- ナノ -

「名前先輩ぃぃい〜〜〜！！」
「！？」


ある日、後輩が号泣していた。
話を聞いてみれば失恋したらしい。相手は……成宮くん。その名前を聞いた瞬間ドキリとした。今までに経験したことのない感情が渦巻く。擬音で表すなら…ざわざわ。そんな感じがした。


「わっ、私、本当に好きだったんです…！なのに……ううっ…」


話を聞いてみると、後輩は何も本気で成宮くんと付き合えると思って告白をしたわけじゃなくて、ただ気持ちを知ってもらいたくて想いを伝えたということだった。
けれど、成宮くんはその言葉を最後まで聞かずに「無理」と一言で終わらせてしまったらしい。それが悔しくて悲しいと嗚咽まじりに伝えてくれた。
身勝手な人だけど、そんな不愛想な態度を成宮くんがとったなんて信じられなかった。けど、嘘をつくような子じゃない。









「うちの後輩泣かしたらしいね。」
「…は？」


大事な後輩を傷つけられて見て見ぬふりはできなかった。せめて真相だけでも突き止めないと。何か勘違いがあったのかもしれないし。


「告白されたんでしょ？」
「あー……あの子ね、吹奏楽部の子。」
「…ねえ、何で断ったの？」
「…何で名字さんがそんなこと気にするの？」
「！」


聞かれてまたドキリとした。
確かに…第三者の私が介入するようなことじゃないけど……どうしても、信じられないんだもん。成宮くんがそんな酷い態度をとったなんて。


「…可愛い後輩が泣いてたから。」
「…なんだよ、じゃあ名字さんは俺にその子と付き合えって言うわけ！？」
「なっ…別にそういうわけじゃ…！」
「名字さんは俺がその子と付き合ってもいいの！？」
「…っ！」


まただ。また、ざわざわし出した。
後輩のことは好きだし大事だと思ってる。可愛い後輩の恋、応援したいって思うのは先輩として当たり前のことなのに、相手が成宮くんと聞いた瞬間嫌だと思ってしまった私がいた。それが…嫌だった。
私と成宮くんはただのクラスメイトなのに。最近ちょっと話しかけてもらえるようになったからって、調子にのってしまっている自分が嫌だった。あれだけ勘違いするなと自分に言い聞かせてきたのに。
後輩の失恋は、いつの間にか芽生えていた私の気持ちを自覚させるきっかけになってしまった。最低だ、こんなの。


「……成宮くんがいいなって思えば、付き合えばいいと思う……」
「はああ！？付き合うわけねーじゃん！」
「だからっ、そんな言い方ないでしょ！？」
「無理！無理なもんは無理！」
「な、何それ…！」


やっぱり後輩が言ってたことは本当だったのかな。成宮くんがそんな酷いことする人だったなんて思わなかった。


「だって俺が好きなのは名字さんだもん！！」
「……え。」
「……あ。」


逆切れしながら言われた言葉に私の思考が止められる。
けっこうな大声だったけど聞き間違いかな。だって、今成宮くん私のこと好きって言った。
茫然と成宮くんを見たら、だんだんと顔が赤くなっていくのがわかった。


「…じゃ！そういうことだから！」
「えっ…ちょっと…！」


そして成宮くんは赤い顔のまま逃げてしまった。
何それ…、嘘なら嘘だって、否定してから行ってよ…。





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