本戦前の出来事
「アーリースーちゃーん!」
「あらアンナ?何か用かしら?」
「暇だから来た!」
「そういうことね。どうぞ」
「ありがとー!」
アリスちゃんからの許可が出て中へと入る。ちなみにゆうくんは本戦準備中のため、私1人できました。まあ、相手が相手だからだいぶ集中してるみたいで話しかけにくいってのもあるけどねー。頑張ってるから邪魔したくない。
「アリスちゃんの相手聞いたよー?最初から当たるなんてすごいねえ」
「私もびっくりしたわ!とても楽しみ」
「楽しみにしてるねー」
「ええ。二人も、ね?」
「ふふ…気合い入ってるんだーゆうくん」
「私とえりなみたいに犬猿の仲ですものね」
「一方的にゆうくんが嫌ってるだけだよーあの子にとって男の子はみんな嫌いだから」
トラウマとかがあるわけじゃないんだよね。私のためだから余計タチが悪い。ゆうくんは自分より私を大切にするから。それは緋沙子ちゃんもリョウくんもきっとそうだと思うけどゆうくんは異常。でも、どうすればいいか分からなくてそこに甘えてる。だめなんだけどね。
「……あれアンナお嬢?」
「あ、リョウくんこんにちはーお邪魔してるよ!」
「…うす」
「あとで、リョウくんのとこにも行くねー」
リョウくんに手を振ると顔を逸らされてしまった。なんでだろうと疑問に思ったけど、紅茶が出てきたので紅茶の方に思考がいく。美味しい紅茶。さすがアリスちゃん!センスいいな。
「そうそうアリスちゃん」
「なあに?」
「予選で作ったアリスちゃんのカレー食べてみたいなー……って」
「あらお腹すいたの?」
「あ、そうきた?お腹は普通!ただ食べてみたいだけだよー」
「そういうことね!いいわよ今から作ってくるわ」
「ありがとう!大好きアリスちゃん!」
アリスちゃんに抱きつくとアリスちゃんがよしよしと撫でてくれた。鼻いっぱいにアリスちゃんの匂いが入ってきてとても落ち着く。しばらくして離れるとアリスちゃんはカレーを作りに行った。その間にリョウくんの所に行こ。
「リョウくーん!あっそびにきったよーっ」
「…どうぞ」
「相変わらずぼーとしてるねー」
リョウくんに近付いてほっぺをつんつんしてみる。身長差があるから、ギリギリ届くぐらいだけど。あ、以外に柔らかい。ちょっと筋肉質だけど。
「いつまでしてるんすか」
「あ、ごめん。くせになっちゃって」
すると、リョウくんも私のほっぺをつんつんしてきた。無表情で。普通にみたら怖いけどリョウくんだから別に怖くはない。
「…確かにくせになるっすね」
「む。私にお肉があると?」
「アンナお嬢は普通じゃないすか?」
リョウくんの手が私の脇の下を掴んで持ち上げる。俗に言う高い高い。突然のことにびっくりした。そして恥ずかしい。私にだって羞恥心はあるもん。恥ずかしさで顔が赤くなるのが分かった。
「っ……アンナお嬢軽いっすよ」
「あわ、リョウくん?」
突然、リョウくんが俯いて私をおろすと顔を背けてしまった。さっきもそうだった。
「リョウくーん?どうしたの?」
「…別になにもないっすよ」
「だったら、なんで顔を見せてくれないの?」
「今は無理っす」
強情なリョウくんにむっとしてリョウくんの顔を見ようと回り込む。だけどリョウくんは逆側を向いたので私も逆側に。そこからまた違う方にそれを私が追うを繰り返した。さすがに疲れてきたので、フェイントをかけて引っかかったリョウくんの正面から抱きつくとやっと見れたリョウくん。
「!」
「おわりー!」
「……みたいすね」
「どうして顔見せてくれなかったのー?」
「なんでもないっす」
「えー」
「…………」
「………」
無言で撫でられた。これ以上突っ込まないで欲しいってことかな。気になる。すごく気になる。最近、リョウくんと接する機会が増えて色々なリョウくんを見ることができた。だから、もっと違うリョウくんを見てみたい。あ、そうだ。リョウくんに抱きついたままだった。離すとリョウくんが寂しそうな顔をしたように見えてちょっとキュンとした。
「アンナー?できたわよ」
「アリスちゃん!ほんと!?じゃあさっそくーリョウくんまたね!頑張れは今回は言いたくないけど楽しみにしてるから」
「うす」
さっきアリスちゃんと話していた部屋に戻って早速アリスちゃんのカレーをいただきまーす。
「ん!美味しい……確かに審査員が表現に困るね、このカレー……」
「ふふありがとう」
「このピューレのふわりと溶ける感じが好きかも。パイとカレーはあまり聞かないし………なるほど、ねー」
「どうしたの?」
「覚えてるー?アリスちゃんの次に出したアンコウのどぶ汁カレーを作った田所恵ちゃんのこと」
「ええ、覚えているけどそれがどうかしたの?」
「それを食べた審査員が「さっきの料理を食べた後だから余計しみる」って言葉は?」
「ええ覚えているわ!失礼しちゃう話だったわ!」
「私は、今アリスちゃんのカレー食べて審査員の方と同意見だったよ。恵ちゃんのカレー食べてないけどね」
アリスちゃんが予選の時みたいにむっとした表情をする。可愛いなと思いつつ口を開く。
「アリスちゃんが得意とする分子美食学……最新科学技術を駆使して作る料理は他の料理と違って確かに新しいし画期的。でも弱点がある」
「弱点?」
「心遣いだよ…食べる人の。分子美食学は画期的だけどそれは機械に頼りすぎて作った人の心を感じることが出来ない……」
「それでも私の品は高く評価されたわ。そんな精神論弱点にはならないわ」
「確かに今回は高評価だった。斬新で新しいアイデアだったと思うよ?そこを評価されたんだと思う。でもあれってカレー料理だったのかなーって……確かに味はカレーだったけどカレー料理には思えなかった」
「あら、アレは紛れもないカレーよ?」
「まあ、そうだね。でも次の「お弁当」だっけ?アリスちゃんはまた新しい形のお弁当を作って会場を面白く盛り上げてくれるかもしれないけど……」
「けど?」
「その斬新で新しい発想がが本来のもの、良いところを潰してしまうかもよーって話っ!相手は幸平くんだしね。でも、私はアリスちゃんのやり方は否定しない。アリスちゃんはアリスちゃん、えりなちゃんはえりなちゃん。そしてもちろん私には私も好きなやり方ってものがあるからねー」
「ええ、肝に銘じておくわ……それでも勝つのは私よ!」
「そうだね。高みの見物でもしてるよ」
「あら!アンナにも絶対勝つからね!」
「えー?何年後の話かなー?」
「もう!いつか負けてもしらないんだからね!」
アリスちゃん面白い。私達は共通して負けず嫌いだからアリスちゃんとえりなちゃんだけじゃなくアリスちゃんと私や私とえりなちゃんとの間でも闘争心メラメラ。だからこうやってちょっとした言い争いも日常茶飯事。そういうのは大好きだしアリスちゃんの反応がすごく好き。だからやめられない。
「はー楽しかった。ではアリスちゃん!私はもう1人訪ねたい子がいるからこのへんでごきげんよう!リョウくんにもよろしくねー」
「分かったわ。ごきげんよう」
アリスちゃんとリョウくんとお別れして次に私が向かったのは、とあるゼミ。
「しーおーみーきょーじゅーいーまーすーかー」
「アンナ?どうしたんだ?」
「あ、アキラくん!こんにちは」
「おう。とりあえず入りな」
「お邪魔しまーす」
アリスちゃん達とはお別れして向かったのは、汐見ゼミ。汐見教授を呼んだんだけど別に汐見教授には用はなくて彼女の助手をやっているアキラくんに会いに来たんです。
「潤になにか用か?」
「ううん。アキラくんに会いに来たの!まずは、本戦出場おめでとう」
「ありがとうなアンナ。お前、Bブロックの実況したんだってな?」
「そうだよー頑張りました」
「Aブロックの実況やっていればアンナの姿見れたんだけどな」
「私も残念だったよー注目選手いっぱいいたし!でもゆうくんが頑張ってた姿を近くで見れて嬉しかったな」
「そういえばその蓮城来てないな」
「相手は言えないけど、ゆうくんは因縁の相手って言ってた子だから張り切ってるんだよ」
「なるほどな」
ゆうちゃんの因縁の相手その2がアキラくんだったりするのは言わないでおこう。なぜかこの2人には結構厳しいんだよねーゆうちゃん。
「アキラくんの相手って分ってるよね?」
「ああアンナも知ってるヤツ。って言ってもお前の事だから全員知ってるか」
「うん!だいたい予想通りの結果!!」
「……誰が優勝するのかも出来てるのか?」
「それ聞いちゃうのー?」
「聞きたいからな」
「まだ誰がとかはこれから次第かなーでもなんとなくいいとこまで行きそうってのは」
「誰?」
「聞きたいー?」
「焦らすな」
軽くおでこにデコピンされた。地味に痛い。おでこを抑えながらちょっと睨んだら、また手の上からデコピンされた。痛い。むすーとしながらしょうがない!私の予想を話しましょう!
「もちろんアキラくんとリョウくんは絶対進むと思う………あとはー予想外の幸平くん」
「幸平?なんでだ?」
「予選一緒だったんでしょー?なら分かるんじゃない?彼の面白さ。あの発想は好きだし、うけもいいと思うからーかな?」
「そうか……蓮城やお前の従姉妹は入ってないんだな」
「入ってたんだけど、アリスちゃんは次の対決…不利すぎる。だからかな?……ゆうくんも今回は厳しいよ。内に秘めてる力はあるけどそれをまだ使う事ができてないからね」
「……蓮城の相手って…」
「だーめ。分かっても答え合わせは当日ね」
アキラくんの唇に人差し指をくっつける。最初はびっくりしていたアキラくんだけど、意地悪な顔をしてチロッとちょっと指を舐められて今度はこっちがびっくりして変な声が出た。
「…少し妬けるな…アンナに想われてる蓮城に」
「アキラくんのことだって考えてるよ?」
「そういう意味じゃない」
「じゃあどういう意味?」
アキラくんに腕をつかまれて引っ張られる。そして、アキラくんに抱きしめられる。
「アンナはいい香りがする……すげえ落ち着く匂い。好きな香りだ」
「ありがとう」
「…そして、食べたくなる匂い」
「?え、そうかなー?私はアキラくんから感じるスパイスの香りの方が美味しそうだと思うよ」
「…そういう意味じゃないけどな」
「さっきからそればっかりー」
「お前が鈍感なんだよ。それに動じねえし…男に抱きしめられてるんだから警戒しろよ」
「アキラくんは男の子だけど私が嫌がることは絶対しないでしょー?意外と紳士だから」
「意外は余計だ。そうか、でもこうされるくらいは分かって警戒しろよ」
耳元に聞こえたリップノイズと耳に感じた感触。アキラくんに耳にキスされた。そして、すぐ耳元でくすっとアキラくんの低音の笑い声にキュンとした。反応を見るために離したアキラくんと目が合う。
「っ……!」
「へえ……アンナでも照れるのか」
「っ〜人間だもの!」
「初めてみた。アンナのそういう顔…結構くるものがあるな。こういうので照れるのか…」
「面白がらないのー!」
「面白くなるだろ?俺だけがアンナの照れる顔を知ってるってのは……」
アキラくんに顎をくいっと持ち上げられる。だんだんとアキラくんの顔が近づいてきた時、
「こらぁ――――!!アキラく――ん!こんなところでなにしてるの!」
「…潤」
「あ、汐見教授」
「アキラくん!呼び捨てはやめなさいって言ってるじゃない!もう!こんなところでアンナちゃんになにしてるの!そういう事は部屋でやりなさい!」
「部屋ではいいのかよ」
「教師として、それはどうかと…あ、汐見教授お邪魔してまーす」
「あ、いらっしゃい。じゃなくて!もう!なにしてるの!」
「アンナで遊んでた」
「酷い…アキラくん」
「イチャイチャするならここでしないで!分かった!?」
「イチャイチャしてませーん」
「分かった!?」
「……はーい」
「よろしい」
返事をしたら満足したのか汐見教授はまた来た道を戻っていく。それを2人で顔を見合わせて苦笑いしつつアキラくんと別れた。結局、アキラくんの試作を覗けなかった。残念だったなーと思いつつ帰宅した。
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