらと綺麗だ。



「ほれ、これが転校生の名前だ。豪炎寺は木戸川清修とかいう中学から、神崎はイタリアから来たそうだ。二人、特に神崎は日本に戻ってきたばかりで色々わかんないこともあるだろうから、聞かれたらちゃんと教えてやれよー」
「……豪炎寺修也だ」
「神崎葵、です。これからよろしくお願いしま―――」
「ああああああっ!?」



突然に遮られた言葉。いったい何なんだ、と訝しげに声を張り上げた人物に目を向けてみれば、そこにはオレンジのバンダナを頭に着けた男子が私の隣を指さしながら立っていて。



「お、お前っ昨日のっ!」



そう言った彼の目は驚きに染まっている。だが、指差された張本人の豪炎寺はその呼びかけには答えずふいっと彼から視線を逸らして何も言わない。
どういう関係かは知らないが、見る限り仲が良い、というわけではなさそうだ。



「あー、感動の再会とかそういうのはどうでもいいから。円堂、さっさと座れ」
「え、あ、はい、すいません……」



しっしっと虫を追い払うような手を動かし竹本先生が円堂という名前である彼に座るように命じた。彼はまだ頭が混乱しているのか、はっきりとしない口調で了承するとゆっくりとした動作で席に座る。それを見た先生は、腕時計で軽く時刻を確認すると、



「あー、んじゃま、あんたらの席は窓側の一番後ろとその前の席ね。どっちでもいいから適当に座っといて。じゃあ、はい。朝礼終わり―」



面倒くさそうにそう言い放った彼はひらひらと手を振りながらさっさと教室を出ていく。
残された私と豪炎寺は教卓の前にぽつんと立たされて。
確かにもう一時間目が始まる時刻だけれども、この終わり方はあんまりではないか。
心の内で不満を感じてすこしむっとしていたが、このままここに突っ立っていても変わらないだろう。
とにかく席位は今決めてしまわなければ。



「……どっちの席が良い?」
「……じゃあ、俺が前の席に行く」
「ん、分かった」



隣で少々呆然としていた彼に、どちらが良いかを尋ねたところ、彼はしばし逡巡して前の席に決めた。
それを了承すると、私たちは共に荷物の置かれていない空いている二席へと歩き出した。



***



窓の外には青い青い空が広がっている。
その真ん中に位置する太陽は、ぎらぎらと輝いていて、真っ青な空によく映えている。
昼休み。
ここの学校は給食らしいのでそれを配膳を待ちながら読書をしていた私に、近づいてくる一人の少年の姿があった。



「なあ、神崎!」



力強い声に呼ばれて、何なんだと思い読んだ人の方へと顔を上げれば、そこにいたのは朝礼の時に豪炎寺を指さして叫んでいた円堂で。
どんどん私の方に近づいてきながら、太陽のような明るい笑みを此方に向けてくる。
……その笑みを、前にどこかで見たことがあるような気がするのは、気のせいだろうか?
心の奥に入り込んでくるちょっとした懐かしさに違和感を覚えながらも、私は彼に用件を聞いた。



「……円堂って言ったっけ。何か用?」
「サッカー部に入る気ないか!?」
「……はい?」



私の机をドンッと叩きながら熱烈的に聞いてきた彼は、どうやらサッカー部の勧誘をしに来たらしい。
目を輝かせながら唐突にそう言った彼にとりあえず聞き返すが、彼の耳には入らないらしく、「あ、マネージャーでもいいんだ!」などと言葉を付け足す。
そんなことを聞いているわけでは、ないんだけれども。
すると、彼の後ろからヘアピンを着けた可愛らしい女子がひょっこりと出てきて、彼の勧誘を止めた。



「もう、円堂くん!転校してきたばかりの子に急に勧誘なんかしちゃダメじゃない!急ぐ気持ちもわかるけど……」
「あ、木野!」



嬉しそうに笑う円堂には反省の色は全く見られない。
秋と呼ばれた少女は呆れたように苦笑するとこちらに向いた。



「ごめんね、神崎さん。この様子を見ると分かる通り、円堂くんってサッカーバカなの。許してあげてね」
「ううん、気にしなくていいよ。えと……」
「木野秋っていうの。気軽に秋って呼んでね」
「じゃあ、よろしく。……秋」
「うん、よろしくね!」



にっこりと微笑んだ彼女に握手をしようと手を差し伸べる。
その意味に気付いた彼女はさっと手を出してぎゅっと握ってくれた。



「あ、俺も俺も!よろしくな、神崎」
「うん、よろしく円堂」



そういう経緯で円堂とも握手をした。
彼の手は温かい。
だが、それ以上に彼がどれほど真剣にサッカーをしているということがはっきりとわかるくらいに手はごつごつとして固かった。



「……円堂って、もしかしてポジションはゴールキーパー?」
「ん?ああ、そうだけど……なんでわかったんだ?」
「手が、ごつごつして固かったから、もしかしてと思って」
「そんなんでわかるのか?」
「まあ、ね。私の友達にもゴールキーパーをやってる子が何人かいるけど、どの人たちもボールを頑張って止めるからごつごつしてる。だから、円堂もそうなのかなって思って」
「へえ………」



納得したように頷いた円堂だったが、すぐに目を見開くと、こちらに詰め寄ってくる。
いやいや、なんなんだ本当に。



「なあ!ゴールキーパーやってる友達が何人かいるってことは、サッカーしてるやつと知り合いが多いってことだよな!お前もサッカー好きなのか!?」



ああ、なるほど。そうきたか。



なんとなく溜息が出そうになったのをばれない様に慌てて隠し、心の中で考えた。
個人的には、あまりサッカーをやっていたということは言いたくはない。
有り得ないとは思うが、もしも何かの手違いでエイリア学園の奴らに私が雷門中に居ることがばれてしまったら、色々面倒なことが起こると分かっているからだ。
しかし、幸いにも此処からエイリア学園は程遠いし、そもそも此処のサッカー部は11人にも満たないと前に調べたので知っている。
(この学校に転校すると決めた際に、サッカー部が強いかどうかは調べておいた。もし調べて強かったら、エイリア学園に目をつけられているかもしれないからだ)
そんなわけで、私は先程の質問に正直に回答することに決めた。



「……うん、好きだよ」
「そうなのか!?じゃあサッカー部に入って―――」
「でも、それとこれとは別」



そう言った瞬間、円堂の表情が明らかにしょんぼりと暗くなった。
だが、そんな顔されても仕方がないのだ。
だって、いま私の居場所が“奴ら”に見つかるわけにはいかないから。
でも、暗い顔の円堂をじっと見ているとなんだか申し訳なくて、罪悪感がそろそろと心を蝕んでいく。
だから私は、その台詞に慌てて言葉を付け足した。



「……でも、ちょっとした助っ人とか、アドバイスなら時々してあげる。………かも」
「……!ほんとか!?」



ふいっとそっぽを向きながら、小声で。
その付け足した言葉に反応した彼からは既に先程のしょんぼりとした雰囲気は欠片ほども感じない。
早まった行動をとってしまったか、と内心では苦笑しながらも、ころころ変わっていく彼の表情を見ていると心がどんどん癒されていって――――



(……あれ、こんな感じの男の子を、どこかで見たことがあるような……)



先程感じた違和感。
それが、心の内でどんどん広がっているのが分かった。
記憶を手繰り寄せようと、俯きながら頭に手をやった私に疑問を感じたのか円堂が「どうしたんだ?」と言いながら顔を覗きこんでくる。
が、そんなこと今の私には関係なかった。
あと少しで、思い出せそうな気がしたから。
どうして?いつ?どこで会ったことがある?懐かしいこの感覚、太陽のような優しい微笑みを、前に何度も――――……



……何度、も?



「……あ………」
「ん?どうしたんだ?なんか顔色悪いぞ?」



『もうあおいに会えなくなっちゃうのっ!?おれ、そんなのいやだ!』
『わがままいわないでよ守。ほら、いちろーたも泣かないで』
『ぅ……ひっく……で、でもあおいねーちゃん、とおいとこにいっちゃうんだろ!?あえないなんてそんなの、さみしいよお……!』
『……じゃあ、3人でゆびきりげんまんしようよ。ぜったいに、いつかまた会うんだって』
『やったら……また、あおいねーちゃんに会える……?』
『……うん、きっと、会えるよ』
『なら……やる……っ』
『なかないでえらいよ、いちろーた。守もはやくきて?はやくしないと、かあさんがきちゃうよ』
『お、おう……っ!』
『じゃあいくよ?せーのっ』
『『『ゆーびきーりげーんまーん……』』』



むかしの、記憶。
それは懐かしくて懐かしくて仕方がない、幸せな記憶で。
信じられない思いで彼――――円堂を見つめると、幼馴染の笑う表情と今の彼の表情が、ぴったりと重なった。



「ま、もる………?」



先程の記憶に出てきた名前を震える声で呟く。
秋は先程から困惑した様子だ。
無理もない、転校生が急に俯いたり、驚いたり、かすれた声を出すのだから。
私が呟いた今日の朝までは思い出すことができなかった幼馴染の名前に反応を示した円堂が、「なんで俺の下の名前知ってんだ?」と疑問を浮かべている。
ということは、やはり彼が私の会いたかった幼馴染なのだ。



何とか思い出すことができたのだ、そのことを話さなければ、そう思って話をしようと彼を見つめてみれば、当の本人は何かを思い出したように呆然と固まり始める。
しっかりと、私の方を見つめながら。
そうして見つめ合って約10秒。
やっと彼が絞り出した言葉は、私の予想をはるかに超えたものだった。



「葵……?おまえ、もしかして葵なのか!?」



――――ああ、彼も、覚えていてくれていたんだ。
そう思うと嬉しさやら驚きやら懐かしさやらで心がいっぱいになってしまって。
そんな私がまず起こした行動は――――まず、彼に抱きつくことだった。



「えええっ!?///」



秋が顔を真っ赤にして私達を凝視する。
その声を聞いたクラスの皆の目線もこちらに集まる。
でも、そんなことを気にする余裕など微塵もない。
温かい守は昔と全く変わっていなくて、とても優しい香りがする。
ぎゅうう、と抱きしめる力を強めた私に、彼は苦笑しながらよしよしと優しく頭を撫でてくれて。
叶うことならずっとこうしていたい、と思える温かみがあった。



「まもる……久しぶり、だね」
「おう、久しぶり!」



抱きしめながら、精一杯の喜びを言葉に乗せて呟く。ぎゅっと抱きしめ返してくれた守は二カッと笑って私と顔を合わせる。
そうしてしばらくそのままでいると、見るに堪えられなかったか、耳まで真っ赤にした秋が恐る恐る私達に尋ねた。



「二人って……どういう関係なの?」



クラスの皆も吃驚した顔でこちらを見つめている。どうやら、秋の聞いた質問の答えが気になるらしい。
私と守は顔を合わせてひとしきりに笑いあうと、ぴったり同時に答えたのだった。



「「幼馴染!」」






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