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3章

07


 
あれから1ヵ月くらい経った頃に再びチャンスがやって来た。月曜日は両親ともに帰りが遅いと聞いた俺は、意を決して家に梢を呼んだ。

「部屋きれいだね」
「そりゃ掃除したし」
「そ、そっかー!」

梢が自分の部屋にいるっていうだけで感慨深いものがある。俺が普段寝たり勉強したりしている空間に梢がいてくれるだけで嬉しく思った。そして緊張する。
俺の部屋を見回す梢もどこかぎこちない。次はちゃんと準備してくるって宣言したから、今日はそういう覚悟を持って来てくれたんだと思っていいはずだ。

「梢」
「ん……」

自分のベッドに座ってその隣を叩いて促すと梢は素直に従った。身をこわばらせる梢にキスをする。唇までも震わす梢の緊張を和らげる術を俺は知らない。だって、多分俺の方が緊張している。

「嫌なら殴っていいから」
「う、うん」
「えっと……電気消す?」
「消してほしい、です」

梢が敬語になるのは緊張している証拠だ。電気を消しても夕日が差し込んでいて梢の顔はちゃんと見えるから、あまり意味はなかったのかもしれない。むしろ雰囲気が増して、今からそういうことをするんだと実感させられた。
大丈夫、準備はしてきた。シミュレーションも、頭の中で何回もした。

「ん……」

焦ってはいけない。優しく撫でるだけで梢の体はピクリと動いた。当たり前だけど女の子の体って柔らかい。家に来る前にシャワーを浴びてきたんだろうか、何の匂いかはわからないけどいい匂いがした。
耳、鎖骨、首筋と、丁寧に指と舌で触って、形や大きさ、ホクロの位置をインプットしていく。両親でさえ知らない梢を俺だけが知っている……それがどんなに嬉しいことか。今までに見たどんなAVよりも自分が興奮しているのがわかった。

「っ……」

愛撫している間梢は割と静かで少し心配したけど、どうやら口に腕を当てて声を押し殺してるようだった。家には今誰もいないから聞かれる心配はないのに。まあ、恥ずかしいんだろう。必死に我慢してる姿が健気で可愛らしいし、その隙間から漏れる吐息がすごくえろいから好きにさせておくことにした。

「……」

こういう時、何か喋った方がいいんだろうか。甘い言葉のひとつやふたつ、投げかけた方が安心するんだろうか。ていうかこれ、梢固まってないか?ちゃんと息してる?

「大丈夫?」
「っ、ちょっと……あの……」
「……やめとく?」
「ううんっ」

怖くなってしまったんだろうか。女の人は初めては痛いって言うし、心の準備が出来てないんだったら無理にするわけにはいかない。第一に優先すべきは梢の気持ちだ。やめるか聞くと、梢は首を大きく横に振った。

「息、止めてたら苦しくなっちゃって……」
「え、してよ」
「うん……でも……」
「?」
「どこ向いても京治くんのにおいでいっぱいで……くらくらする……」
「!」

目線を泳がせてとんでもないことを言われて、未だかつてない程"キュンとする"のを感じた。ふと先日の木兎さんの言葉を思い出す。確かにこんな煽られ方したらどうなっちゃうかわからない。

「わっ!?」

めちゃくちゃにしてやりたい衝動を理性でおさえながら、ベッドの端に寄せていた布団を梢に被せて自分もその中に入った。夕日が遮断されて視覚以外の感覚が研ぎ澄まされていく。自分のにおいなんてわからないけど、首筋に顔を埋めると確かに梢のにおいを感じてくらくらする感覚がわかった気がした。

「な、何を……」
「慣れて」
「!」

においだけでくらくらされてたらこの先が思いやられる。これから誰にも見せたことのない俺を、たくさん感じてもらうんだから。


***(夢主視点)


京治くんとエッチをした。もちろん初めての経験で、最中はいっぱいいっぱいだった。終わった今もまだ身体が熱い。じんじんと感覚が残ってるし、頭がふわふわしてる気がする。ムダ毛とかちゃんと処理したつもりだったけど大丈夫だったかな。臭いとか思われてないかな。今更な不安が遅れてやってきた。

「大丈夫?」
「うん」
「タオル、持ってくる」

なんか終わった後って照れくさい。どんな風に振る舞えばいいんだろう。
京治くんも初めてだって言っていた。わからないことも多かったはずなのに、それでもいろいろ準備をしてくれたし私の様子を見ながら気遣ってくれたのは十分伝わっている。京治くんのにおいがいっぱいでうまく呼吸ができないと言ったら布団を被された。そんなことされたら余計息できなくなっちゃうのに、真っ暗な中で京治くんのにおいに包まれて激しいキスをされて、もうどうにかなっちゃうかと思った。

「……」

思い出してまたたまらない気持ちがこみ上げてくる。意地悪な京治くんも、かっこよかったなぁ。

「痛くなかった……?」
「ありがとう、大丈夫だよ」

戻ってきた京治くんから濡れタオルを受け取る。ほんのりと温かい温度に京治くんの優しさを感じた。

「本当?」
「最初はちょっとだけ……でも、思ってたより大丈夫だった」
「良かった」

初めてはすごく痛いって聞いてたけど個人差があるようで、私は割と大丈夫な方だったのかもしれない。出血もシーツを汚す程は出なかったから良かった。

「正直に言ってほしいんだけど……気持ちよかった?」
「えっと……」

京治くんが不安そうに聞いてきた。確かに気持ちいいというか……くすぐったいような、ゾクゾクする感覚はあった。下腹部にキュンとする何かが蓄積されてく感覚もあった。でも多分京治くんが気になってるのはそういうことではないと思う。

「イく……とかは、わかんなかったんだけど……」
「……」
「幸せだったよ」
「……俺も」

京治くんがどうこうっていう問題ではなくて、まだ快感に集中出来る程私の経験値は高くない。それでも京治くんの肌を感じた時間は確かに幸せだったと自信を持って言える。そう伝えると京治くんは嬉しそうに笑って頷いてくれた。

「京治くんは気持ちよかった?」
「うん。なんかごめん、俺ばっかり」
「ううん、嬉しい」

京治くんが私に欲情してくれて、気持ちいいと感じてくれたことが嬉しい。京治くんが気持ちよくなってくれれば私の快感なんて二の次でいい、なんて言っても京治くんは納得しないんだろうけど。

「次はもっと、勉強してくるから」
「え……」

勉強って……エッチな動画とか見るのかな。セクシーな女性の裸を見る京治くんを想像して嫌だと思った。軽蔑とかじゃなくて、京治くんが私以外の女性のそういう姿を見ることにヤキモチを妬いてしまっているんだと思う。京治くんを肌で感じて、私は前より欲張りになってしまったのかもしれない。

「しなくていいよ」
「でも……」
「わ、私で勉強してほしい……というか……」
「……!?」

口に出してから結構すごいことを言ってしまったのだと気付いた。こんなのスケベな女だと思われてもしょうがない。いつもだったら恥ずかしくてたまらなくなるところだけど、恥ずかしいところはさっき全部見せた。耐性ができている今だからこそ、いつもより大胆なことを伝えられたのかもしれない。

「京治くんだけが頑張る必要はないと思うし……私も、一緒に……」
「うん、わかった。ありがとう」
「……うん!」

必死に言葉を付け足すと京治くんは優しく笑ってくれた。親にも友達にも見せられない、情けなくていやらしい私を知ってるのは京治くんだけだ。その事実が私に得体の知れない幸福感を与えた。京治くんと経験する初めてを、これからもひとつずつ大事に重ねていきたい。



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