バラバラな個性


「さっすが私のリョウくんね!素晴らしいカルトッチョだったわ♪香りを爆発させる驚きの効果!これで優勝はリョウくんに…」


「…!?」


「葉山アキラ―――前菜メニューで来た…だと!?カルパッチョで勝つつもりか!!?」


「ふふ…!くすくすっ」


「ん?」


「何よアリス自分のお付きが有利そうだからご機嫌なの?」


「「カルトッチョ」と「カルパッチョ」ですって!とっても似てる!傑作ね!!」


「アリスちゃんなら絶対いうと思ったよ!期待通りありがとう!!」


「そっち!?確かに似ているけど…そんなに面白い?」




アリスちゃんはわかりやすい!わかりやすすぎる!ただ私達が横で馬鹿やっているけど審査員、お爺様はしーんとしてなさる。れ、冷静……。




「では…実食を」


「もう少々お待ち下さい。最後の仕上げが残っておりますので」


「……この匂い…なるほどね」


「あらアンナなにか分かったの?」


「まあねー見てれば分かるよ」




アキラくんがバーナーで炙り仕上げると匂いを嗅いだだけで叔母様の腰が砕けた。アキラくんが出したのは「炙りサンマのカルパッチョ」。見ているだけでも食欲をすごく煽られる。そして叔母様が口に含むとすぐにおはだけが始まった。




「一体…どれだけのスパイスを組合せて…!?」


「――いや使用している香辛料はオールスパイスただ一つ…!」


「アキラくんは今までは多種多様なスパイスで極上の香りを編み上げていたけれど」


「彼の香りを操る能力はただ足していくことには留まらない!敢えて香辛料を引くことで…旬のサンマの風味を鮮明に浮かび上がらせる事が出来たんだわ!」


「…それは理解できるけど…でもこの香りの豊かさはどうやって!?リョウくんのカルトッチョに匹敵する勢いだった…!」


「えぇ…ただ炙っただけではアリエネーデス!」




いや、叔母様の日本語の方が気になる。アリエネーデスって…まあ、叔母様らしいけど……。




「「かえし」です。給仕する直前に…かえしを身の表面にサッとぬりつけました」


「カエシ?ツバメ返しですか?コジロー・ササキ?」




違います。逆にそっちの方が分かる人は少ないよ!一瞬私も誰だか分からなかったよ……ちなみに、佐々木小次郎は安土桃山時代から江戸時代初期の剣客だよ。詳しくはぐぐってみてね!




「醤油に味醂や日本酒などを加えて作る合わせ調味料!このかえしを出汁で割ることで「蕎麦つゆ」が出来るのです。日本食全般に使える万能調味料だと見なされていますわ」


「道理でな…!魚の身という物はバーナーの高い火力をもってしても焦げ目が付き辛いものなのだ。それがかえしに含まれる糖分によって焦げやすくなる!加熱が長引き新鮮なサンマの風味が台無しになってしまうのも防いだのだ!」


「サンマ表面の脂とかえしの糖分が加熱によってじゅわっと沸き立つ…つまり俺は――香りの「引き算」と「強調」…相対する調理をこの一皿の上で同時に披露したのです」




二人は前回の準決勝で一度ぶつかり合ったから進化したのかな?リョウくんは肉厚の大剣を振りかざし決勝でも人の食欲、本能を引きずり出す爆発力を更に高めた。一方で準決勝は煌びやかなるスパイスの狂宴…意匠と装飾が施された宝剣だったけど今回のアキラくんは選別・択一故の洗練……鋭く細く研ぎ澄まされたレイピアのよう。よほどリョウくんに勝てなかったのが悔しいし、試合後に言われた言葉に腹が立ったんだろうね。




「スパイスだけしか能がないワンパターン…だったか?香りを従えるとはこういう事だ」


「キサマ…っ!」


「やっぱり、頭にきてたんだねアキラくん」




さあて!ハードルはかなり高いぞー?創真くんはなにを見せてくれるのかーなー?




「炊き込みご飯だ―――!!」


「はいはーい…すぐによそいますんでちょいとお待ち下さいっすー」


「もう…!ユキヒラくんいけずデス!早く…早くッ!」




さて、2人とは明らかに違うサンマ。創真くんのサンマの正体は一体なんなのか……今日水揚げされたものではなく何日か前に水揚げされたものを使い何かしらの工夫をして用意した以外全く検討はつかない。




「来た来た♪やっとデスネ!いざ!!実食デス!」




お皿に盛られたご飯は日本人の心を鷲塚む。食欲をそそるもの。私の中の日本人の血が滾るような感覚。




「はふ〜〜〜…!!」


「秋がもたらすサンマの幸せが身体中に沁み入るッ!」


「サンマは七輪で一度焼いてから…」


「あ、またおはだけ!これで3人ともおはだけだね」


「他の二名に勝るとも劣らない品質です!!」




リョウくんが創真くんのサンマを取り出した箱の中に指を入れる。そして、リョウくんの指についたものでようやく創真くんのサンマの正体が分かった。指についているのは糠。そして正体はぬかさんま。釧路や厚岸、根室を中心に古くから親しまれている伝統食。現地の漁師の間では最も美味しくサンマを食べる方法だと言い切る人もいるというほど素材の旨味を引き出し栄養価もアップする。




「でも、それだけ?お爺様ははだけていない」


「そうね。このままなら幸平くんは…」


「……おかわりも食べてほしいんすけどまだ食べたい人いないっすかー」


「…………」


「……審査はここまで…だな。ただいまをもって審査を…終了と――」


「おかわりして頂けるならこいつを注いで食べてもらおうと思ってんすけど」


「!」


「俺の秋刀魚料理はまだ完成してないんすよ」




創真くんの手に持っている鍋の中身はなに?白いスープのようだけど……私と同じように横でえりなちゃんも不思議そうにしている。でも、よく見てみると……あれって……。




「頂こう」


「幸平クン…最後の悪あがきは結構だけれどこれではアイディアの焼き直しに過ぎないのではなくって!?」


「違うよアリスちゃん」


「そうよこれは――」


「さぁ…御三方おあがりよ!」




あ!お爺様のおはだけがきたー!でも、おはだけというより飛び散ったように見えたのは私だけかな……?




「まろやかでクリーミー…この白いスープの正体は――豆乳だ!!」


「そのとおり!こいつは豆乳に…味噌とパルミジャーノ・チーズをちょっぴりずつ加えてコトコトじっくり温めたものなんす!これが俺の秋刀魚料理――「サンマの炊き込みごはんおじや風」だ!!」


「豆乳ですって…?」


「気付いたような…アリス」


「おじやの肝はなんていったって「出汁」!創真くんは豆乳を"出汁"として位置づけこの料理を構築したってわけっ!」


「そういう事…!」


「ちょっとそれ私のセリフよ!」


「細かいこときにしないの!」




豆乳は昆布と同じでグルタミン酸をたっぷり含んでる。充分におじやのベースを担うことができる。さらに旨味には相乗作用があって二つの成分が共存するとはるかに強い美味しさになる。




「豆乳のおじや風……いと面白し…!!」


「赤い果実の様な物…これはもしや――」


「カリカリ梅っす」




また駄菓子シリーズだ。でも、その駄菓子が更に美味しさを引き立てている。叔母様二回目のおはだけだ。その様子に周りの観客も創真くんってすごいんだと実感していた。




「御粗末……!」


「これにて審査は終了だ!さぁ…判定である!!」


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