冒涜的コンビニエンスストア

 

 最近、冒涜的生物の人権とやらが認められてきたらしい。
 人間並み――いや、それ以上の知識や能力を有した半魚人や喰屍鬼などは、既に社会進出しているんだけどね。
 俺が言っているのは、スキュラ種のことなんだよ。今までスキュラ種は冒涜的蛸の派生種として、犬や猫と同じものとして扱われていたけど――とある冒涜的生物学者の功績により、スキュラ種にも人権を与えることになったらしい。
 詳しくは知らないけど、この前ニュースで報道されていたからそうなんだろう。スキュラ種の賢さも人間以上だからだとか、教育によって個体数の増加がどうのと言っていたし。
 兎に角そういう訳で、スキュラ種にも働く権利とかが与えられた訳なんだ。うん。


 何でそんな話を唐突にしているのかって?
 それはね――俺の経営しているコンビニに、スキュラソウダコがバイトしに来たからだよ。
 御丁寧に履歴書持参でね、働かせてくださいって。触腕うねうねさせながらやってきた訳だよ。
 どうしたかって? そりゃあ貴方、雇いましたよ。ええ。だって泣きつかれましたもん。此処しか働ける場所が無いって。
 ああ、通勤の関係でね。家は海らしいから、海から近いこのコンビニが理想なんだってさ。
 スキュラ種も半魚人も、海の近くじゃないと辛いもん。判るもの、俺も半魚人だから。だから雇った訳ですよ、ええ。仲間ですもの、雇いますとも。ねっ。
 それにソウダコ君、働いて旦那に海産物以外を食べさせてやりたいって。良い話だよねえ。


 でも旦那、人間らしいんだよね。海で暮らしてるって、どういうことなんだろうね。敢えて聞かなかったけど、魔術でも使ったのかな?
 まあ、深く聞く必要は無いけどね。ちゃんと働いてくれればそれで良いし。ねっ。

「店長、掃除終わりましたよ」

 なんて回想している間に、ソウダコ君がコンビニ周辺の掃除を終えたようだ。流石というべきか、触腕が沢山あるから早い早い。
 しかも結構伸びるしね。俺の身長では届かないところも拭いてくれるし、本当に助かるよ。
 でも身体がぬめぬめしているから、手袋必須なんだけどね。俺もだけど。ははは。

「お疲れ、じゃあレジお願いね。そろそろ昼時だから、人増えてきたし」
「はい!」

 にゅるにゅると、ソウダコ君がコンビニ内へ入って行く。
 その跡には粘液が付着しまくりなんだけど、床は凹凸の付いた滑り止めタイルだから、御客さんが滑って転ぶことは殆ど無い。俺も粘液垂れ流しだからね、元からこういうタイルなんだよ。
 まあ、俺の場合は靴を履いたら何とかなるんだけどね。ソウダコ君、脚が腕で腕が脚だから。靴履けないからね。仕方ないんだよ。ねっ。

「合計1080円です。はい、100円のお釣りです! またのお越しをお待ちしております! お買い上げ有り難う御座います、合計735円です!」

 やっぱり早いなあ。手があんなにあると、レジ打ちも早い早い。それにソウダコ君、頭が良いからさ。一度に何人もいけちゃうんだよね。
 俺も何人か同時にってのはいけるけど、腕の数は負けちゃってるからね。俺二本しかないからね。どう足掻いても、レジ二台掛け持ちなんて出来ないから。ねっ。
 本当、ソウダコ君を雇って良かったよ。いつもこの時間帯はバイト三人入れてるんだけど、ソウダコ君一人で賄えちゃうから助かる助かる。
 他のバイト、積極的にシフト捩じ込んでくるような子達じゃないからさ。積極的に働いてくれるソウダコ君は本当有り難いよ。




――――




「店長、そろそろ上がらせて貰いますね」

 ソウダコ君が時計を見てから俺にそう言った。俺も時計を見る。ああ、もうこんな時間か。
 早いなあ、もう夕方じゃないか。そろそろバイトの子達も来る頃だし、上がって貰うか。

「ん、お疲れ様。あっ。良かったらこれ、持って帰りな」

 そう言って俺が指を差したのは、賞味期限が切れ掛けている弁当の山だ。本当はやっちゃいけないことなんだけどね。まあ、俺の奢りってやつだよ。
 他の子と同じ給料で倍以上働いてくれているんだし、これくらいしても良いじゃない。どうせ賞味期限切れ掛けているやつは、御客さん買わないし。それならあげちゃっても良いじゃない。ねっ。

「いつもすみません」
「良いって良いって、働き者な君へのボーナスだよ。ボーナス。棒も茄子は入ってないけどね」
「あははっ、有り難う御座います!」

 けらけらと笑いながら、ソウダコ君が店の奥へ引っ込んだ。暫くすると制服から私服に戻ったソウダコ君が出て来て、自前の防水鞄にさっきの弁当を入れていった。
 二つだけ?

「遠慮しなくて良いんだよ? 全部持って行きな」
「でも」
「どうせ廃棄処分になっちゃうんだから、貰って貰って。君って結構食べるじゃない。そんなんじゃあ身が保たないよ? ちゃんと食べなきゃ」
「あ、有り難う御座います! じゃあ、全部貰いますね」

 そう言ってソウダコ君は、弁当を六個鞄の中へ丁寧に入れていった。
 うんうん、若者はちゃんと食べなきゃね。ソウダコ君、まだ二十歳らしいし。俺なんかもう、数十世紀くらい生きちゃってるけど。ははは。寿命が無いから仕方ないけど。ねっ。
 スキュラ種も長生きらしいけど、最近現れた種類だから、どれくらい生きるのか判らないんだよね。
 もしかしたら俺と同じで寿命が無いかも? だったら結構長い付き合いになりそうだよね。流石に後数百年もコンビニ店長してるか判らないけど、一緒に働きたいものだねえ。

「じゃあ店長、お疲れ様でした」
「おう、お疲れ様。また明日ね」
「はい! また明日、宜しくお願いします」

 深々と頭を下げたソウダコ君は、鞄を大事そうに抱えてコンビニから出て行った。
 本当に良い子だなあ。俺の息子もあんなんだったら良かったのに。
 成人して自分が半魚人の子って知った時、あの馬鹿息子、グレて地上に出たっきりだもんな。今頃何処で何してんだか。
 あの頃はまだ俺達が化け物扱いだったから、生きてるかどうかも判らないなあ。生きてたら一発殴ってやりたいね。あと、ソウダコ君の爪の垢を煎じて飲ませたいね。うん。

「店長っ、こんばんはっ!」
「まだ時間的に『こんにちは』じゃね?」
「ちぃっす、バイト入りまぁっす」

 あっ、バイトの三人組が来た。
 同じ大学らしくて、仲良いんだよねこの子達。でも人間、喰屍鬼、クトーニアンって組み合わせは凄いよね。未だ嘗て見たことない組み合わせだもの。
 これも時代なのかなあ。良い時代になったものだよ。俺の生まれた時代なんて、迫害が凄かったからね。殺された仲間も居たりしたよ。
 この子達には、これから先も仲良く生きて欲しいものだねえ。

「はいはい、こんちにこんばんは。早速着替えてきてね」
「はいっ!」
「はい」
「はぁい」

 ああ、平和って素晴らしいなあ。これからもこんな毎日が続けば良いのに。

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