棄てる者と拾う者
それは日課である、海へ散歩に行った時のことなんだけどね。
ビーチサンダルで砂浜を歩き、緩やかに押し寄せる波に足を晒しながら、綺麗な石や魚の死骸を眺め、自然の生み出す美醜について考えていると――何かが砂浜へ打ち上げられていることに気付いたんだよ。
何だろうと思い近くへ寄って見てみると、それは明らかに人間の生首――と思ったけど、よく見たらソウダコという蛸だったんだ。生首に酷似した姿をしているものだから、つい見間違えちゃったんだよ。
でも――この辺りはソウダコの生息地ではなかった筈なんだ。にも拘わらず、こうしてソウダコが打ち上げられているということは、誰かが捨てたか海流に飲まれたかなんだろう。
どちらにしても、このソウダコが哀れな蛸ということに変わりはないけど――。
「――ウッ、ウゥッ」
哀れなソウダコを観察していると、突然呻き声を上げて身悶え始めた。生きていることは何となく判っていたけど、まさか――病気かな? それとも怪我でもしているのかな?
蛸に関する知識が無い僕には、ソウダコが今どんな状態なのか全く把握出来ない。どうしてあげれば良いのかも、全く判らない。
このまま放置して逃げ帰ることも出来るけど、明日来た時に死骸と化していたら――気分が悪いよ。まるで僕の所為で死んでしまったような、そんな感覚を味わう羽目になっちゃうだろうし。それは嫌だ。
恐る恐るソウダコへ近付き、屈み込んで観察してみる。やはり苦しんでいる。やっぱり放置するのは駄目だ。
僕は両手を伸ばし、ソウダコを持ち上げた。結構重い、生首サイズなだけはあるね。
落とさないよう胸に抱え込み、僕は近所の動物病院へ行くことにした。あの病院は冒涜的生物も扱っていた筈だから、多分大丈夫だ。
すぐ楽にしてあげるからね――そう言ってソウダコの頭? を撫で、僕は砂浜を駆けた。
――――
診断結果は、ただの衰弱だった。ただのと言ってもソウダコが衰弱するなんて、余程のことがないとならないらしいけど。
ソウダコの生命力は凄まじく、身体が九分九厘破壊されても再生するらしい。しかも二週間は飲まず食わずで活動可能だとか。つくづく冒涜的な生物だよね。
しかし――そんな冒涜的生物が衰弱するなんて、一体何が遭ったというのだろうか。
本人――本蛸? から話を聞きたいところだけど、今は栄養剤を打たれて穏やかに寝ているし、起こすに起こせない。
まあ「もう大丈夫だから引き取って」と医者に言われ、現在ソウダコを連れて帰宅中だから、帰ってから話を聞けば良いだけなんだけどね。
生き物を飼うつもりなんてなかったのに、どうしてこうなったんだろう。これも運命というものなのかな。
医者から「ソウダコの飼い方〜初心者向け〜」という本を買わされちゃったけど、嵌められたような気がして仕方ないよ。
腕の中で眠るソウダコを見る。可愛いと言えば、可愛い。結構丈夫でしぶといようだし、そう簡単に死んでしまったりはしないだろう。年齢もまだ五歳くらいと医者が言っていたし。
これからどうなるのか判らないけど、仲良くしていけたら良いな。
――――
駄目だ、駄目だよ、無理だよ。この子、凄く凶暴だよ。
本にはソウダコは臆病な性格って書いてあったのに、臆病どころか噛み付こうとしてきたよ。アグレッシヴだよ、危うく指が無くなるところだったよ!
好物のコーラをあげても飲まないし、威嚇してくるし、怖いよ!
ソウダコは今、部屋の隅っこに陣取り、僕を睨み付けている。牙を剥き出しにして唸り、今にも僕に飛び掛かってきそうだ。怖い!
「お、おおお、落ち着いてよソウダコ君。僕は悪い人間じゃないよ、良い人間だよ」
「嘘ダッッ!」
「ひぃっ!」
がちがちと牙を噛み鳴らしながら、ソウダコが僕へ躙り寄ってくる。噛む気だ、噛む気だ!
「ちょっ、ちょっと待ってよ! 本当に僕は」
「五月蠅エッ! テメェ等ハソウヤッテ俺ヲ虐メルンダロウ、殺ス! 殺シテヤルッ!」
ソウダコが跳ねた。床を思い切り触腕で蹴り、僕の顔に向かって飛んできた。
僕、180p以上あるのに! 跳躍力が可笑しいよ!
「う、うわああああああああっ!」
鮫かピラニアを彷彿する牙が、僕を噛み千切らんとしている。このままじゃあ鼻が持っていかれる、確実に持っていかれるよ!
そう確信した時、僕に残された僅かばかりの本能が覚醒したのか――身体が勝手に動いて、ソウダコを白刃取りしていた。
「ムギュウッ」
顔を両端から押し潰されたソウダコは、とても面白い顔をしている。思わず吹き出したら、涙目になっちゃった。可愛いなあ。
「ヤッパリ俺ヲ虐メルンダナ、人間ナンテ嫌イダ」
ソウダコが本格的に泣き始め、僕を潤んだ眼で睨みながら触腕で自分の身を包んだ。多分、精一杯の防御なのだろう。
それにしてもこの子、人間に虐められたことがあるのかな。言動からして、ほぼ間違いない気がするんだけど――どうしたら信じて貰えるのかな、僕が無害だって。
――そうだ!
「じゃあ、君が僕を虐めて良いよ!」
嘘じゃないことを示す為に満面の笑みで言い放ったら、ソウダコが無表情で「気持チ悪イ」と呟いて僕から目を逸らした。
あれ? 間違えたかな?
「ご、ごめんね。でも判って欲しいんだ、僕は君を虐めないってことを。だからMって訳でも、変態でもないんだよ」
言えば言う程、ソウダコの目が死んでいく。何でだよ! 何で判ってくれないんだよ!
こうなったら実力行使しかないよね。僕はソウダコを自分の胸に押し付け、ぎゅっぎゅと抱き締めてあげた。こういう時は肉体言語だって、偉い人も言っていたんだよ。
でも凄くぬるぬるする! 服が粘液塗れに!
「ナッ、何スンダヨ! 離セッ、離セ人間!」
しかもソウダコが暴れるものだから、ぬるぬるが身体に塗りたくられる! ぬるぬるする! でもちょっと気持ち良い、かも。
あ、いや、駄目だ僕、落ち着け。こんないたいけな蛸を相手に欲情なんかしたら駄目だ。
でも僕、人外系好きなんだよね。よく考えたら冒涜的生物って、どう見ても人外だし。ソウダコって凶悪な顔付きだけど、よく見たら可愛いし――あっ、やばい。可愛い。
「早ク離セッテ――エッ?」
僕はソウダコを持ち上げて、牙を剥き出しにしている唇にキスをした。何をされたのか理解出来なかったのか、ソウダコは身体を硬直させて僕を見詰めている。
ああ、可愛いなあ。
食むように唇を愛撫してあげると、漸く何をされているか理解したらしく、顔を真っ赤にさせて暴れ出した。
「ナッ、何シテンダヨ! 変態! 変態! 変タ――ゥンンッ」
ぎゃあぎゃあと五月蠅い口を僕の口で塞ぎ、舌を捩じ込んであげた。蛸の味がする。そういえばソウダコって毒なかったっけ? 粘液は大丈夫なのかな。まあ良いや。
舌を動かしてソウダコの口内を貪る。噛み千切られるかと思ったけど、そんなことは全くなかったよ。
ソウダコは目を固く瞑り、温和しく僕のするが儘になっている。牙に触れないよう歯茎を擽ってあげると、小刻みに身体を震わせて熱っぽい吐息を漏らした。
ああ、何て可愛いんだろう! まるで人間のような反応じゃないか!
「ソウダコ君、とっても可愛いよ」
人の耳と同じ形をした耳――耳? らしきところで囁くと、ソウダコは触腕をびくりと跳ねさせて、僕のことを見詰めた。涙で潤み、熱を孕んだ眼で。
いつでも発情可能って本に書いてあったけど、本当だったんだね!
「ウ、ヤダァッ。下ガ、ムズムズスルッ」
触腕で僕の身体に縋り付き、息を乱しながら涙声で訴えてきた。
下って、多分あれだよね。交接腕? とかいうのを突っ込む穴だよね。
僕はソウダコの身体に手を這わせ、ゆっくりと確実に下へ――触腕の中心へと手を伸ばし、指先で撫でるように探った。
「ヒッ! ヤッ、ヤダァッ、其処、ヤダァッ」
そう言って身を捩っているけど、殆ど力が入っていない。しかも「ヤダ」と言っている割に、何かを期待するような眼差しで僕のことを見ている。
素直じゃないんだね。そんなところも愛らしいよ!
僕は期待に添う為、ソウダコの陰部へ人差し指を突き入れた。
「ヒッ――ア、ヤダァッ――変ニナル、変ニナルゥッ」
ぐちゃぐちゃと中を掻き混ぜてあげれば、ソウダコは涎を垂らしながら身体を戦慄かせた。息も絶え絶えに僕へ縋り付き、やめてやめてと鳴いている。
やめて欲しくない癖にね。ちょっと意地悪しちゃおうかな。
ぴたりと、指を動かすのをやめてみる。するとソウダコは「何デ?」とでも言いたげな眼で僕を見てきた。
やっぱりやめて欲しくないんじゃないか。
「本当はして欲しいんでしょう? ちゃんとお強請り出来たらしてあげるよ」
厭らしく口角を吊り上げて囁いてあげれば、ソウダコは涙をぼろぼろ零しながら「シテクダサイ」と言い、催促するように触腕で僕の手を撫でた。
よく出来ました。
「じゃあ、沢山気持ち良くしてあげるね」
円を描くように肉壁を撫で回し、指を何度も何度も抜き差しした。ぐちゅぐちゅという粘着質な水音と、ソウダコの声にならない喘ぎだけが部屋に響いている。
嗚呼――何て卑猥な顔で喘ぐんだ、この蛸は!
「ヒッ、アッ、アゥッ――モ、モウッ、モウ駄目ッ」
ソウダコの身体がびくんと震え、肉壁が僕の指をぎゅうぎゅう締め付けてきた。ああ、逝っちゃったのかな。
ぐったりと脱力しているソウダコを起こし、僕は――僕はズボンのファスナーを下ろし、パンツを少し下げて陰茎を露出させた。
既に勃起しているそれを見たソウダコは、泣きながら頭を――身体を? 左右に振って喚いた。
「ム、無理ッ! ソンナ大キイノ入ラナイッ!」
僕がそんなことをするような人間に見えるのかな。悲しいよ!
「人差し指が半分しか入らないところに入れたりしないよ」
「ソ、ソッカ」
「だからこれ、その触腕で何とかして欲しいんだよね」
そう言いながらソウダコを持ち上げ、陰茎に押し付けた。ぬるぬるとした感触が堪らない。
ソウダコは混乱しているのか、何の反応もせずにじっとしている。
「ねえ。気持ち良くしてあげたんだから、僕のことも気持ち良くしてよ」
ぷにぷにの頬を指で突きながら訴えると、ソウダコは我に返り――顔を赤らめながら、僕の表情を窺うように見てきた。
にっこり笑ってあげると、ソウダコは困ったように眉を顰め、恐る恐る僕の陰茎に触腕を纏わり付かせる。
「コ、コウカ?」
僕の様子を見ながら、ソウダコが拙い動きで陰茎を扱き始めた。ぎこちない動きではあるものの、生温かく柔らかい触腕がとても気持ち良い。
「うん、気持ち良いよ」
頭を撫でながら言ってあげると、ソウダコは恥ずかしそうにしながらも、必死に僕の陰茎を触腕で擦り上げた。
触腕が予想以上に気持ち良いのもあるけれど、必死に扱いている姿が堪らなく愛おしくて――興奮と涎が止まらないよ!
ああ、もっと色々したいなあ。でも無理はさせられないしね、突っ込んだら間違いなく内臓破裂だろうし。幾ら生命力が異常に高いからって、そんなことは出来ないし――そうだ!
「ソウダコ君、口を大きく開けてくれないかな」
僕の要求に首を傾げながらも、ソウダコは素直に口を大きく開けた。良い子だなあ。最初の凶暴さが嘘みたいだよ! 本に書いてあった通り、ソウダコは本当にちょろいんだね!
口を開けたソウダコを持ち上げ、僕は――僕は陰茎をソウダコの口に突っ込んだ。
「ングッ!」
まさかこんなことをされるとは思っていなかったのか、ソウダコは驚いた様子で目を見開き、苦しそうな呻き声を上げた。
鋭利な牙の先端が、陰茎にちくちく刺さって少し痛い――けど気持ち良い! もしかしたら僕は、マゾなのかも知れない。
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