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19

それから数日経って、兵庫から帰ってきた俺たち野球部はまた練習の日々に戻った。
違うことは、3年生がいないこと。キャプテンは福ちゃん。俺のキャッチャーは1年の多田野。新しい環境に正直まだ気持ちがついていかないけど、来年はこのメンバーで甲子園で勝つんだ。戸惑ってる暇はない。
甲子園で負けてから名字さんとは会ってなかった。正直まだ気持ちの整理がきちんとできてない今会ったらかっこ悪い姿見せちゃうと思ったから。


「あ。」
「あ。」


そしたら休憩でトイレに行った帰りに名字さんと会った。
鞄背負ってるから、吹奏楽部の練習は午前だけだったのかな。


「…お疲れ様。」
「うん、名字さんも。」


やっぱり名字さんを前にしてもまだうまく笑えてない気がした。でも去年みたいなやさぐれた気持ちはない。


「部活終わり?」
「…今日は自主練。」


俺達が次の秋大に向けて練習しているように、吹奏楽部も9月に演奏会があるって言ってたから休んでる暇なんてないんだな。


「……来れば、成宮くんに会えるかなって思って。」
「…は!?」
「慰めてあげようかと思ったけど大丈夫そうだね。」
「!」


平然とした顔でとんでもないこと言うのやめてほしい。心臓飛び出るかと思った。
多分名字さんなりに、励ましてくれたんだと思う。ああもうどっちにしろ嬉しいから。


「…来年は優勝するから。そんで、ドラフト1位でプロ入りする!」
「…うん、楽しみにしてる。」


名字さんに笑いかけられると嬉しい。名字さんに心配してもらえたことが嬉しい。
ああもう……やばい、ほんと好きだわ。


「……やっぱ慰めてほしいかも。」


名字さんと別れるのが嫌でガキのようなワガママを言ってしまった。


「頭撫でればいい?」
「なっ…」
「ふふ、冗談だよ。」


いらずらに笑う名字さん。少し前の俺ならむかついて終わったはずなのに、可愛いって思ってしまうのはやっぱり惚れた弱みってやつか。
でもやられっ放しは割に合わない。


「…撫でて。」
「えっ…」
「ん。」


言ったからにはやってもらうから。帽子を脱いで頭を差し出すと名字さんは戸惑った。
そしておずおずと伸ばされた手が優しく、俺の頭に乗せられる。


「……」
「……」


何だこれめちゃくちゃ照れる。






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