おもてなしの時間


「ただいま帰りました」


「ゆうくん!おかえり!さすがだねーゆうくんに頼んで良かった」


「そう言っていただき光栄です」




ゆうくんのおかげでお客様はたくさんきた。それを丁寧に礼をするゆうくん。顔を上げた時の表情はとても疲れているようで顔色は優れない。私は思わずゆうくんに近づいて頬にそっと触れるとゆうくんはビクッと身体を震わせて目を見開く。




「疲れた?ありがとうね」


「……疲れました。どうして私なんですか?」


「だって、ゆうくん私以外とあんまり関わろうとしないでしょー?えりなちゃんやアリスちゃんでさえ!だから関わって欲しいなーって」




むにーっとゆうくんの頬を引っ張るとやっぱり女の子でぷにぷにしていてよく伸びる。中も外も男の子を意識しているけどやっぱりこういう所に女の子がでてる。当のゆうくんは膨れっ面だけど。そこも可愛い。




「アンナ様!ゆうくん!小林先輩がいらっしゃいました」


「はーい。じゃ、ゆうくんしばらくここはよろしく」


「了解いたしました」




あとはゆうくんに全部任せても問題ないまで準備はできてる。よし、おもてなししちゃうぞー!調理中は邪魔だったので縛っていた紐を外すと着物の袖が姿を現す。着物だから派手に動けない!でも、たまには大人しい私を見せてもいいよね?




「竜胆先輩」


「おっアンナー!着物じゃん!似合ってるぞ!」


「ありがとうございます。お越しくださりありがとうございます。座席まで私が案内いたします」


「悪ぃーな」




竜胆先輩を座席まで案内するまでに少し時間がある。竜胆先輩は珍しそうに見ている視線を背中に感じるけど、突っ込んでしまったらいけない気がする、ボロが出そうなので何も言わずに座席まで案内して私は出入口へと戻る。また後で来よう。




「あ、アンナ様。大和様がお帰りになるそうです」


「んじゃ挨拶に行ってくるね」




そーそー一応、お出迎えは特別なお客様しかしてないんだけどお帰りになる際はちゃんとどのお客様にも挨拶は欠かさない。せっかく来てくれているんだからそれぐらいはしないと。さて、誰か来てるかなー?




「薙切」


「薙切さーん来たよー」


「あ、イサミくんタクミくんいらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました」




ジャパニーズお出迎えである床に座り深くお辞儀をして顔を上げるとキラキラした顔で見下ろしてくる2人。どうやら気に入ったようです。気に入ったようでこちらとしても嬉しい!




「わー薙切さんいつもと違う!美人さんだね。兄ちゃんもそう思うよね?」


「あ、ああ…」


「それ、いつもは美人じゃないみたいな言い方だねー?」


「違う違う!いつもは可愛らしいからー」




そういう意味じゃないんだよーとのほほんと笑うイサミくんが可愛いから許す。おっと、いけないいけない!2人を座席に案内しなくちゃという訳で案内する。




「そういえばタクミくんさっきから黙ってどうしたのー?」


「あ、いや……」


「兄ちゃんは薙切さんの着物姿に見惚れてるだけだから安心して」


「イサミ!」




後ろをちらっと振り向くと顔を真っ赤にしたタクミくんがイサミくんに軽く怒っていた。可愛らしいなあ。そんな視線に気付いたのかタクミくんが顔を逸らす。




「ありがとうタクミくん!ファンの子に恨まれそうだねー」


「あはは蓮城くんに知れた方が怖いと思うよ」


「……それありそうで笑えない」




今この場にいなくて本当に良かったよゆうくん。可愛らしいタクミくんの反応も見たいけどゆうくんの事を考えると複雑かも。タクミくんイサミくんを案内し終わりまた戻る。




「よう!」


「こ、こんにちは…」


「来てやったぞ」


「創真くんと愉快な仲間たち!ようこそ!」


「誰が愉快な仲間たちだ!」




いやーだってもう見なれた光景だもの。創真くんを取り巻く女の子たちの図。うちのえりなちゃんまでたらしこんで、モテ男め。怖いわーさすが少年漫画の主人公。え?なんの話?あーごめんごめん。




「改めて!ようこそお越しくださいました。お座席の方までご案内いたします」


「おー頼むわ」




賑やかな3人なので何があっても大丈夫なように座席を他のお客様と少し離している。あと、タクミくんと鉢合わせして騒がれないようにの対策もね。私は迷惑ではないけど、他の方は分からないから一応ね。




「お前んとこって料亭みたいで他の店と違うよなー」


「そうだね。洋のお店が多いから和のお店が目立ちやすかったでしょ?」


「そ、そうだね!そ、それにしても満席だってね…凄い」


「お前らんとこガラガラだもんな」




郁魅ちゃんの鋭い突っ込み。昨日は赤字叩き出してしまったからねー赤字を黒字にするには大変だろうけど頑張れ(他人事)




「ここがみんなの席!ゆっくりしていってね」


「おーありがとな」




もうそろそろアリスちゃんたち来てる頃かなー?また戻ってみよう!さっきから座席と出入口の往復しかしてないけどお仕事だからしょーがない!




「あ、アンナー!」


「よう」


「アリスちゃん。リョウくんとアキラくんもいらっしゃいませ」


「着物、すね」


「似合う?」




くるって一回転してどう?って意味を込めて首を傾げてみる。もちろん、わざとだというのはここだけの秘密。




「馬子にも衣装ね!」


「えっアリスちゃんそんな難しい言葉知ってたの……」


「どういう意味よそれ!」




そのままの意味ですとは言えずぷんすかぷんすかと怒っているアリスちゃんをそれでまた怒らないように適当にあしらう。




「リョウくんは?」


「…………似合ってるっす」


「えへへありがとう」


「意外と似合ってるな」


「意外は余計だし……ありがとアキラくん」




未だにアキラくんの顔は見れない。視線を逸らして会話するからリョウくんには異変はバレてるかもしれない。アキラくんはアキラくんで私の反応を楽しんでる。早く案内して、この恥ずかしい気持ちから逃げよ!




「ふぅー逃げれた」


「お疲れ様です。あとはアイツらだけなのでしばらく休んでください」


「あれ?料理は?」


「もう出し終わりました」


「はや」




もうそんな時間なのかとびっくり。逃げるのに精一杯だったみたい。みんなどんな風に思ってくれたのか、感じてくれたのか楽しみだな。残念ながらえりなちゃんには食べて貰うことは出来なかったけど、明日えりなちゃんのを食べに行こうと思ってる。営業時間を遅くするのは今日まで。明日からは山の手エリアとしては短く他のエリアと同じまでにする。さて、そろそろお見送りしますか。




「もうおかえりかな?」


「結局、合流してますね」


「よ!美味しかったぞ」


「あ、創真くん!」




相変わらずフレンドリーな創真くんがいつものへらへら笑顔でやってきた。後ろにちゃんと恵ちゃんと肉魅ちゃんを連れて。




「いやーまじで美味かったわー」


「初めて食べたけど……ほ、本当にすごいね」


「能ある鷹はうんちゃらってね。あ、創真くんのとこの後で食べるねー」


「おう!」




あ、やばい。もうこんな時間だ。まだ創真くんたちにしか挨拶できてないけど…片付けが間に合わない!残念だけど、諦める…。




「みんな、今日は突然の招待にも関わらず来てくれてありがとう!まだまだ2日目。みんなも自分のお店頑張ってね!というわけで、私は時間が来たから挨拶まだ、しきれてないけど退散します!今日は本当にありがとう!」




時間がないない!着物だから走れないけど出来る限りの早足で厨房に帰ると、ゆうくんが眩しい程キラキラした顔で出迎えてくれて2人で仲良く片付けをして2日目は無事に終了!


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