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3章

03


 
「赤葦あけおめ!夜野田とちゅーした?」
「……あけましておめでとうございます」
「ちゅーした??」

年明け最初の部活、俺の挨拶を待たずして投げられた質問には答えたくなくてスルーしようとしたけど見逃してくれないみたいだ。
部内恋愛をしてるからには多少からかわれるのは覚悟の上だ。付き合うまでの経緯ではお世話になったわけだし。でも、だからと言って事細かに報告する気はない。大体そんなこと聞いてどうするんだと思う。梢も知らない間に先輩達に色々知られてたら嫌がるはずだ。

「おい木兎、あんまちょっかい出すなよ」
「えー、だって気になるじゃん!」
「気持ちはわかるけど」
「今一番楽しい時期なんだから温かく見守ろうぜ」

小見さんと木葉さんがフォローしてくれたおかげで、木兎さんは「ちぇ」と口を尖らせてこの場を離れてくれた。助かった。

「夜野田あけおめ!赤葦とちゅーした?」
「フェッ!?」

助かってなかった。何なんだあの人。俺はともかく、普通女子にそういうこと聞くか?

「ご、ごめんなさい見逃してください……!」
((……したんだ))

俺の立ち回りも空しく、梢の反応を見ればキスしたかどうかは一目瞭然だった。

「やっぱなー!赤葦むっつりだからなー!」

人の彼女になんてことを言うんだ。俺はむっつりなんかじゃ……いや、むっつりなのか……?今までを思い返してみると確かに手を繋ぐためにどうするかとかキスするためにどうするかとか、たくさん考えてきた。これをむっつりと呼ぶんだったらそうなのかもしれない。

「ちゅーしたんだ。やるじゃん」
「……チャンスがあったら程度に考えてたつもりだったんですけど、いざ別れ際になるとこのまま帰したくないって思ってしまって」
「ノロケか!」
「無自覚バカップルごちそうさまです」
「……」

なんだか俺の方も喋れば喋る程墓穴を掘ってしまう気がして、もう口を閉じることにした。


***(夢主視点)


年が明けて最初の土曜日になった。いよいよ春高が始まる。梟谷は毎回ベスト8には入る強豪校だ。私からしたらそれだけで誇らしいことなのに、みんなの目標は「優勝」。
木兎さんは「全部勝つ」とよく言う。難しい日本語ではないけれど、それがどんなに難しいことかはみんな知ってる。この場所に負けるつもりで来ているチームはいない。その人達から勝ちひとつもぎ取るだけでも大変なことだ。

「あ、研磨くんおーい!」
「……」

開会式が終わって選手のみんなと合流しようと動いていると音駒の集団を見つけた。真っ赤なユニフォームだからわかりやすい。一番話しかけやすい研磨くんに声をかけると気付いてくれたのに返事はしてくれなかった。照れ屋さんだから仕方ないのだ。

「夜野田ちゃん聞いたよー。赤葦と付き合ってんだって?」
「は、はい!おかげさまで!」
「いや俺は別に何もしてないけど」

研磨くんとお話しようと近づいたら後ろから黒尾さんがぬっと出てきた。ニヤニヤして言われたのは京治くんとのこと。そういえば黒尾さんも付き合う前の京治くんの気持ちに気付いてたって言っていた。

「告白の言葉は?」
「え……と……」

もちろん一言一句間違えずに覚えているけど、言っていいのかな。多分京治くんは細かいことを先輩達に知られるのを嫌がると思う。

「いやね、心配なのよ。赤葦がちゃんと男としてリードできてるか」
「だ、大丈夫です!問題ないです!」
「全力のノロケごちそうさまです」
「え!?」
「良かったな赤葦、夜野田ちゃんは大満足だってさ」
「……どうも」
「!?」

黒尾さんの視線を辿ると私の背後に京治くんがいた。大満足だなんて誇張して言ったのは黒尾さんの意地悪だ。でも図星だから何も言えない。

「梢にカマかけるのやめてください」
「はいはい」

赤葦くんと黒尾さんの会話に私はいまいちピンとこなかった。いったいいつカマをかけられたって言うんだろう。

「はは、わかってない顔だね。いいよ教えてあげよう」
「は、はい!」
「男としてちゃんとリードしてるかという質問に、夜野田ちゃんは食い気味で問題ないと答えた」
「はい」
「つまりそういう進展があったってことでしょ?ちゅーぐらいしたのかな?」
「!」

何気ない会話だと思っていたのに、そんなことまでわかってしまうとは……黒尾さん恐るべし。きっと黒尾さんにとって私なんか小学生を扱うようなものなんだろう。隠し事をできる気がしない。

「今の反応も肯定してるようなもんだよ。夜野田ちゃんは可愛いなー」
「黒尾さん」
「はいはいごめんって」

せっかく京治くんがうまく躱してくれてるのに、私のせいでどんどん露呈されてしまっている気がする。申し訳ない。京治くん怒ってるかな。

「……怒ってないよ」
「! うん」

チラリと横目で見たら思っていることをズバリ言い当てられた。京治くんにも私の考えはお見通しらしい。京治くんにわかってもらえるのは嬉しいな。

「むしろ嬉しい」
「え?」
「"大満足"」
「!!」
「……今後も精進します」
「こ、こちらこそ!」

そういえば会話を聞かれていたんだと、遅れて羞恥心が襲ってきて変な返事をしてしまった。



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