満月の夜に




「ん、どうした?」
「…だっこ」
「…は?」



俺も酒を飲みすぎたかもしれない
ちょっと、いや、相当間違えた
何が言いたいのか、呂律も上手く回っていない所もある酔っ払いに耳を傾ける
すると、もう一度俺を真っ直ぐに見つめて



「左之…だっこ」
「…」



聞き間違えじゃねぇな
思わず頭を抱えそ唸って居ると、返事を返さなかった事が気に入らないのか、ムッとして、自分から俺の上に乗ってきた
胡座をかいた脚の上に向かい合う様にして座る斎藤
酔っ払いがきちんと体を起こしていられる訳もなく、フラフラと不安定な体を支える様に背中に腕を回した


「っ…、大丈夫かよ」
「ん…」
「抱っこって…これでいいのか?」
「んぅ…さ、の」
「なんだ?」
「俺、も…左之の様にデカく…なりたい」



デカくって…身長、の話か?
そういや斎藤は新選組の中じゃちいせぇ方だが…
俺の上に乗ればデカくなれる訳じゃ…
…もしかして斎藤を抱えて立てって事か?
だとしたら多少は背が高い奴から周りがどう見えるのかが分かるし、納得出来る
でも斎藤がそれ以上をせがむ事はなく、ただ満足そうに俺の胸にもたれていた



「さ…斎藤?」
「俺は…皆に、救われた」
「え?」
「どうし…たら、もっと、ちかりゃに…」
「…」



大丈夫なとこ噛んじまってるけど
『新選組の力になりたい』
そう言っているのが分かったから何も言えなくなった
斎藤の新選組への想いは人一倍だ
ただ一つと言える居場所を必死に守っている
それは誰が見たって分かる事だ
だけど、本人からしたらまだまだ足りないのかもしれない
土方さんに言ったところで、働きすぎだって言われるだけだし、
総司には流される
平助や新八では望む答えが返ってこない
だからこうやって俺を酒に誘ったのかも知れない

斎藤は今だって十分働いてんだろ

それが俺の率直な感想だ
だけどそれは斎藤の求めてる答えじゃない
足りないと思ってる奴に十分だって言ってやったって、満足なんかしねぇに決まってる



「さ…の?」

「まぁ、今日はあまり考えずにゆっくり休めよ。明日からまた頑張んなきゃなんねぇんだろ」

「ぅむ…」



コクンと小さく疼いて、体を俺に預ける斎藤
そこにはいつものピリッとした空気は無くて、少し弱々しい感じがした
しっかりしてる奴だからつい皆頼っちまいがちだけど、平助と同じ最年少幹部だ
もう少し俺や新八、総司辺りがしっかりして、多少甘やかしてやる位がちょうどいいのかもしれない

いつもは肩肘張っている斎藤が、こうして甘える事が出来るのなら
二人で酔い潰れるまで飲んだくれるのも悪くない
頬に掛かっていた長い髪をそっと指先で流してやると、擽ったそうにしながら今まで見たこともないような柔らかい、甘えたような表情を見せた



「ふっ…左之っ、擽った…いっ」
「ちっと位我慢しろって」
「っ…ふふっ、はっ…あははははっ!」

「ちょ…斎藤っ、声がデケェって」



開け放った部屋の戸の向こう側に広がる夜の景色
月明かりに照らされる庭先に斎藤の笑い声が響き渡る



その後起きてきた土方さんに俺が怒鳴られ、
その姿を見て畳を叩きながら爆笑する斎藤を総司がからかい倒し、
土方さんが今晩で一番デカイ声を上げたのは言うまでもない





.......
(斎藤っ、団子買ってきたんだが、食うか?)

(む?ん…あ、あぁ…しかし、何故俺に?それなら雪村や総司にやった方が…)

(いや、アイツ等の分もあっから、斎藤が貰ってくれっ)

(…よく分からんが、承知した)







満月の夜に

(やっぱり酔っ払った斎藤はめんどくさい)


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