本戦開始


「やってるやってるー」


「相変わらず、凄い機械の数ですね」


「そうだねー」




今日は実況の仕事はお休みというわけで、会場でアリスちゃん対幸平くんの対決を見に来てます。私達が会場に入ると2人は既に調理を開始していた。




「さ……ランチにしましょ」


「霧がかかった弁当だとぉ――――!!?」


「興味をかき立てる見事な演出…!美食の祭典にふさわしい…」




開けて霧が晴れると現れた綺麗に並べられた手毬寿司。光り輝きまさに宝石箱のよう。




「私が持つ技術の粋を詰め込んだ「手毬弁当」です」


「どうやら霧の正体は容器に仕込んだ「液体窒素」」


「なるほど…!ではあの霧には冷気によって寿司の鮮度を維持する意図もあったのですな」


「よろしければこのお弁当は左上から順番に食べて頂きたいのです」


「ほう…?まずはアワビやウニ…海の幸か!」




それを食べた審査員の口にじゅわあと広がった。寿司の上に乗せられていた泡…エスプーマは昆布の出汁を泡にしたもの。ネタにも昆布締めがしていて日持ちがよくお弁当に適した調理法。複数の旨味成分が合わさり、より美味しいものへとなっていく。




「しかもこのカツオは二日かけて低温熟成させたものです。だからこそより深い旨味が生まれている…即ちこの品は順を追って食べ進める事で口の中で次々と完成していく弁当なのです」


「続いては野菜による品々…!「ケーキ寿司」等と呼ばれているものだ」


「しかもこれは海苔を一切使わず…その代わりに野菜を薄くペーパー状にしてつつんでいるのか」


「このお弁当に重い色はふさわしくありませんから」


「そしていよいよメインディッシュと言わんばかりに…牛ヒレによる低温熟成肉寿司!」




カボチャ、ビーツ、ズッキーニを巻いたケーキ寿司の次にくる低温熟成肉寿司。それがまた旨味成分として口の中で合わさって広がっていく。




「む?だが…待てよ…イノシシ酸は肉寿司の物と理解できるがグルタミン酸はどこから…?」


「"トマト"ですわ」


「トマト…?しかしどこにも見当たらないが…」


「使ったのは「遠心分離機」それによりトマトを「色素」「繊維質」そして「ジュ」に分解しました。さらに濾過を重ねよりピュアにしたトマトのジュをケーキ寿司に数滴落としたのです」


「さすがアリスちゃん…学生が遠心分離機と凍結粉砕機を使いこなすなんて」


「姫、分かるんですか?」


「少しだけ。アリスちゃんのを見てねー私には合わないよ」




私が作りたいのはそういう物ではないしね。それは置いといて、アリスちゃんは寿司で鯛茶漬けも作ってしまった。それにはおじい様もおはだけ。




「見事であった」




会場は一気にアリスちゃんの実力を目の当たりにして萎縮しきる。でも、私は萎縮したりなんてしない。まだまだアリスちゃんには負けてるつもりないし。それは幸平くんもそうみたいで幸平くんは平然として自分の品を作っている。




「幸平創真……品目は?」


「海苔弁当っす」




アリスちゃんが幸平くんに海苔弁当とは何かを聞いている。あはは相変わらずそういうものは知らないんだね。




「……姫」


「なあに?」


「……海苔弁当知ってますか?」


「…馬鹿にしてるでしょゆうくん」


「え!あ、いや……アリス姫が知らなかったんでもしや、と」


「アリスちゃんよりは知ってますー」


「すいません」




ま、知らないことも多いし、勉強し始めたのは最近なんだけどそれは黙っておこう。幸平くんが選んだのはランチジャーと言われる三段になっていて一段目がおかず二段目がごはん三段目がスープを入れるものでステンレス製の保温容器によってご飯とスープの熱を保つことができるものだそう。それは知らなかった。勉強になる。アリスちゃんも似たような事を言ってた。




「先ずは3種のおかず!ほう!素晴らしい磯辺揚げ…!!軽くふんわりと見事に揚がっている!」


「そして金平牛蒡のまろやかさよ!!隠し味にマヨネーズとバルサミコ酢を僅かに加えコクを深めておる…!」


「細部にまでこだわった仕事ぶりだ!」


「さて…お次はフライを…おお!箸で軽く切れよる!鱈のフライですな。恐らくコレは出汁と調味料で一度煮てから揚げているな。そうする事でフカフカとした柔らかい食感が生まれ…」




口に含むと、春めいた高原に吹くやわらかな風のよう。思わずスキップしてしまうほど。




「いわゆるB級グルメとは思えぬ…なんと上品な味なのだ!!一体これはどうした事だ!?」


「その答えは…恐らく"出汁"にある。これは…「マグロ節」による出汁だ!」


「その通り…鱈を煮た出汁は「マグロ節」と…「利尻昆布」から引いたものっす」




鱈はマグロ節との相性はバッチリ。衣はビールを使って揚げているから油っぽさがない。揚げ物なのに軽やか。



「―――次は汁物!ベーコンと玉葱のみそ汁か!」




幸平くんが、アリスちゃんに言った。ちゃんと弁当としてすごいわけ?って。アリスちゃんは聞き捨てならないという顔をしてるけど、このお弁当に関しては圧倒的に幸平くんのほうが上手。




「何じゃこのご飯は――――!?」


「何やら黒い粒が…ご飯の上に敷き詰められておる!!」




ご飯の段を開いたらいくらのような黒いつぶつぶがご飯に敷き詰められていた。正体が気になって好奇心をくすぐられる見た目。幸平くんらしい驚きに満ちたもの。




「イクラの様な食感が弾ける…!そして中から染み出すのは海苔の旨味だ!!」


「美味い……!!弾けた海苔の旨塩っぱさがご飯の一粒一粒にまとわりついて…!止まらんっ!!病みつきになりそうだ!」




これは、アリスちゃんが得意とする分子美食学の技術。アリスちゃんもそれには気付いて幸平くんに疑問を投げかけてる。そして幸平くんは駄菓子をとりだした。知育菓子というもので人工イクラを作る手順を体験できるものらしい。へーそんなのあるんだ。すごいねえ。それをヒントにして自分なりに進化させた海苔の旨味爆弾だと幸平くんは語った。




「む!?何だ!?何やら…おかかの様な物がご飯の中から…?」




さらには中にマグロ節で作った佃煮が。アリスちゃんも文句やらを言いながらすごく箸が進んでいる。言ってることとやってることが違う気がする。




「いいなーアリスちゃん…私もあれ食べたい……」


「きっと今度言ったら作ってくれますよ」


「今食べたい」


「い、今ですか!?それはちょっと……」


「嘘だよーゆうくん困らせたかっただけ」


「え、姫!?」




ゆうちゃん可愛い。あ、幸平くんのお弁当さらに葛餡が仕込んであるみたい。いっぱいでるなー開けるのがわくわくするお弁当だ。葛餡をかけたご飯を審査員たちもかきこんでいる。




「あ、やっぱりアリスちゃんには納得できないみたい」




アリスちゃんが幸平くんに問いかけるとおじい様かま口をはさんできた。そして、アリスちゃんに足りなかった所、私が言いたいことをおじい様がちゃんと説明してくれた。弁当としての楽しさや新しさがアリスちゃんの料理にはあったのか?と。




「一回戦第一試合勝者は……幸平創真とするッ!!!」


「…………さて、次は君の番だよ蓮城ゆうくん。暴れてきなさい」


「はい。黒木場リョウに爪痕残してきます」




ゆうちゃんと私は選手出入口へと向かう。私はアリスちゃんに会いに、
ゆうちゃんは次は自分の試合のための移動に。




「あ、リョウくん」


「……アンナお嬢」


「残念ながら今回のリョウ君に送る言葉なんてないからね」


「…分かってるっす」


「リョウくんはゆうちゃんを甘く見ているかもしれないけど……私が選んだ料理人よ?私はゆうちゃんを信じてる。だから勝ったとしてもただで勝てるとは思わないでね?じゃ、先にアリスちゃんと会ってくるからー楽しみにしてるよ」




私もゆうちゃんもリョウくんの実力をよく知ってるから、リョウくんと自分の実力差はゆうちゃんはよく分かっている。だけど、最後まで勝てると信じて全力で挑んで、負けたとしてもただでは負けないのがゆうちゃんのいいところ。頑張ってね、私の大事な大事なゆうちゃん。




「アリスちゃんお疲れ様」


「アンナ…あなたも文句を言いに来たの?」


「そんなことしないよーえりなちゃんが言ったんでしょー?ただ私もああ言ったのに、アリスちゃん負けたざまあーとは思ってるよー?」


「もう!アンナも最近私への悪口が酷くないかしら!?」


「ごめんごめん……おいでアリスちゃん」




両手を広げるとアリスちゃんがそれに応じる様に私の胸へ飛び込み抱きしめてくる。私もアリスちゃんの身体に腕をまわす。しばらくすると泣き声が聞こえてくる。私はよしよしと頭を撫でて慰める。昔からえりなちゃんと喧嘩した時にアリスちゃんを慰めていたから手馴れたもの。久しぶりの感覚だから凄く懐かしく感じた。


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