前とは違う私


「メア先輩はハンバーグを作るみたいだねー」


「じゃがいもを使ったハンバーグ…?一体どうなるんだ?」


「さあー?それはお楽しみじゃないかな?でも家庭料理ってテーマだから簡単なものだと思うよ」




実は家庭料理っていうのも蓮城くんの得意ジャンルだったりするんだな。蓮城くんはごくごく普通の一般家庭に生まれて更に前にも言ったかもしれないけど創真くんと一緒で大衆食堂のようなものを家族でやっていた普通の子。私達の中ではそういう意味で一番身近なはず。それに私と一緒に生活してからも色んな国の家庭料理を研究していたりした。だから、大丈夫だろうけど今回負けたら承知しないからね?




「ゆうくんってミステリアスよね」


「んー?どこが?」


「あんまり自分の事話さねぇじゃん」


「あはは。それは君達に話す必要がないと思ってるからだよーあの子自体はわかりやすいよ」




私のその言葉に創真くんは納得というか言っている意味が分からないって感じで見てきた。創真くんはコミュ力高そうだから誰とでも仲良くなれそうだけどこの学校変にプライド高い人とか心閉ざし系多いから創真くんでも仲良くなるの大変だと思うんだ。その代表例がえりなちゃんやゆうくんなんだけど。特にゆうくんなんて私とお父様、お母様くらいにしかちゃんと心開かないし。だからそう思われやすいんだよね。




「私にも心開いてくれないわよね!」


「アリスちゃんゆうくんに信用されてないんだねー
うけるー」


「キーッ!ムカつくわ!」




あはは。アリスちゃんおもしろーい。やっぱりアリスはいじりがいがあって楽しいね!それを落ち着かせようとしているリョウくん。なんかいつもと逆でそれもいいね!昔の2人からは想像できないけど。ゆうくんの話に戻るけど、私だけじゃなくお母様とお父様にも心開いてるんだからリョウくんや緋紗子ちゃんはともかくえりなちゃんやアリスちゃんには心開いてもいいと思うんだよね。本当に、




「……ゆうくんは心開かなすぎだよね」


「アンナお嬢なんか言ったすか…?」


「ふふっなんでもなーい。気にしないでリョウくん」




ゆうくんの心開かなすぎる問題はまた別の機会にして…今はこの食戟を見届けなくちゃ。それにしても一体ゆうくんは何を作るんだろう…さっきから見てるけどまだ下ごしらえの段階で一向に作る料理の姿が見えない…時間的にまだ余裕はあるけどもうそろそろ料理の形が見えてきてもおかしくないはず…ゆうくんが焦った様子じゃないから大丈夫だろうけど。




「蓮城は一体何を作る気だ…?」


「あ、それ私も思ったー!まだ謎だよね」


「あら、ゆうくんが何を作るのかアンナも分からないの?」


「うん!ゆうくんが当日までのお楽しみーって言って教えてくれなかった!」




だからワクワクドキドキー!一体どんなものを作って驚かせてくれるのかな!




「まだ何を作るのか分からない蓮城に対して梁井先輩はもう仕上げに入ってるぞ」


「先は梁井先輩だね……蓮城くん大丈夫なのかな?」


「大丈夫大丈夫!」




多分ね!作っている本人にしかその事は分からないけど家庭料理だから簡単でメア先輩は早く終わっただけでまだ時間は充分ある。焦りは禁物。焦りは考えを鈍らせるし視界を狭くする。




「お先に失礼するよー蓮城くん」


「……どうぞ」




審査員の方々に出されたメア先輩の料理は家庭料理がメインテーマのため見た目はとても普通のチーズが乗っかったハンバーグ。今回の注目すべき点は見た目じゃない。味だからね。さーて一体どんなハンバーグを作ってくれたのかな?




「では、さっそく」




悔しいけど、こっからでもメア先輩の作ったハンバーグのいい匂いがしてきてお腹が鳴りそう。中枢美食機関に選ばれただけあるのだろうけども、私はあの人が大嫌いだからあの人に付き従ってる人も大嫌いだから認めたくない。意地を張ってるのは分かってるけど。




「やっぱり高評価だなーあれ俺の分ねえかな」


「ないだろ」


「言ったら作ってくれるんじゃなーい?」




どうだ!これが中枢美食機関の力!みたいな感じで自慢してきそう。腹立つけどもさすがでメア先輩はハンバーグの上にチーズと思っていたけどマッシュポテトっていうチーズが混ざった伸びるじゃがいもを乗せたハンバーグを披露した。ハンバーグもマッシュポテトも家庭料理で親しまれているものでメア先輩らしいアレンジを施していた。審査員の解説を聞いただけでどれ程素晴らしくて美味しいものかは分かった。それをどうゆうくんが越えてくれるか…楽しみ。




「大変お待たせ致しました審査員の皆様。私の料理が出来上がりました」


「……やっと来た」


「ここからじゃよく見えないわ!一体何を作ったのかしら!」




アリスちゃんの言う通りゆうくんが審査員の方に配膳をしているけども白い容器に入ったそれは蓋をしめられていて中身を伺う事は出来ない。全員の分を配膳し終わるとゆうくんが蓋を開けてやっと正体が分かった。




「ラザニア…?」


「ああ、この匂いはラザニアだ」




うん、ラザニアだ。メア先輩に負けない美味しそうな匂いがこちらにやってきた。あーゆうくんのなら後で作ってくれるから頼もう。お腹すいたー。




「私の料理はラザニアです。審査の程お願い致します」




相変わらず外面いいな。同じくらいの男の子には厳しいくせに私やアリスちゃん、えりなちゃんとかの目上の人には優しいというか物腰が柔らかい。ゆうくんはバレないようにやってるのかもしれないがバレバレだし、あまりに不信感抱きすぎて私の前で出してるしそれに気づいてないし。ただの馬鹿なんだけど、そこが愛おしい。って、今はゆうくんへの惚気話してる場合じゃない。




「蓮城の事もべた褒めじゃねえか!こりゃ勝負は分かんねーな」


「だから言ってるじゃん!私が選んだ子なんだよー?」




ゆうくんが褒められて私も嬉しい。そりゃ自分の従者が褒められて嬉しくない主人はいないよー特にゆうくんは可愛がってるし長い間一緒に過ごした大切な従者だし。




「…………」


「どう?ゆうくんの事見直した?」


「……まあ、選抜の時よりかは成長してるとは…思うっすけど」


「厳しいなー」




ゆうくんの凄さを知って欲しかったのにーとちょっとむくれていたら何故かそれを見たリョウくんが顔には出さないけど不機嫌な雰囲気を纏う。え、なんで?ときょとんとして考えるけど、理由が思い浮かばない。なにか悪い事したみたいで申し訳なくなるけどどうやら審査が終わり判定も決まったみたいなのでリョウくんには申し訳ないけど審査員の方へと意識を向ける。




「審査は中々難しいところだった…だが両者に大きな違いを我々は見つけた」




その違いは食べる時の楽しさ。つまり、家庭料理とは家族で和気あいあいと食べる食事。選抜の時のアリスちゃんと創真くんのお弁当勝負のように家庭料理ならではの楽しみ方がある。メア先輩のはハンバーグにのびるマッシュポテトを使った事で子供が大好きなものの詰め合わせ…まさに王道だった。対してゆうくんもラザニアっていうみんなが大好きな料理に、更に味の異なる層を何層も作って一緒に食べてもバラバラに食べても楽しめると言った様々な楽しみを組み込んだ。それがゆうくんがメア先輩より勝っていたポイントだったらしい。




「何よ…ゆうくんなんてただのアンナちゃんのお飾りの従者のくせに…!」


「そのお飾りの従者に負けたのはメア先輩です。そして私に負けただけではなく自分で自分を貶めていますよ?それに……薙切の姫君であられるアンナ様に従者として認められたからにはそれに相応しい料理を作るのは当たり前です……前のような醜態はもう晒したり致しません」


「くっ…!」




これは、結果を聞くまでもなく勝敗は決まったかな。




「勝者蓮城ゆう!」


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