予選開始


楽しかった夏休みが終わり、ついに秋の選抜予選当日となった。天気は快晴。絶好の予選日和となった。私はBブロックの実況をすることになり、控え室で待機していた。やったね!ゆうくんを間近で見れるよー!でも、控え室でじっとするのは飽きてきたので十傑専用の客席(この選抜中は十傑扱いとなるから使える)から出番まで眺めることにした。良く見えていいねーこの席!




「おーやってるやってる。田所恵ちゃん、双子のタクミ・アルディーニくんとイサミ・アルディーニくん、吉野悠姫ちゃん、アリスちゃん、緋沙子ちゃん、貞塚ナオちゃん、北条美代子ちゃん……そしてゆうくん。Bブロックは個性派揃いだなー。とくにナオちゃんなんて一体どんなのを作ってくれるのかな。楽しみで怖いかも」




私が注目している選手をそれぞれ見ていく。一体どんなカレー料理を作ってくれるのか楽しみでしかないよ。ふふっ興奮してきた。あーあ、でもそれが食べられないのが残念だなー今度食べさせてくれないかなー?アリスちゃんあたりは言ったら作ってくれそうだけど悠姫ちゃんとかは難しいよなぁ。あー食べたいなー。




「あ、恵ちゃんひっくり返しちゃった。ふふ相変わらずだねーそこが私は好きなんだけど。でも、少しずつ良くなってる……きっと今日は新しい一面を見せてくれる。楽しみだけど彼女の才能が多くの人に知られてしまうのは嫉妬しちゃうかなー……なんてね」




今は観客のほとんどが、なんでこいつが選ばれたんだ。と疑問に思っているしなんで自分より劣ってる奴が選ばれてるんだと怒りと疑問を浮べている子も多いかもしれないけど、今回の選抜でガラリと変わる。そんな気がする。いや、絶対になる。




「あ、タクミくんは牛すねと鶏ガラのフォンなんだね。それにさすがと言うべきメッザルーナでパスタを均一に切ってる……イサミくんは、イタリア料理に欠かせないトマトを使うんだね!双子で同じブロックか」




タクミくんとイサミくんが楽しそうに話してる。仲いいなあ。そういえばイサミくんかなり痩せたねえ?うん、さすが双子。かっこいい。前のイサミくんは笑顔がとても可愛かったけど今のイサミくんは可愛いさの中にかっこよさがあって女子にはたまらないね!




「悠姫ちゃんは……わお!鴨づくし。シビエカレーかな?美味しそう…食べたいな。極星寮は面白い子ばっかりだねえ」




極星寮の応援団に気付いた悠姫ちゃんがスマイル!うん、いい笑顔。可愛い。恵ちゃんと悠姫ちゃんは真逆といってもいいかな。緊張しやすい恵ちゃんに緊張をもろともしない悠姫ちゃん。極星寮は面白いねー。(2回目)




「アリスちゃんは相変わらず…最新機器の数々といった科学的な料理。緋沙子ちゃんはスパイスを水にぶっ込んだねえ…何をするんだか」




そして、ここも仲はよくないアリスちゃんと緋沙子ちゃん。えりなちゃんとアリスちゃんが犬猿の仲……みたいなものだから(私は仲良しだと思うけど)側近の緋沙子ちゃんまでアリスちゃんに闘志メラメラ。




「あ!ナオちゃん!ルウ真っ黒だ!そして怖い!魔女の子孫だったりするのかな?……でも、料理は美味しそうな予感」




ただ、観客が怖すぎて引いてるけどね。笑い声がもう魔女だよナオちゃん。




「美代子ちゃんセクシー!チャイナ服が似合ってる。中華鍋も普通に振ってるし……当たり前か。それができなくちゃねえ…中国の香辛料とカレーのスパイス。共通点の多いこの2つをどう調理するのかな?」




ただ、やっぱりセクシーなチャイナ服に目がいってしまう。観客の男子なんて目がハートじゃないか。あんなセクシーな格好だから目が行っちゃうのは当然だけど。




「さて、問題はゆうくん……なるほど、アウフラウフを基盤にしてるのかな?ドイツ料理を使うようになったんだねー!野菜を使った料理を得意とするゆうくんにぴったりのチョイス」




アウフラウフとはどんなのかはまだ内緒。アンナくんらしい新しいカレーを作ることができそうだね。




「みんな、着々と自分の料理を完成させてきてるねーどれも美味しそうになってきたー!……あれ?恵ちゃん、吊るし切りするの!?」




これは楽しみ。吊るし切りはとても難易度が高い技。それをこの場でするということは相当な自信があるから。これができたら、恵ちゃんの周りの評価は驚くほど変わる。




「……うん、迷いがないし、綺麗。きっと幼い頃からやってきてるんだろうね。だからこその自信」




おっと、私の仕事の時間がやってくる。待機しないと。急ぐために小走りで移動したけど、着いたのはちょうど出る時間だった。もうちょっと余裕あると思ったのに。




「そこまでー!これより審査に入りたいと思いまーす。進行は、まさかの人員不足で裏方に回る事になった私薙切アンナがお送りしまーす!審査員は5名。一人ずつ持ち点を20点お持ちです!つーまーりー合計100点満点で料理を評価。その得点の上位4名が本戦へと進むというわけなのです!まずは一人目審査をお願いしまーす!」




一人目が審査員の前に料理を出す。審査員…喜多修治さんは彼の料理をさすが遠月の生徒だと褒め、生徒もそれに満足した顔をする。




「それではー点数をどうぞっ!」


「さ…33点…?」


「みなさーん?持ち点は10ではなくて20ですよー?」


「もちろん理解している」




その後にさきほど褒めていた喜多さんが、こう言った。自分たちを誰だと思っているのか。こっちはプロが作る料理を毎日相手にしてる。よく出来てるといってもソレは学生レベルでの話。そして、50点出せたら御の字…つまり、結構なものだと言った。それはそうだ。審査員の5人全員が美食を貪り尽くした人なのだから。その後も40以下しか出てこない。




「非常に厳しい採点が続きまーす!さあ次の品は――ふぐっ!」




この臭いは……ナオちゃん!くさやがくさすぎて思わず変な声が出た。きょ、強烈すぎる。




「どうぞ…貞塚ナオ特製――「漆黒のラクサカレー」です……」


「おぅー阿鼻叫喚が巻き起こっておりますー!とても美食の祭典が催されてる会場とはおもえません!地獄絵図でーす!」


「ラクサ…東南アジアのつるつるとした食感が特徴の麺だ。そしてルーの黒さはイカスミで出してるようだが」


「この鼻が曲がる強烈な悪臭…まさか――」


「「くさや」です…!」


「やっぱりかぁあああ!!何てモノをカレーに使いやがるんやコイツ!!?網で軽く焼くだけで近所中から苦情が来る代物やで!!」


「ぬぅ…煮込むとこれまたもの凄い悪臭ですな…」


「しかもコレは私の特製…トビウオとシイラで作った物です。大事に大事に育てたくさや汁を使ってね…!」


「0点や0点!あらゆる珍味を食うてきたけど…こんなん人間の食べるもんとちゃうわ!」




あ、おりえさんが口に運んだ!そして、美味しいと言った!それからつられるように喜多さん安東さんが口に運びさっきまでとは違う本当に美味しいと思った感想。あまりの美味しさに臭いのを忘れて虜になったように食べ続ける審査員達。そして、審査の時間。まだ物足りない顔のままだ。




「出ました!特定はー…84点!!80点台――!初の50点越えを貞塚ナオちゃんがやったあああああ!暫定1位だーっ!」


「あぁ…いつかこのカレーえりな様にも召し上がってほしい…」


「さて、場内の換気を行いつつ進行を致しまーすっ!次の生徒は品を披露してくださーい!……あー緋沙子ちゃん!」


「アンナ姫、どうも」




緋沙子ちゃん、私に軽くお辞儀と挨拶を交わすと審査員の前に料理を出す。見た目はさっきのナオちゃんのものよりインパクトは少ない。だけど、それでいい。それが彼女の料理。




「ふぅん…?ルーにとろみが少なく汁気も多い…スープカレーに近い品かしら」


「具はネギに人参・玉葱にキャベツ等…そんで羊肉は「マトン肉」やな!マトンはラム肉に比べてニオイが強いけどそこはスパイスでしっかり臭み取り…っちゅうわけか」


「……臭み…」




どうやら、審査員はさきほどのナオちゃんの臭みや味のインパクトが強すぎてまだ忘れられないみたい。緋沙子ちゃんのがどうナオちゃんのをかすめさせるか、忘れさせることが決めて。




「…ほなまぁひとつ…頂きますか…」


「こ…これは…!?」


「安東先生?どないしはったんか?」


「ホ…ホァァァアアア」


「な…何ぃ――!?いつもボソボソ何喋っとるかよぉ分からん枯れた木ぃみたいな安東先生が…何や知らんけどカンフー映画ばりに漲っとるやないか―!!どどどどどないしはりましてん!?」


「この独特の香り…これは…当帰、川きゅう、地黄、芍薬、4種の植物を合わせた"漢方薬"をベースにつくる料理…「四物湯」だ!!」


「し…四物湯言うたら…死に瀕した旅人が食べた途端に蘇ったゆう逸話まである品――」



緋沙子ちゃんは薬膳料理のエキスパート。薬膳の薬効成分はカレーと似ている。そこに目を付けた緋沙子ちゃんならではの薬膳カレー。四物湯のおかげでナオちゃんのカレーのインパクトが消えた。これは、勝敗が決まったも同然。




「さぁ!新戸緋沙子ちゃんの得点はぁっ!?92点だ――!ナオちゃんの得点を軽々越えての90点台暫定1位だああああ!」


「ひひ…ひひひひ…ひ…緋沙子お姉さま…」




さっきまでえりな様えりな様といっていたナオちゃんがまさかの緋紗子お姉さま!変わった!?な、なにが起きたんだろう……あ、いけないいけない!お仕事忘れてた。




「さあっ!Bブロックを観戦中の皆様ーっ!!ランキングをご覧下さーい!暫定順位は1位新戸緋沙子ちゃん、2位北条美代子ちゃん、3位吉野悠姫ちゃん、4位貞塚ナオちゃんこのようになってまーす!続いての登場は――アルディーニ兄弟!!」




その前に、準備があるようで。ちょっとした休憩になった。審査員たちの話題は先程出した悠姫ちゃんの料理の話に。




「いっや〜〜ホンマに!シビエカレー!!想像を越える絶品やったでぇ!溢れる野性味!まさか"鴨カツ"が味わえるとはな!」


「臭みはターメリック等と"オレンジ"の香りで見事に和らげている。フランス料理でも鴨には伝統的にオレンジソースが添えられますね」


「はい!果肉と皮をルーにも入れました!これが特製のガラムマサラとよく合うんですよねー!」




悠姫ちゃんのこの明るい性格があってこそできる猟師たちとのパイプ。しっかりしたね。オジサマのハートを鷲掴みってね?




「北条さんの品も素晴らしい出来でした…スパイスとパイナップルの香りで彩られた「ボゥルオカリーチャーハン」」


「―次の準備が整ったようでーす。先手はイサミ・アルディーニくん!あらコレは…カルツォーネでしょーか?普通はモッツァレラチーズ等ピザの食材を具にする品では…?」


「という事は…おぉ!!中にカレーが!つまり…コレは「イタリア式のカレーパン」!?っほぉ〜〜っ!今までのと趣向が変わってオモロいやないけ!!ほな…いきまひょか!」


「こ…これはトマト!?ジューシーなトマトのコクがカレーから溢れてくるぅ〜〜!!」


「その中身は…"トマトの水分だけで"作ったカレーです!」




なるほど、鍋にトマトを敷き詰めて加熱すると沢山の水分がでる。彼はその酸味に合う特製のミックススパイスを加えることでトマトの旨味がしっかりと出る濃厚なカレーに仕上げた。イサミくんは今まで兄のタクミくんが目立ちがちだったけど、やっとイサミくんが目立つばんがきた。兄を越すためにね。




「イサミくん…87点っ!暫定2位にー!続いて…タクミくんお願いしまーす!」


「お…!次の品は…パスタか!二品続けてのイタリアンやな!」


「ベーコンにピーマンマッシュルーム…具はナポリタンっぽいけれどケチャップの代わりにカレーソースを使っている。パスタはフィットチーネに近い形状ね…」


「それ以外は…特に目立つ所はあらへんなうーむ…さっきのカルツォーネが面白かっただけに見た目の期待感はイマイチ…」


「牛すねと鶏ガラの出汁に…フェンネルとグリーンカルダモンで香り付け!鼻腔をくすぐる素晴らしいカレーソースだそれが幅広の麺によく絡む…!」




さらに、隠し味にたまり醤油を使い、パスタもターメリックを練り込んだパスタにパルメザンチーズを練り込んだパスタを挟んだ3つの層のパスタだった。それがコクを生み、深みをだした。




「タクミくん90点!!おおお90点台がまた出ましたー!あの美代子ちゃんを越えたあああ!次の料理人はー…お待ちかね!私の側近蓮城ゆうくんの登場だあああ!頑張ってー!」


「姫、声援ありがとうございます。どうぞ」


「これは…グラタンか?いや、グラタンやない…!」


「ドイツ料理のアウフラウフを元にしたミルフィーユカレーです」


「ミルフィーユカレー!?」




審査員達が興味深そうに見つめる。アウフラウフはグラタンと同じようなもの。パスタや野菜を積み重ねて焼いたもの。




「カレーとご飯のミルフィーユ!?お米をうすく伸ばしてミルフィーユ生地を作ったのね!そして、このルー……野菜の味がとても濃厚でチーズと合っているわ…!」


「このルーには人参や玉葱をはじめとした20種の野菜を溶け込むまで煮てあります。そして、チーズとの相性を更に良くするために、少しチーズを加えて煮込みました。3層に分かれていますが、中の段をスパイシーにすることで飽きにくくしてます」




今までとは違う、デザートのようなグラタンのようなカレーに審査員は興味津々。お米は、チヂミのようにパリッとすることによって食べやすく、本来のアウフラウフは家庭料理。カレーも今や家庭料理。似たものどうしだから相性はいい。審査員もゆうくんの料理に子供にかえりバクバクと食べている。




「ゆうくん93点!これはあああ緋沙子ちゃんを越えて暫定1位に躍りでたああああ!!さすがわたしのゆうくんだああ!さてBブロックもいよいよ大詰め!残る料理人は――」


「は〜いどうぞ」


「って!アリスちゃん進行無視しちゃだめー!」


「アンナーしょうがないじゃない。待ちくたびれちゃった…」




さすがアリスちゃん。マイペース。アリスちゃんが審査員の前に自分の料理を置いた。それは、カレーとは言えないものだった。でも、アリスちゃんはこれはカレーだと言う。




「これは…どう形容したらよいか……温かさと…冷たい物が…えー……」


「このカレーソースは…泡状にされとってほんのり温かい…とろけるような舌触りやなぁ…ウン。トマトのムース…こ、これは冷たくて…その…」


「スパイスを加え"アルギン酸ナトリウム"で固めた物ですわ。冷凍粉砕したフォアグラの粉とターメリックを合わせたムースに中央の白いものは6種のチーズとジャガイモのピューレ…これも一度急速冷凍したので舌の上でふわりと溶けます。お口が冷えたらサクサク食感のパイ生地をどうぞ。コリアンダー等のスパイスで風味をつけたパイが舌を休ませてくれます」




thermal sense(サーマルセンス)。様々な"温度感の差"で料理を組み立てる分子美食学の考え方、その概念を詰め込んだ一皿だということ。




「分かりきってますがーそれでー?結局……美味しいんですかー?」


「無論ッ!美味い!!……だがッこの美味しさを100%言い表す言葉を…私は……持っていない……!」


「95点――――!!!ゆうくんを越えて暫定1位にぃ!複雑な気分だああ!」




アリスちゃんが緋沙子ちゃんとゆうくんに自慢してるのが見えて、混ざりたい。でもまだ仕事があああ。実況でテンション変えすぎてキャラが崩壊しはじめてる気がする。




「……あ…あのうわ、私のカレー…まだ…です……」


「!あああ!恵ちゃんごめんねええ……忘れてた!」


「へぁああっ…こちらこそごめんなさいごめんなさいぃ〜」




お互いがお互いに謝るよく分からない図がしばらく繰り広げられて、恵ちゃんが自分の料理を出す。鍋だ!そして、いかついおじさまがたが恵ちゃんの応援に来ていた。すごい。




「「アンコウのどぶ汁カレー」…です!」


「染み渡る…っ!やみつきになる美味しさだわ…!!」


「にしても…アレでんな。さっきの料理の後やと余計に感じるで…何ちゅうか…人間味に溢れた品ですわぁ…」


「具は鮟鱇の身・皮・ひれ等を始めとして…むぅ!?小菊南瓜に立川牛蒡…赤筋大根!」


「は…はい!どれも私の地元の食材なんです」



それを活かしたくて色々試した結果、どぶ汁ならできると分かった。それに、自分が育った土地の匂いまで感じてもらえるようなカレーを作りたかったと恵ちゃんは語った。




「88点!予選突破ならずとも、美代子ちゃんイサミくんを抜いて5位に入ったあああ!」




これにて、Bブロックの予選は終了したので私は片付けやらの後始末をすることに。慧先輩がAブロックの見学に行ってしまったから大変だー!ゆうくんにAブロックの結果を見に行かせて私は片付けを頑張る!




「あ、ゆうくんからだ!……もしもーし」


『姫。Aブロック終了しました』


「はーい。ゆうくんも終わったばかりなのにごめんねー?大丈夫?」


『姫のためなら疲れなんて感じません。で、結果なのですが……1位葉山、2位タイ幸平と黒木場、4位美作です』


「ありがとー!……予想通りの結果かー」




予想通りすぎてつまらないけど。とくに美作くんなんて予選にあがらなくて良かったのに。肉魅ちゃんとか伊武崎くんたち頑張って欲しかったよ!




『あの…』


「なにー?」


『美作昴って何者なんですか?』


「一言で言うなら真似っ子くん。私は彼のやり方は好きじゃないなーむしろ大嫌い」


『それは……?』


「あはは。まあ、本戦までのお楽しみってことでーゆうくん帰っておいで?お祝いしよ?」


『はいっ!!』




片付けもあらかた終わった。お祝いどんなの作ろうかなーゆうくん野菜大好きだから野菜いっぱい使おうかなーえりなちゃんとか呼ぶと分かりにくいけどむすーっとするから今日は2人きり。主役はゆうくんだから。楽しみだなとワクワクしながらゆうくんの帰りを待った。


back



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -