恐怖の再会


「さて、えりなちゃんのお店に行きますか」


「招待されてませんよね?」


「うん!だから予約したよーえりなちゃんに嫌そうな顔されたけど」





緋紗子ちゃんにお願ーい!と頼み込んでいたところえりなちゃんがやってきて、予約の事を話したら凄く嫌な顔をされた。でも、ちゃんと予約して入るならしょうがないからゆるしてあげなくもないとかツンデレを発動してきたのでありがたーくそのツンデレえりなちゃんに甘えて予約してきた!というわけ。本当は嬉しいくせにめんどくさい奴め!……嘘だけどこれえりなちゃんには内緒ね!




「……って何たべてるんですか」


「ん?創真くんとこのやつー食べる?」


「か、間接キス…!」


「あーん付きだよ」




はい、あーんとゆうくんの口に運ぶと恐る恐る口に入れる。なんだ、付き合いたてのカップルか!って突っ込みたくなるよねー?付き合ってもないしこれからそんな予定はゆうくんとはないんだけど。てか、カップルで思い出したけどアキラくんに返事返してない。というか返事に困ってるよん。未だに会いずらいっていう。こう見えてそういうのに耐性がなかったりする。




「姫と間接キス…!」


「まだ言ってるのね。女の子だねー」


「……女は捨てましたから」


「別に私はゆうくんに女の子捨てて欲しいとは言ってないよ………あれ?えりなちゃんのお店が騒がしいな」




えりなちゃんのお店へと到着すると何やらただならぬ雰囲気を感じたので嫌な予感がしつつお店の中へと入っていくと、えりなちゃんと緋紗子ちゃん。それに創真くんたちと……ここに来れるはずがない人……薙切薊。私とアリスちゃんの叔父でありえりなちゃんの父親がいた。私は咄嗟にえりなちゃんを守るように震えている彼女の前に立つと弱々しく縋るようにぎゅっと私の制服をえりなちゃんが掴んだ。




「興が殺がれた……おや、久しぶりだねアンナ」


「何しに来たんですか叔父様……えりなちゃんを傷つけお爺様に追放されたあなたがのこのことここに何しに来たんですか」


「それを今から言いに行くつもりだ。気になるならついてきたまえ」




えりなちゃんはやっぱりあの人に会うのか怖いみたい。ゆっくりと抱き締めて背中をとんとんとあやす様に優しく叩くとさらにえりなちゃんがこちらに密着してくる。しょうがないな、と思ったけどあの人が戻ってきた理由も気になるのでそっと離れて両肩を掴みゆっくり歩くように押しあの人の後を追って外にでるとお店は黒塗りの車に囲まれていた。




「…ちょうど伺おうとしていた所だったのですよ。こちらから出向くべきなのにお迎え頂くなんて光栄ですね」


「おー!幸平そーまここにいたのか!黒塗りの車が大量に走ってくから何事かと思って追っかけてきた!何かあったのかよー?」




ここで、竜胆先輩が走っていったこちらに合流してきたんだけどこの状況を察してかすぐに静かになった。一触即発な叔父様とやってきたお爺様の雰囲気にこっちまで冷や汗が流れそうになるけどえりなちゃんを不安にしてはいけないので優しく後頭部を撫でながら私も静かに見守る事にした。




「ご無沙汰しておりますお父さん」


「去れ
貴様にこの場所へ立ち入る権利はない。言ったはずだ2度と薙切を名乗る事は許さんと」


「えりなが持って生まれた「神の舌」をここまで磨き上げたのは僕なのです。僕を追放しようとも血と教育は消え去りはしない」




磨きあげた……そう、あの人がえりなちゃんにそう教育するようになってから天真爛漫と言っていいほど明るくて元気だったえりなちゃんが日に日にとても冷たくて子供が絶対しない目をするようになっていた。でも、子供の私にはどうすることもできなくてお爺様に頼った……それでも遅くて既に今のえりなちゃんは完成されていた。私はあの時の絶望に近い感情を一生忘れられない。




「儂の最大の失敗だ。あの頃、貴様にえりなを任せたこと」


「失敗はお互い様ですな。僕がいれば遠月を今のようにはさせなかった」


「遠月学園では料理が全て!腕さえあれば誰だろうと伸し上がれる」


「くだらない。"真の美食"を醸成するには下等な学生を持て余しておくことは愚の骨頂」




真の美食?あの人がえりなちゃんにしてきた教育から思うにあんなのは真の美食と呼んでいい程の物じゃない。不味ければ捨てていい?そんな訳はない。この食材調理法はこうするのが当たり前のやり方。それだけじゃない。他のやり方でも美味しくなれる方法はある。あの人が掲げる美食は美食とは程遠い……そんなのは美食じゃない個人の勝手なワガママの理想の押し付けにしかすぎない。




「それを決めるのは我々ではない
遠月の未来を決定するのは才と力持つ若き料理人たち!貴様一人が喚いたところで何も変わらぬ!!」




お爺様のその言葉にあの人がスーツの内ポケットから無言で何かを出した。さっきからずっと表情を崩さずに冷静でいて余裕がある姿に滴る冷や汗が止まらない。なんなんだ、この嫌な予感は。




「遠月十傑評議会。席次に応じて学園内での様々な裁量権を握る。遠月の最高意思決定機関。過去にも学園運営に関する重大決定を何度となく下してきた。彼らには学園総帥と同等かもしくはそれ以上の力が与えられている。例えば十傑メンバーの過半数が望むことはそれはそのまま学園の総意となる―――」




この人は、とんでもないことを口にした。あの人が取り出した書類には薙切薊を新総帥に任命する決議を以下6名が提言したと明記してあった。叡山枝津也、紀ノ国寧々、斎藤綜明、茜ヶ久保桃、小林竜胆、司瑛士の文字。つまり、十傑の過半数があの人の薙切薊の考えに賛同するという事。まさか瑛士先輩や竜胆先輩までもが賛同するなんて……あの人のやる事にどうして賛同できるの?




「明日の今頃にはすべてが決着しているでしょう。日本が誇る美食の王国。この僕が新しい王です」




この決定は、覆す事が出来ない決定事項。


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