三姉妹
「テーマは第一試合と同様…「洋食のメイン一品」だ。第二試合!調理…開始ッ!!」
「ふーむ…次は葉山と黒木場かぁ。どんな試合になっかなー」
「なぜ当然のようにここにいるの!!」
「別にいいじゃないえりなちゃん!」
「さっすがアンナ。優しいな!やー…モタモタしてたら試合始まりそうだったし。この二人のどちらかと決勝で当たるわけだからなー…しっかり観戦しとかねーと」
アキラくんが取り出したのは鴨。一体どんな料理になるのか。私とえりなちゃんを除いた一年生で次の十傑入りはアキラくんだと言われてるくらい実力がある子。会場はアキラくんの勝ちで決まりだとは思っているだろうけど…。
「薙切はどう思うよ?」
「ある授業で彼と同クラスになった事があるのわ。その時黒木場くんが出した料理は…お世辞にも良い品とは言えなかったわね」
「もうっだからえりなはダメなのよ」
「アリス!?」
「アリスちゃん!」
アリスちゃんが勢いよくソファーに座る。3人がけのソファーだからもし私が座っていたらぎゅうぎゅうだったかも。ちなみに私はえりなちゃん側でえりなちゃんにもたれるように座ってる。ゆうちゃんは従者、側近だからちょっと離れたところで立っている。
「リョウくんの実力は論理だけでは量れないのよっ」
「あ、リョウくんはウナギだね」
「マジか…魚介が得意ってのは聞いてたけど意外なトコ突いてきたなー」
「フランス料理や諸外国でもうなぎを使ったレシピは存在するわ…何も日本料理だけの素材ではないのよ」
「にしても、アリスちゃんが精神論を語るなんてねーえりなちゃん」
「ええ。科学とロジックで作り上げる料理を信条とするあなたが…」
「これは精神論でも何でもないないのよ。私と同じくらい近くで見ているアンナには分かるかもしれないけど、現実としてリョウくんの料理の味には論理を越えたものが宿っている」
たまに2人の料理勝負の審査員をやったりするからねー。リョウくんはいつもアリスちゃんとの料理勝負は真剣で手抜きやらは一切しない全力投球。
「私に足りないものがあるとすればそれは」
「……え?」
「ううんっ何でもないの」
「…………」
アリスちゃんとリョウくんはいい関係を築けていっている。私やゆうちゃん。えりなちゃんと緋紗子ちゃんとは違うお互いがお互いを刺激し合えるいい関係。
「アンナ姫、えりな姫、アリス姫。紅茶を用意いたしました」
「あ、ありがとう!ゆうくん!」
「ありがとうゆう」
「あら、気が利くわねありがとうゆう。リョウくんもこれくらいできるようになって欲しいわ!」
「ありがとうございますアリス姫。もったいなきお言葉です」
「蓮城俺のはー?」
「なぜ私があなたのを用意しなくては行けないんですか?自分でやってください」
「つめてーな」
これがゆうちゃんの通常です。でも、この間よりは口調は柔らかい。アリスちゃんとかがいるからかな?彼女は私達以外には厳しい……でも、アキラくんやリョウくんは基本的に無視だけど創真くんには喋ってるからまだ優しいのかな?
「アキラくんは鴨肉とスパイスが絡み合い極上の香りを会場に漂わせている…その姿は王者の風格。そして、リョウくんはさっきまではアキラくんと話していたけど今は静か……アリスちゃん解説」
「歓声なんて聞こえてないわ。今リョウくんの感覚器官は素材の焼き色脂の弾ける音と匂い…ウナギの身の重さ。フライパンの中の情報しか拾っていない」
「なるほど。ありがとう!あ、どうやらリョウくんウナギをこんがりと焼いて赤ワインやブーケガルニで煮込んでるね」
「……やっぱり黒木場くんは"マトロート"で来たわね!」
鰻のマトロートはウナギを赤ワインやブランデー等で煮込んだ料理。マトロートは魚をワインで煮る調理法だよ!
「メインとして申し分無い一品だわ」
「…あれ?つーかさっき鰻を開いてたのに元に戻したんだな」
「網脂で包んでウナギ本来の形に巻き直してから焼いていたんだよ!脂によってコクが付加されてインパクトが高まる……リョウくんらしい料理だねー」
また、リョウくんがアキラくんに話しかける。リョウくんはどうやらアキラくんとは相性良くないっぽい。
「!」
「アンナ?どうしたの?」
「……なんでもないよ!」
アキラくんがいつもとは違う表情を見せた。私はその顔にゾクッときた。恐怖とかじゃない胸からなんかこみ上げるような……締め付けられようなそんな感じ。
「……先に完成したのはアキラくんみたいだね」
「「鴨のアピシウス風」でございます」
先輩方が実食に入る。咀嚼して飲み込んでも香りが鼻と口に広がり続ける。香りの魔力に持っていかれる先輩方。
「香りこそがこれからの料理を支配する。どれだけ手数を揃えようと…お前の持ち札じゃ俺には届かねぇよ」
誰もがアキラくんの料理に勝てる料理なんてあるのかと思うほどに凄まじい一品。
「黒木場の目まだ死んでない」
「……そうだね」
アリスちゃんが選んできた子だ。これくらいどうってことなきゃ困る。そして、リョウくんが出したのは鰻のマトロート。実食に入ると審査員の方々の表情が変わった。
「不意打ち…!「プラム」だ!!」
「たぷたぷと潤沢な鰻の脂に…プラムのフルーティーな酸味がじゅわっと広がって…脳天にクる美味しさ…です。しび…痺れちゃった…」
「次だ…!付け合せのブリオッシュとマッシュポテト…こいつらにウナギを煮詰め旨味を凝縮させたソースを絡め…鰻の身も一緒くたにして全部まとめて頬張るんだ。さぁはしたなく喰らいつけよ。足腰立たなくなるまでな!!」
「!……」
まただ。さっきのアキラくんの時と同じ感覚が身体を走る。今日はおかしな一日……身体がすごく疼く。おっと、いけないいけない!試合に集中しなくちゃ。審査員の先輩方みんなリョウくんの品をふしだらにガツガツと食べていっている。それだけ、リョウくんの品が評価されている証。
「……」
「!」
「あら、リョウくんアンナを……」
「目があったね」
リョウくんと目が合う。彼がこちらを見てきたのだ。私には意図がすぐに分かった。この戦いが始まる前にアリスちゃんの所にお邪魔した時の話。
「……今度葉山との対決で出すやつ……アンナお嬢にも食って欲しいす」
「どうして?」
「……今の俺の全力の料理をアンナお嬢に見せたいってのと……と」
「とー?」
「……いや、これはまだいいっす」
「?分かった。そこまでリョウくんに言われたら食べなきゃねーそのお礼に私もリョウくんに作ってあげる!」
「アンナお嬢の食ったことないから楽しみっす」
「ふふお楽しみに!」という話をしたから、リョウくんはこれが今の自分の料理だ!という思いで見てきたのかもね?でも、なぜ決勝ではなく準決勝なのかは疑問だけどね?そして、審査に入ったが園果先輩だけがどちらかを選ぶことができず引き分けの状態になっていた。納得がいかないリョウくんやVIPの方々が野次をとばすが堂島先輩がえりなちゃんをはじめとする運営委員に提案をした。
「二人とも上げてしまえばいい。秋の選抜史上初――「三つ巴の決勝戦」を提案する!!」
面白いことになりそうだなー。私の口角は自然に上がっていった。
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