馬鈴薯


「お疲れ様リョウくん。私の言いつけを守ってちゃんと勝ったわね♪」


「ギリギリでしたけどね…次やったら勝てるかどうか分かんないっす」


「とにかく…!一勝はできたわけだ!
セントラルに一矢報いたぞ!!」




あまりの嬉しさにみんなが円になって喜びを分かち合う。この学園に生き残ってきた先輩達が1勝もできない相手に勝てたんだからそりゃ嬉しさも大きいよねー。さて、次はゆうくんなんだけど――さっきから全く喋ってないんだよね。ちなみにずっと横にいたんだよ?これが。集中しているのもそうだろうけど、いくら私に鍛えてもらっているとはいえいきなりセントラルと闘うんだから緊張もしてると思う。勝つ自信はあるだろうけどね。




「次は蓮城だな!」


「……あぁ」




私がゆうくんに優しく声を掛けるとこちらを向いた表情がいつも以上に真剣でいい意味で殺気立っていた。今日の彼なら私は任せられそうだと思って何も言わずに送り出そうとしたけど、ゆうくんがその場で跪き私の右手を優しく掴み自分の口元へと持っていくとチュッと軽くキスを落とされた――それは忠誠のキス。突然のことに会場がザワっとしたが気にせずにゆうくんは舞台に上がった。そうだ、これ忘れてた。




「相変わらずね!それ」


「ゆうくんはこれしないとやだってうるさいんだもん」


「あわわわ!」


「なっ…なっ!?」


「初心2人には刺激が強すぎたみたいだねー」




もちろんその初心2人というのは恵ちゃんとタクミくんの事。2人とも顔真っ赤にして口をパクパク金魚みたいで可愛らしい。ただの外国的挨拶みたいなやつだから気にしないでーと言ったんだけど、頭がパンクして耳に入ってないみたい。可愛いなー。ぞして舞台に目を向けると舞台に上がった2人がなにやら見合っている。いや、睨み合ってる?




「アンナちゃんってばほんとっ先輩見下して可愛げないよねー自分がさも上なのが当然かのように!ま、相手に不足はあるけどあなたで我慢してあげる」


「失礼を承知で言いますがアンナ姫が出る程の相手ではない……女性としても料理人としても。
だから私で充分です先輩。私で充分倒せる相手という事ですから……我慢するのはこちらの方です」




おー珍しくゆうくんが饒舌だ!そして先輩に対して毒舌!珍しい事のオンパレード!メア先輩のムカッとした顔が超面白い!それにしても相変わらずメア先輩は中々ムカッとする人だけどそれはお互い様か。それに私はメア先輩より実力が上だと思っているんじゃなくて実際上なんだけどそれは間違えないで欲しいかなー?




「これよりD会場最後の食戟を行います。
蓮城ゆうVS梁井メア食戟開始!」




2人が一斉に調理に取り掛かる。リョウくんの時みたく創真くんがゆうくんに声援を送るんだけどすっごく嫌そうな顔で創真くんを睨んでいた。それに対して創真くんは笑顔で、なぜか視線を向けられていない恵ちゃんがビクビクしていた。なんかごめんなさいうちのゆうくんが怖がらせて普段は優しい子なんだよ。




「おっ2人とも食材出したぞー…ん?」


「じゃがいも…!?」


「「じゃがいもをメイン食材として使用した家庭料理一品」!これをお題として蓮城VS梁井のD会場最後の勝負を行います!」




はいそうです!リョウくんたちが鮭に対してうちはじゃがいも…つまり馬鈴薯がテーマ食材です!これはさすがに予想していなかったようで驚きの声が会場のあちこちで聞こえていた。ちょっとその驚きが嬉しくてニヤニヤしてしまうねー考えたの私だからそういう反応をされてしまうと嬉しくて嬉しくてしょうがないよねー。それが人間の性だよね。




「確かに蓮城は野菜等を得意にしているが今が旬の野菜の中でなぜじゃがいもを選んだのだ…!?」


「んー?そこにあったから」


「「は?」」


「いや、だからたまたまそこにあって一応今が旬の時期だしこれでいいんじゃないかな?ってなって決まった!」




適当だな!?とタクミくんに突っ込まれてしまった……いや、だってメア先輩が対決どうするかって家に来た時に丁度ゆうくんが収穫したばっかで置いていたじゃがいもが近くにあって目に入ったから一応提案したらまさかの通っちゃたわけだから……ゆうくんが拒否しないんだもん!いくら忠誠を誓ってるからと言ってこういうのは拒否してもいいと思うんだけど……まあ、意外性はあるからそれでいっか!




「それにしてもやっぱりこの対決でも蓮城くんの得意ジャンルだね」


「余裕があったのかもしれねぇけどそれで黒木場が勝てたんだ。蓮城も勝てるかもな」




そうだねーいくらセントラルがあの人が選び抜いた精鋭の集団だと言っても私達だって1年間この学園で生き残ってきた精鋭だって思ってる。だからあの人に選ばれたから数々の先輩達に勝てたからって調子に乗っているといつか痛い目に会う……さっきのリョウくんとの食戟みたいにね?ま、今回のゆうくんとの食戟もだけど。




「アンナお嬢…俺には蓮城が勝てるようには思えないっすけど……」


「ふふ、選抜の時を考えるとそうだね。でも、リョウくんが成長したようにゆうくんも成長してる……それにポテンシャルは秘めてる子だよー?だって私が選んだんだもん」


「……そうっすか」




納得いかないのかあんまりいい表情をしていないリョウくん。と言っても僅かにだけど!最近リョウくん結構見てるから表情とかちょっとずつ分かるようになってきた!というよりオーラ?リョウくん表情はあんまり出ないんだけど…あ、通常時ね?バンダナ巻くと凄く荒々しくなるけど外すとぼーっとしてるじゃない?だから表情とか最初は読みにくかったんだけど最近アリスちゃんと関わるの多くなってきてリョウくんとも話すようになったから分かるようになったんですよ!で、リョウくんって感情が変化する時って空気というかオーラが変わるんだよね!今はなんか不機嫌、納得いかないって感じ!よく分かるようになったよねーすごく成長したよね!よく観察した甲斐があった。イケメンは見ていて飽きないからねー楽しかったよ!眼福眼福。




「2人が使ってるじゃがいも……品種が違うようだけどなんだろう…?」


「んーっとね……ゆうくんがホッカイコガネでメア先輩がインカのめざめだと思うよ!」


「見ただけで品種が分かるのか!?」


「うん。外す時ももちろんあるけど!でもあの2つはゆうくんが育ててるから絶対そう!」




ゆうくんはじゃがいも結構な種類育ててるから判別つくんだけどね。じゃがいもだけじゃなくていーっぱい!そのおかげでちょっと野菜に関しては前より詳しくなったよ。それに料理の幅も広がったからゆうくんを連れてきて良かったなーって思う瞬間の1つだよね。もちろん、連れてきて良かったなーって思う瞬間は沢山あるよ!




「へー蓮城野菜育ててるのか。一色先輩と一緒だな」


「そうだね!規模はゆうくんの方が大きいし種類豊富だからたまにしき先輩が畑に来たりするよー」


「しき先輩…?」


「いっしきだからしき先輩。下の名前がさとしだから言い難いから言いやすくてそう呼んでるの!」




私しかこの呼び方してないと思うから唯一無二の言い方!それがちょっと嬉しかったりする。だって誰かの特別になりたいのが女の子。それがただの仲がいい先輩でもね?決してビッチじゃないからねー?そういう意味ではなくて特別な呼び方っていうのは




「ねえアンナ。じゃがいもって品種によってどういう違いがあるのかしら?」


「そうだねーまずは粘り気!粘り気がある方が舌触りがいいんだよー次に煮崩れしやすいか。煮崩れしやすかったりすると煮物には向いてないからフライドポテトとか向きかな。
後は色が黄色っぽいのじゃなくて紫っぽいやつのがあったり形もそれぞれ違ったり」


「味も全然違うよね」


「そう!気になるなら今度家に来れば食べ比べさせてあげるよー」


「まじか!行きたいわー」


「創真くんの方が興味示した」




おっかしいなー私さっきアリスちゃんから質問されたから答えたしお誘いしたんだけど創真くんのほうが嬉しそうにしている。いや、君は誘ってないけど……まあ、いっか!




「で、2人が使ってるじゃがいもはどんな特徴があるんだ?」


「えっとね…ゆうくんが使ってるホッカイコガネはなめらかな舌触りで味のクセは少なく煮崩れはしにくくて色々な料理に使いやすい。
インカのめざめは最近知られるようになった品種で皮を剥いた後の変色がなく粘り気も強い。甘みも濃厚な風味も持っていて煮崩れしにくい!」


「特徴だけじゃどんなのになるか想像もつかんな」




それはこれからのお楽しみと、いうことで!家庭料理かぁー一体何を作るのかドキドキワクワク!


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