元帥の危機


─────---- - - - - - -

「それじゃあ任務について話すよ。いいかいふたりとも?」


「「はい…」」




あの伯爵の伝言から少し経ち全員が目を覚まし異常もないという訳でそのまま次の任務へとうつる。どうやらあの任務からラビとブックマンが加わったこのメンツでやるみたい。随分大掛かりな任務だと予想がつく。そして、あのラビとアレンによる病室の壁崩壊にブックマンはとても怒っているようで今も移動中なんだけどその馬車の中で2人は正座をさせられている。そして、ラビが発案者というわけで馬車がギリギリというのもあるけど私がラビの膝の上に座らされている。最初はいやっほーいと喜んでいたけど今では苦痛の表情を浮かべている。私が重いからというわけでは断じてないから!





「先日、元帥のひとりが殺されました。殺されたのはケビン・イエーガー元帥。5人の元帥の中で最も高齢ながら常に第一線で戦っておられた人だった」


「あのイエーガー元帥が……!?」


「嘘…」




私もリナリーもそれなりに面識があり特に私はクロスの弟子ということで大変だっただろうと優しく声をかけてくれた記憶があった。クロスとは違いとても優しい方でその分ショックは隠しきれない。




「ベルギーで発見された彼は教会の十字架に裏向きに吊るされ背中に「神狩り」と彫られていた」


「神狩り…!?」


「イノセンスの事だなコムイ!?」


「そうだよ。元帥は適合者探しを含めてそれぞれに複数のイノセンスを持っている。イエーガー元帥は八個所持していた。奪われたイノセンスは元帥の対アクマ武器を含めて九個」


「九…っ」




9という数はとても大きい……適合者は数に限りがあるしその数は少ない9人いるだけでたくさんの人が救われる。特に今は伯爵との戦いが激化して1人でもエクソシストは欲しいというのに被害はとんでもないもの。




「瀕死の重傷を負い十字架に吊るされてもなおかろうじて生きていた元帥は息を引き取るまでずっと歌を歌っていた」




その歌とは……


せんねんこうは…さがしてるぅ♪




だいじなハートさがしてる…♪




わたしはハズレ…




















「センネンコー?」


「伯爵の愛称みたいだよ。アレンくん、イザベル、リナリーが遭遇したノアがそう呼んでたらしい」




あの子供のノア、実は別れ際に頭の中で話しかけてきた。「今度はイザベルと遊んであげるから楽しみにしててねェ」と。次までにノアとそれなりに戦えるように心の準備はもちろん力も蓄えとかなきゃ。おっと、話ずれた。大事なハートってなんだろう?アレンも同じ事を思ったらしく先にコムイさんに聞いてくれた。




「我々が探し求めてる109個のイノセンスの中にひとつ「心臓」とも呼ぶべき核のイノセンスがあるんだよ。
それは全てのイノセンスの力の根源であり全てのイノセンスを無に帰す存在。
それを手に入れて初めて我々は終焉を止める力を得ることができる。伯爵が狙ってるのはそれだ!」


「そのイノセンスはどこに?」


「わかんない」




急に真面目に話していたコムイさんがいつものおちゃらけた感じに戻る。いきなり戻ったのでアレンがへ?と言った。




「実は、ぶっちゃけるとサそれがどんなイノセンスで何を目印にそれだと判別するのか石箱にかいてないんだよ〜〜〜〜もしかしたらもう回収してるかもしんないし誰かが適合者になってるかもしんない」




それだとしたら、もしかしたらこの中にいるかもしれないって事だよね?ブックマンかもしれないしラビかもしれないしアレンかもしれない。はたまたリナリーかも。そして私も。目印がない以上その可能性も充分にあるって事だ。





「ただ最初の犠牲者になったのは元帥だった。
もしかしたら、伯爵はイノセンス適合者の中で特に力の在る者に「ハート」の可能性をみたのかもしれない。
アクマに次ぎノアの一族が出現したのもおそらくそのための戦力増強。エクソシスト元帥が彼らの標的となった。伝言はそういう意味だろう。
おそらく各地の仲間達にも同様の伝言が送られているハズ」




またコムイさんは真面目モードに戻る。コムイさんも相当手掛かりがなくて困って普段のコムイさんに戻地っちゃったんだろうな。話は変わり、元帥は強いからアクマじゃ太刀打ちできないからノアが出てきたんだろうね……それでイェーガー元帥は亡くなった。




「確かにそんなスゲェイノセンスに適合者がいたら元帥くらい強いかもな」


「だがノアの一族とアクマ。両方に攻められてはさすがに元帥だけでは不利だ。各地の仲間を集結させ四つに分ける。元帥の護衛が今回の任務だよ。君達はクロス元帥の元へ!」




なるほど。だからこんなに人数が多いわけか。元帥護衛の任務、ねえ?まずうちの場合クロス探すので骨が折れそうだし見つけても護衛そんなの邪魔くさいからいらねとか言われそうなのが目に見える。でも、教団に入ってからなかなか会う機会がなくなってしまってあんな奴だけど寂しい気持ちもある。




「元帥達に司令を出してるのはボクじゃなく大元帥の方々でね。
複数の任務を与えられたらあとは個々の判断で行動するんだよ。だから彼等が今どこにいるか正確にわからないんだ。
でもまあ三人は月に一回、必ず本部に連絡してくるから大体の動きはわかるんだが…問題なのはひとり!クロス・マリアン元帥だ!!」




問題はひとりで指でひとりを表すコムイさん。その人さし指にマリアンさんと書かれていてラビが芸が細かいと突っ込む。いつの間にそんな仕掛けを……とちょっと関心。関心するほどでもないけどね。




「ご存知の通りクロス元帥はもう四年近く音信不通。
@「死んだ」
もしくは
A「任務そっちのけで遊んでんじゃねーか」
と噂は様々…んが!!キミが現れた!!アレンくん」




ビシッと、親指と小指だけを立ててアレンをさす。そして小指にはアレンの文字。本当に細かいな。そしてさっきの選択肢どうやらコムイさんは2番を予想していたらしい。





「クロスの弟子のキミは三年間ずっと行動を共にしてたね!!ずっと!!」


「む、無理ですよ?師匠の居場所なんてわかりませんっ」


「コムイさん怖いから」




ふふふと不気味に笑いアレンの肩を掴むコムイさんは悪魔のよう。ちなみに私がカウントされていないのはその四年近くの時一緒に教団に入ったから。一応私の時は教団まで一緒に行ってくれた。それからアレンが入るまでは私にも音沙汰なしだったんだけどアレンが来たらふらりと任務先とかにやってきていた。だからアレンの事は知っていた。アレンと仲良くなった途端また音信不通になったけどね。




「コムイー行方不明の人間をどうやって捜すんさー」


「他のチームはそれぞれ元帥の弟子達なんだけどこのチームの場合はティムが案内してくれるよ」


「「ティムキャンピーが?」」


「この子は科学者でもある奴が造ったものでね。契約主の事はどこにいても感知できるハズだ」




当の本人はカーテンをかじっています。最近食欲旺盛なんだよねあの子……それに比べてうちのキャンは寝てばっかり。今も団服の中で寝ている。クロスにプレゼントされたキャンの契約主は私だからクロスを探知する事はできないから別にいいんだけどさ。





「あとは奴の行動パターンをよく知るイザベルとアレンくんがいれば袋のネズミさ!」


「兄さんそれちょっとちがう…」




さっきとはちがうAHAHAHAと額に狂の文字を浮かべて笑うコムイさん。今日のコムイさんはいつもよりテンションがおかしいぞ。クロスにムカついているのか疲れているのかまでは分からないけど。というわけでクロス捜索部隊を任務された私達はコムイさんと別れてさっそくクロス探しを始めた。




「さてまずはわかってる情報をまとめよう。今私達はドイツを東に進んでいる。ティムキャンピーの様子はどうかな?」


「ずっと東の方を見てる」




探知中のティムはずっと東の方をじーと見てる。探知中はどうやらカーテンをくわえたりはしないみたいで大人しい。




「距離がかなり離れてると漠然とした方向しかわかんないらしいから師匠はまだ全然遠くにいるってことですかね」


「一体どこまで行ってるのかなぁ。クロス元帥って経費を教団でおとさないから領収書も残らないのよね」




経費を使ったとしても経費でおとせるか分からないくらいの額だろうけどね。居場所なんて教えたくないから絶対そんな事しないだろうけど。こちらにはまわってくるけどね。




「へ!じゃあ生活費とかどうしてんの?自腹?」


「「主に借金です」」


「師匠って色んなトコで愛人や知人にツケで生活してましたよ」


「本当にお金が無い時なんかはギャンブルとかで稼いでたよね?」


「そうですね」




平然と当然のように言う私達にみんながそんなことしていたんだと大変だったなみたいな感じでみてくる。まさかそんな目で見られるとは思っていなくてえ?え?とアレンが驚く。そしてリナリーに視線がいくとリナリーが逸らした。あ、あの事怒ってるなとすぐに分かった。クロスの話に戻るけど、本当にクロスはとんでもなくらいモテる。恋人や愛人なんていくらいるのか分からないほどに。それを見て胸を痛めた純粋な気持ちを持っていた時もあったけど、今は怒りしか浮かんでこないくらい歪んできた自覚はある。




「あの……イザベル…」


「ん?どうしたの?」




駅に着いたのでちょっと休憩を取ることになり長旅で疲れたので気分転換も兼ねて各々好きなところに移動したわけなんだけどアレンに呼び止められ歩みを止めて振り返ると困った顔をしていた。




「リナリーがおこってるみたいなんですが……」


「そうみたいだね。まあ、当然だと思うよ?リナリーは小さい時から教団にいる。何度も聞いたかもしれないけど教団のみんなは家族同然なの。そんな家族にあんな無茶されたら怒るよ」


「巻き戻しの街での事ですよね……」


「そ。私も怒ってるよ?その目があるから1人で戦いなれてるかもしれない……それじゃあアクマから救えるけど大事な仲間…家族は救えないよ」




……私の口から言うのはここまで。ちょっと言いすぎたかなー言いすぎた。こっからは私の仕事じゃない彼女の仕事。私はアレンの背後に回り背中に手を置くとポンと軽く押す。




「リナリーは汽車の外に出たよ。行きなさい」


「あ、はい…!」


「あ、次同じ事をしたら……もうどんなに謝っても許してあげないから」




あはは肝に銘じときます。と言ってからアレンは小走りでリナリーの元へ。ちゃんと謝ったらリナリーも全部許してはくれないかもしれないけどまたいつものリナリーには戻ってくれる。これからクロスを探さなきゃいけないのにギクシャクしたままじゃやりづらいしね。あ、リナリーが走って帰ってきた。目には涙を浮かべていて真っ直ぐ私の胸に飛び込んできた。ちょっとバランスを崩したけど立て直しリナリーの後頭部と背中に手を回してよしよしとすると私の胸元を頭でぐりぐりしてくる。




「ちゃんとアレンと話しできた?」


「……うん。アレンくんって……あんな戦い方するの?」


「私はアレンと入れ違いだったから分からない……けど、きっと左眼があったから人一倍溜め込んじゃってるんだね……だから私達がアレンを守ろう」


「うん……アレン君にも言った」




さすがリナリー。私が言いたいことも分かってくれてる。リナリーは私の胸から顔を放す。その顔は涙で腫れていたので指を目元に当て冷やす。可愛い顔が台無しだ。




「ありがとう……戻りましょ?」


「うん。行こっか」



─────---- - - - - - -


prev next


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -