第13章 一日千秋メッセージ



帝国学園との勝負は雷門の勝利に終わり、それぞれ全国大会の出場が決まった。前年度優勝校である帝国学園には無条件に全国大会への出場が認められると知って守が唖然としていたのは未だ記憶に新しい。鬼道の怪我もそう酷いものではなく、とりあえず様子見することで経過観察するそうだ。




「あれ。お疲れ様、鬼道」
「神崎。……ああ、ありがとう」




試合が終わった後。雷門への差し入れも済ませ本当に帰ろうとしたところで、私は既に制服へと着替え終わった鬼道に偶然遭遇していた。もう日も暮れそうな時間になっていたが、鬼道とは少し話がしたかった。ふてぶてしい校門の前で、少し二人で立ち止まった。鬼道はこれから車を呼ぶらしく、流石お坊ちゃんは違うななんて苦笑を漏らして。鬼道の迎えが来るまでの間、私たちは壁に寄りかかる。




「残念だったね。ってまあ、雷門の応援に来た私に言われるのも変だけど」
「……まあ、お互いに全力を出し尽くした結果だからな。悔いはないし、いっそ清々しいくらいさ」




そう言って空を見上げた鬼道の瞳はゴーグルに隠れて見えなかったけれど、その口元は密かに緩んでいる。今まで鋭く刺々しい表情ばかり見ていたせいか、その表情はやけに目に焼き付いて。その表情を見る限り、清々しい、という言葉に嘘偽りはないらしい。




「へえ。私、あんま事情分かってないんだけどさ。……今の君は、中々良い顔してると思うよ」




なんて言ってくすりと笑えば、彼は思い出したかのようにこちらを見た。




「……ああ、そうか。そういえばお前にはまだ言ってなかったな………」
「ん、なにが?」
「そうだな、どこから話すべきか…………お前は確か春奈と知り合いなんだったな」
「春奈?………音無春奈のこと?確かに知り合いではあるけど………それがどうかした?」




(ていうか春奈って、呼び捨て?なんで………)




そういえば試合中にも春奈が鬼道の手当てに回っていたことを思い出す。あれはこちらから見れば違和感の何者でもなかったが、もしかするとそれと関係あるのだろうか。




「お前はきっと驚くだろうがな。お前とは関わる機会も多いし、言っておくに越したことはないだろう」




疑問符がちらほら浮かんでいる私にくすりと一瞬だけ微笑んだ彼は、自然な動作で巨大な時限爆弾を放った。




「俺と春奈は、兄妹なんだ」




爆発するまで、あと数秒。




第13章 一日千秋メッセージ




「…………………………き、兄妹……兄妹、ねえ…………。言われれば似てるところあったりしなくも…………いや、ないな」
「………、おい」
「や、だってさ。新聞部の鑑で天真爛漫でおっちょこちょいなとこもある春奈と、頭脳派プレイヤーで天才ゲームメイカーな、全国一として名高い帝国のキャプテン君だよ?俄かには信じられないっていうか………」




半ば呆れたような瞳でこちらを見遣る鬼道からさっと目を逸らした私は、乾いた苦笑を浮かべた。言われてみれば、とすら言い難い。それだけ普段の姿からは想像できず、2人はかけ離れている。誰も気付かないのはむしろ当然のごとくで、かくいう私も、鬼道と春奈の先ほどの出来事を見ていなければ耳を疑ったかもしれなかった。然し、確かにそれならば色々なことの辻褄が合うこともまた事実で。
彼は一つ溜息を吐くと、腕を組み悠然と話しだす。




「勝利だけが俺の全てだった。春奈を引き取ることこそが、彼奴にしてやれる唯一のことだと思っていた」




だがそれは違ったんだな。そう言った彼の顔は試合を始める前とは随分違って晴れやかだった。妹が元気に過ごせている姿を見て安心したんだろう。家族が元気にしている姿を見るとこちらの元気も出てくるのは、私も同じだった。




聞くところによれば鬼道と春奈は交通事故で両親を失い孤児院に連れられ、じきにそれぞれ養子として引き取られて離れ離れになってしまったのだという。兄は鬼道財閥の跡取り息子として、かたや妹は、一般家庭の普通の女の子として。
それはまともに引き取られたことのない私にとってあまり身に覚えのない感覚だけれど、鬼道があれだけ試合のために頑張っていた理由は、否が応でも分かってしまった。
肉親を失い親族にも拒否された果てに孤児院に入れられた鬼道にとって、春奈は唯一の家族であり、大切な妹だった。いざ引き取られることになったとき、鬼道は何を思っただろう。妹と離れることが、苦痛でないわけがない。そうでなければ、この人は今までこんなにサッカーをしていない。




「春奈を引き取ることは叶わなかったが、彼奴は彼奴の居場所で幸せに暮らせている…………それが知れただけでも、本当に良かった」




最後の方は、僅かに声が震えていた。それが何よりも彼が春奈を想っていたことを表していたように思う。私は彼のそんな姿を見て、ついつい口を挟んでしまう。




「サッカーは妹を引き取るためにやってたんでしょう?なら、もうサッカーをする必要は――――」
「ふ、愚問だな」




私が分かっていながら聞いていることに気付いたんだろう。彼は苦笑を浮かべながら私の問いを一蹴する。




「俺はサッカーを続けていく。春奈を引き取るためだけにやっていたわけじゃない。俺は、帝国のキャプテンなんだ」
「…………素敵な仲間、持ったんだね」
「ああ。俺を信じてくれる仲間のためにも、俺はサッカーをやってくさ」




なにより、サッカーは好きだからさ。
言葉に出さないまでも、そう思ってることは感じられた。妹がもう幸せだと言っているのにそれを続けるのは、ただのエゴだ。彼もそれを分かっているのだ。最初から答えは出ていたようなものなのだ。
彼はこれから自分のためにサッカーを続けていく。ずっとずっと、続けていく。




「…………ちょっと、いじわるな質問しちゃったかな」
「そんなことはない。それは紛れもなく、お前の優しさだ」




だってその言葉は、俺を励ますためのものなんだろう?
私は思わず目を見開いた。まさかバレていただなんて、思ってもみなかったから。くすりと微笑んでこちらを見遣る鬼道を前にしてなんだか気恥ずかしくなってしまって、私はすっと視線を下にずらす。顔が微かに赤くなるのを感じた。



いつから彼は、こんなに優しい表情をするようになったのだろう。

いつから私は、こんなに優しい表情を見せてもらえるくらいに、彼と仲良くなっていたんだろう。

そう遠くない過去で私たちは最悪な敵同士で、あんなに敵意むき出しでお互いを負かそうとしていたのに。

偶然出会う度に、彼がそう悪い人ではないことに気付かされた。彼が存外良い奴であることを、否応なしに理解してしまった。気付いてしまったらもう、あとはなし崩しだ。




「…………もう」




照れくさくてそんな台詞しか言えなかったわたしに、然し鬼道は追い打ちをかけてくる。




「お前が優しいことくらい、俺だって知っている。雷門を応援しに来たとはいえ、この前言ってたことだって守ってくれたしな」
「………、え?」
「『もしまた雷門中と当たることがあったら、見に行くぐらいはしてやってもいいかもね』…………だったか?」




それはもしや、尾刈斗中で会ったときの。




「…………な、なんでそんなことまで覚えてるの……」




恥ずかしさが頂点に達して思わずしゃがみこんだ私を見下ろして、鬼道はくすくすと楽しそうに笑った。




***




帝国との試合が終わって数日。休日を利用して買い出しに繰り出そうとしていた私の携帯に、一本の着信が入る。あまり携帯を使用する機会のない私にとって、それは少し珍しいもので。誰からだろう。そう思って携帯を手に取り開けば、そこに表示されていた名前が見えて、思わず情けない声が漏れた。




「…………あー…………」




そういえば最近全然構ってあげてなかったなあ、なんて気ままな感想が脳内を過ぎる。着信のけたたましさが彼の拗ね具合を如実に表しているように思えてならなくて、私はふっと苦笑を浮かべた。ピ、と通話ボタンを押して携帯を耳に押し当てる。
聞こえてきたのは、久しぶりに聞く彼の声。




『もう!なんで電話かけてこないんだよ!こっちはずっと待ってるっていうのにさあ!しかも折角俺が電話かけても出てくんないし!葵は俺と話せなくて寂しいとかないのかよ!?!?』
「……………………………………あー、うん、ごめん」

余程拗ねていたらしい彼の第一声はこんな感じだった。言われてやっと思い出すが、そういえば着信が何件か入っていたような。帝国戦の間に来ていたので出られなかったのである。
……そのまま数日放っておいたのは確かに私の自己判断なのだけれど。




『ホント、葵はそういうの気にしないんだからさあ…………いつでも電話していいって言ったのは葵だろ!?』
「ごめん、ごめんって、許してよフィディオ。あ、ほら、今日は休日だし何時間でも話せるからさ」




国際通話は結構お金かかるから程々にしてほしいんだけど、なんて密かに心の中で呟く。流石に拗ねまくっているフィディオにそんな言葉は掛けられなかった。
軽く出掛ける準備をしながら会話を続ける。




『…………ま、それなら許してあげても、いいけど…………』
「………………フィディオって単純だなぁ」
『あ、おいなんか言っただろ!?』
「いーや、別にー?」




フィディオはなんだかんだ私に甘いので、直ぐに許してくれる。いつものことだった。私は用意をしながら会話しながら、今日のやっておきたいことを考える。
今日は生活用品も買い足したいし大きなバッグを持っていこう。冷蔵庫にはまだ夕飯の余りがあったからそれは昼に回して、夜は…………。サッカー部にまた差し入れしてあげたいし、レモンと蜂蜜も買ってこよう。ああそういえばまだ洗濯物を取り込んでないから、帰って来たら取り込まなくては。準備の間に考えるのはそんなことばかりだ。我ながら中二で考えるようなことじゃないとは思うが、孤児院で皆で暮らしていたときからのこの思考は、既に沁みついていて消えない。




「ていうかフィディオは今日どうしたの?今イタリアは早朝でしょ、すっごく早起きじゃない。いつもおばさんに起こされるまで起きないのにさ。あ、練習?」
『練習だったら電話かけてる暇なんてないだろ?練習は昼からさ。今日は母さんに起こされたんだ、朝のメルカートでおつかいしてこいって』
「あれ、奇遇だね。私も今から買い出しに行くんだ」




バッグを持って外に出て、電気を消したかちゃんと確認をしてからドアを閉めた。かちゃり、という音とともに鍵をかける。




『へえ、そうなんだ!わー………なんだかもう葵特製のご飯が恋しいよ。懐かしいなあ、葵が時々作ってくれた塩味のきいたオニギリ…………!』
「ああ……。おばさん、イタリア料理は作ってくれても、おにぎりは作ってくれないもんね。まず美味しいお米を買ってくるとこから始めなくちゃいけないし」
『そりゃ、やっぱり俺にとっての故郷の味は紛れもなくイタリア料理だけどさ。練習が終わってクッタクタになったときに食べるオニギリは本当に美味しかったなあ…………!」
「ハイハイ。またそっちに行ったら作ってあげるよ」




今日は商店街に行くのがいいだろう。スーパーは高いし、あそこの八百屋さんの店主は優しいので、上手くいけば安くしてくれる筈だ。今日行くルートを決定した私は携帯片手にゆっくりと歩を進める。十字路を左に曲がって、真っ直ぐに歩いていく。




『今日の献立はなんなの?オニギリ?』
「おにぎりは練習の時に食べるから美味しいんだよ?フィディオ自分でさっき言ってたじゃない」
『あ、そっか………うーん、なんだろ………』
「ふふ、難しいだろうから教えてあげるよ。折角の日曜だし凝ったもの作りたいから、今日は肉じゃがにしようかなあと思ってさ」
『………に、ニクジャガ…………?も、もしかしてあの、一年前に作ってくれたヤツ………!?』
「フィディオよく覚えてるねー」




そんな風に話しながら歩き続けて真っ直ぐな道を抜ければ、そこには河川敷が広がっている。
今日も忙しなく騒がしい河川敷で雷門サッカー部が練習してるのが見えて、私は思わず笑みを深めた。




『そういえば、久しぶりの日本はどう?馴染めてる?』
「ん、まあ、そこそこね。故郷………って言っていいのかは分かんないけど、昔住んでたことのあるとこだから、久しぶりに会った友達とかとぼちぼちやってるよ。そっちはどう?変わりない?」
『こっち?こっちはやっぱり葵が居なくなったのはでかくてさあ………葵がいるのが当たり前になりすぎて皆調子崩すのなんのって!大会だって近いのに、ホント早くどうにかしないと……』
「そっか、もうすぐ大会だったか。今回はヒデも私も居ないんだから、フィディオがその分頑張ってよね」




話をしている限りオルフェウスも元気そうで安心する。あっちに居た頃は、皆が頑張り屋な反面無理して練習しようとする癖があったので、私はそれを見張るのが仕事の一つだった。手当もほとんど私が行っていたので心配だったけれど、この分では大丈夫だろう。
溜息を漏らす彼に茶化すように言えば、フィディオは何やら思い出したように息を詰めた。




『っあ、そう!キャプテンもこの前一回帰ってきたのに、いつの間にかまたどっか行っちゃったんだよなあ………。もう、ホント自由なんだからさ』
「あらら、じゃもしかしなくとも、私はヒデと入れ違いになっちゃってたのか。うーん、久しぶりに会いたかったのになあ」
『…………れの方が、会いたいっての………』
「…………?なんか言った?」
『………いーや、なんでもないよ!あーあ、久しぶりに葵とヒデとプレイしたいなあ!』
「そうだね、最後に三人揃ってサッカー出来たのいつだったっけ……」




河川敷の上を通る橋の途中で立ち止まり、手摺に頬杖しながら雷門サッカー部を眺めた。今日は何かの練習試合をしているらしく、初めて見るおじさんが多数を占めるチームと戦っている。中々手こずっているみたいで、でもとても楽しそうに見えた。いいなあ、なんて心の中で呟く。審判をしているのがこの間見た刑事さんな気がしなくもないが、まあそれは置いておこう。雷門さんによくついている執事もサッカーをしているのを見て内心驚きつつ、でも楽しそうに皆がサッカーしているのを見て、平和だなあ、と思っていた。でもそれ以上に思うのは――――、




「ね、フィディオ」
『んー、なあに、葵』




名前を呼べば、返ってくる声はひたすらに優しい。そんな声に安心して、私は最も信頼を置く彼にだけ、そっと本心を口にする。




「私…………君と会ってサッカーがしたいなあ」
『……………………なんか、あったの』




少し低くなるフィディオの声。でもそれが心配から来ていることを、私は既に知っている。





「……ううん。別に大したことはないよ。ただ、最近サッカーまともに出来てなくってさ。今友達のサッカーしてるトコ見てフィディオと電話してるからかな、無性にやりたくなっちゃった」
『葵の友達なんだろ?無理矢理にも入っちゃえばいいじゃないか。君のことを拒む奴なんか、居るわけないんだからさ』
「居るわけないって………大袈裟だなあ」
『事実だよ。だって俺らのところに居た時も、君を拒む奴なんて誰一人いなかっただろ?』
「…………ん、ありがと。でもね、やっぱり入れないんだ。これは拒まれるとかそれ以前の問題だから、さ。今は、人前でサッカーするなんて出来ない状況に居るの」




雷門イレブンの楽しそうに駆け回る姿を眺める。
まぶしい。ただただひたすらに眩しくて、私には手が届きそうにもない。影山に存在がバレた私はいよいよ何をすることも出来ず、彼らを見つめることしかできない。
自業自得だ。それは分かっている。それでも、サッカーを出来ない分君たちの後ろ姿を見守ってあげたい、出来る限りのアシストくらいはしてあげたいと思うのは、いけないことなのだろうか。




『…………なら、俺が行く』




その時だった。え、と私は目を見開く。フィディオ、と呟いた声はそっと騒音に消えた。




『葵がイタリアに来れないのは分かってる。なら、俺がそっちに行ったらいいんだ。……ま、今は大会があるからいけないけどさ。それが終わったら行くよ。そしたら、人目のつかないところで、二人でひっそりサッカーしよう』




――――それならいいだろ?




「っ……で、も、そんなの、申し訳なさすぎるよ。わたしが勝手に日本に帰ったのに、フィディオに迷惑かけるなんて、」
『葵』




名前を優しく呼ばれて、わたしは黙り込んでしまう。フィディオにそんな風に名前を呼ばれてしまったら、わたしはもうどうすることだってできない。




『葵のために何かするのが、俺にとって迷惑なわけないじゃないか。葵はさ、例えば俺が今大怪我をして駆けつけなきゃいけなくなったとして、迷惑って思うの?』
「そ、そんなの、思うわけない!だってフィディオは、大切な――――」
『相棒、だろ?』




くすくす笑いながら言う彼に、私は何も言えなくて。あまりにもその通りだった。彼の言うことが、答えだった。




『ほら、おんなじさ。俺が葵の元に駆け付けるのに、理由なんて要らないんだ。だって俺は、お前の相棒なんだから』
「……う………で、も」
『俺がやりたいからやるんだよ。君のためじゃない。俺が君に会いたいからそうするんだ。否定なんてさせやしない』




きっぱりと言い切った彼に、私はさんざん迷いに迷って、遂に白旗を上げた。どうあがいても降参だ。フィディオの優しさが胸に沁みて、どうしようもなく泣きたくなる。フィディオに会いたかった。その優しい声をちゃんとこの耳で聞きたかった。恐らく柔らかく微笑んでるであろう彼の表情を、この目で見たくなったのだ。




「…………うん。なら、来て。………待ってるから」
『おう。大会の優勝トロフィーも持ってくからさ、楽しみに待っててくれよな!』
「………ははっ、それは気が早すぎるよ」
『あ、言ったな!見とけよ、絶対持ってくんだからなー!?』




茶化すように言った彼に思わず笑みが漏れた。いつも通りに接してくれる彼に内心でありがとうと告げると、何故だかわからないけれどその言葉は、ちゃんと彼に届いているような気がして。ひとしきり2人で笑い合うと、私はやっと歩き出す。前へと。フィデイオの居ない毎日へと、いつも通りの日常へと。しかし心残りは捨てられなくて。彷徨う視線横に遣り彼等の様子を窺えば、豪炎寺と一郎太が新しい必殺技を練習してる姿が見える。矢張り、平和だなあとしか思えなかった。




「ね、フィディオ。……わたしね、やっぱり君に会いたいよ」
『ん?』
「君と会ってその笑顔が見たい。私が作ったご飯を美味しそうに食べてる君が見たい。君の楽しそうにサッカーしてるとこが……見たい」
『葵……』
「わたしが勝手に日本に帰ってきただけだけど。それでも、君に会いたいって思いは、嘘じゃないよ」




会えないことなんて分かりきっているけれど。それでも言わずにはいられなかった。フィディオに知っておいてほしかったのかもしれない――――こんな風に見えて、実は君のことを恋しく思っていること。




蒼く広がる空を見上げてすっと目を細める。君の居ない此処は、面白いものもたくさんあるし平和ではあったけれど、それ以上に重圧が肥大して私にのしかかっていて…………何より、君のいない寂しさにまみれていた。




(君に会えるその日まで)
(私は走り続けるよ)






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