モヤモヤした気持ちのままスクアーロの部屋を出てある小屋へと向かう。その途中も私の心は晴れることはなかった。
「べスター、ビスター帰ってきたわよー」
「「ガウッ!」」
私の声に反応するように2匹のホワイトライオンの子供が鳴いて走ってきた。可愛い。すっごく可愛い。私の癒し。
「ごめんね、寂しかったよね……外に散歩に行きましょ?」
「「ガウッガウッ!」」
「久々だからゆっくりのんびり行こう」
抱き上げて頬ずりしていた2匹を地面におろして歩き出す。ヴァリアー邸はとても大きくて広い。だから、庭ももちろん広い。早く歩いても1時間以上はかかるから今日は久々の再会だし長くいたいし、中に戻ってザンザスと遭遇して気まずくなりたくないのでゆっくりのんびり歩く。
「あら?フィロメーナちゃんじゃない!散歩?相変わらず可愛いわね〜」
「そうでしょ?定期的に外に出て運動しないと」
ルッスがしゃがんでよしよしとする。2匹は嫌がらない。最初に会った時からみんなを警戒しないからきっと分かっているんだろうね、危害を加えないって。頭のいい子。ルッスに撫でられて気持ちが良さそう。
「あ、そうだフィロメーナちゃんボス知らないかしら?」
「……私が知るわけないじゃないの」
「そうよね〜んもうっ!どこ行っちゃったのかしら」
「急ぎの用事かしら?」
「急ぎではないんだけど〜早めに言った方がいいと思ってね〜」
「なにを?」
「ちょっとね〜。私はもう少し探してみるわ。あっ、そうだわ!早く仲直りしてちょうだいね?私達冷や冷やしてるんだから」
「…善処する」
ルッスと別れて散歩を再開した。暫く歩いていると急に1匹何かを察知したような動きをとりはじめたので止まって様子を見る。
「べスター?」
「ガウッ!」
「ちょ、べスター!」
べスターはすごい速さで鳴きながら走っていく。私とビスターはべスターに引っ張られるようについて行く。いったいどうしたんだろうか?
「クゥーン」
「ザンザス……」
ベスターが思いっきり走るのでリードが手から離れてしまいその隙に一気に走り出したので慌てて追いかけるとザンザスが木にもたれかかっていて、べスターは嬉しそうに鳴きながらザンザスの手をすりすりしていた。ザンザスも拒否はせず黙って見おろしていた。
「べスターを返して」
私の言葉には反応を見せずに自分の手に体をすりすりとしているべスターをじっと見つめている。まるで私が視界に入っていない、いないもののように扱われているよう。それにイライラして視界に入るように近づく。
「……貴方が見ているべスターを返して欲しいのだけれども」
「………」
「…聞いてるの?」
下を見ているザンザスの目線に合わせようとしゃがみ込もうとすると腕を捕まれ引っ張られザンザスの膝に座らされる。そして腰に腕をまわされた。
「っ、ザンザス…?」
「うるせぇ……黙ってろ」
ザンザスに黙れと言われたのて大人しく黙る。昨日と違って口調は優しい。いくら喧嘩中だとはいえ好きな相手に腰を抱かれこの体制のまま見つめられるとドキドキもするし緊張もする。2人の空気を察したのか2匹は姿をいつの間にか消していた。察しが良すぎる。
「…フィロメーナ」
「……なに?」
「……嫌か」
「なにが?」
「お前以外の女といるのが」
何を今更。昨日も散々言ったのにまた聞いてどうするつもりなのかと思いながらも口を開く。
「……嫌に決まってるでしょ?全然、私には目もくれない…構って欲しい」
「ふっ……そうか」
「なにがそんなにおかしいの?」
ザンザスは笑うと私の後頭部を片手で掴み引き寄せた。2人の距離がグッと縮まる。昨日の緊迫とした雰囲気ではなく、懐かしい穏やかな昔の私達が一緒にいる時の雰囲気なので自然と私の顔は赤く染まる。
「可愛げがねえなフィロメーナ」
「……あなたのせいよ」
「最近は素直だ……普段からそう素直なら可愛げがあるんだがな……」
「……ちゃんと話さないと私の気持ち分かってくれないじゃない……」
「…分かってる」
「え?……っ!?」
ザンザスから唇を塞がれる。それに抵抗するが、男女の力の差は歴然で離れず抵抗すればするほど口づけは深いものに変わっていき、こんな深いのは初めてなので次第に抵抗をやめて受け入れる。
「……私の気持ち分かっていながらあんな事したの?」
「さあな」
「私が子供だから…?まだザンザスの隣には立てないの……?」
「…泣くんじゃねえ」
「泣いてないわ……いつになったら私は貴方に身体を捧げられるの…?」
「……」
「……ごめんなさい。雪姫の家に帰るわ。頭を冷やす」
無理矢理ザンザスから離れて邸内に入ろうと足を動き出す。
「フィロメーナ」
名前を呼ばれピクリと反応し足を止めるが振り返らない。さっきから涙が止まらない。もうザンザスの前で泣いたので見せたくなかったのに2回も見せてしまった。昔の泣き虫な私じゃない大人になった強い私を見せたいのに。
「………今でも変わらねぇ」
言っていることは理解できたが何も反応を見せずに歩き出す。涙はさっきとは違う意味で止まらない。まだ私はザンザスに愛されているかもしれない嬉しさに。