満月の夜に




斎藤は酔っ払うとめんどくさい
それが嫌って程分かっていたから、二人だけで飲んだりはしなかった
斎藤を上手く丸め込める様な、総司や土方さん、近藤さん
あの辺の人達がいない限り、少人数で酔っ払った斎藤と対峙するのは危険だ
そう思っていたんだが、今回の様な斎藤が十回に一度でも見れるのなら、それもそれで良いかもしれない



ほんの少しだけそう思った
満月の夜







「っ…」
「おい、斎藤っ、大丈夫か?」
「ん…」
「お、まだ起きてたか」



畳の上にゴロンと体を倒して動かなくなった斎藤を、軽く揺すりながら声を掛ける
小さな声を発してピクンと反応をした姿を見て、これなら介抱する必要もないかと一安心した
でも、まだ油断出来ない
勢いに任せてお説教が始まるんじゃないかと身構えた
今回は二人きりで飲んでしまったから助け船は来ない
自分一人で乗り越えるしかねぇんだ



「…う〜」
「…ったく、なんで酔っ払いにビクビクしなきゃなんねぇんだよ」



珍しく斎藤から声を掛けてきた
『一緒に飲まないか』と

他に晩酌の相手が居なかっただけなのか、俺と話したい事でもあったのか
今となっては分からない
それにしても、今夜の斎藤は結構な勢いで飲んでいた
思っている事を表情に出さない奴だから分からないが、もしかしたら色々溜まっているのかもしれない
畳に頬を擦り付け、膝を抱える様に体を丸める斎藤
こんな状態で寝たんじゃ明日の朝、体がバキバキになっちまう

布団に寝かせてやろうと、斎藤の部屋の押し入れから布団を取り出して、敷く
意識はあるものの、自分で起き上がって布団に入る事なんか出来ないだろう
仕方なく力の抜けた体を起こしてやろうとすると視線が重なった



「さ…のっ」
「おう、動けそうか、斎藤っ」
「ん〜んぅ」
「わーったよ」



両脇の下に腕を通し、背中を支えて体を引き起こす
サラッと流れ落ちた長い髪から柔らかな匂いがした
上体を起こすとグテンと俺の体に寄り掛かる様に体を寄せる斎藤
このまま寝かし付けてしまおうと、布団に入るよう促すとプルプルと首を振った
嫌だって言いてぇのか?

それでもいつ始まるか分からねぇお説教にビクビクするのも疲れる
掛け布団を半分捲って、布団をポンポンと叩いても首を左右に振るだけ



「斎藤っ、明日だって早いだろ」
「い、やらっ」
「ねぇとは思うが、寝坊なんかしたら土方さんにどやされるぜ」
「だいじょーぶ、だ」
「いや、んな状態じゃ信用出来ねぇって」
「だい、じょぶっ!」
「斎藤っ、悪い事は言わねぇから早く…」

「やらっ」
「さいと…」
「やーっ、らぁっ!!」
「っ、声デケェって、マジで怒鳴られちまうだろっ」
「左之がっ…やらって事、するから、だ」
「だから、俺は…」

「はぁーっ…」
「っ!!」



ムッとした表情で見つめてくる斎藤
なんとか解らせようと言葉を続けようとすると、口を開けてすぅっと息を吸い始める
さっきよりデカイ声出す気かよっ

こんな状態の斎藤を土方さんにでも見つかったら、下手すりゃ俺が無理矢理飲ましたと思わちまう
斎藤と口をグッと掌で押さえ込む
驚いた様に瞳を丸めながら俺を見上げる斎藤を何とか宥めようと言葉を選んだ



「わ、分かった、まだ寝なくて良いから、デケー声は出すなっ」
「んっ…」



俺の言葉に気をよくしたらしい斎藤はコクンて頷いて返してくる
そっと手を離してやると唇が緩く弧を描いていた
こんな表情、なかなか見る事はないだろう
一先ず静かになった斎藤にため息が漏れる
そんな俺を見てパチパチち瞬きを繰り返した斎藤は、突然此方に両腕を伸ばして





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