13
夏休みに入った。
学校が休みになったから昼間っから練習し放題。まったくほんと、この暑い中よくやるよ。…俺含めて。
だけど甲子園に行くためなら耐えられる。個性の強いチームだけどそこだけは同じ気持ちだ。
「で、最近好きな子とはどーなんだよ?告った?」
「……夏休み入って会ってない。」
「はあ?」
名字さんとは夏休みに入ってから会っていない。
そう答えるとカルロに信じられないという反応をされた。
だってしょうがなくない!?こっちは毎日野球漬けだし、名字さんも部活あるし!
「忙しいっつっても連絡くらいとってんだろ?」
「……連絡先、知らない…。」
「ぶっは!どこまで坊やだよ!笑える!」
「笑うな!!」
カルロに言われて初めて気付いたことは絶対言わない。
そういえば俺、名字さんの連絡先知らなかった…!夏休み入る前に聞いとけばよかった…!
「まあ吹奏楽部だったら練習来てんだろ。」
「また押しかければ?怒られるの覚悟で。」
「くっそー…!」
確かに音楽室からは毎日のように音が聴こえる。名字さんも学校に来てることは間違いない。けど、理由もなく吹奏楽部のとこ行くなんて流石にできないでしょ。
「雅さん!吹奏楽部の人が呼んでます!」
「すっげー美人です!」
「…わかった。」
「!!」
吹奏楽部の美人…あの先輩かな!?
フェンスの外に目をやって、真っ先に見つけたのは名字さんの姿だった。
「俺も行く!」
「…勝手にしろ。」
呼ばれたのは雅さんだけど、俺エースだしついてっていいよね!
だって名字さんの隣にいる美人が持ってるのは千羽鶴。毎年恒例のこれを渡しに来てくれたんだ。
「頑張ってね、雅くん。」
「ああ。今年も応援よろしく頼む。」
「うん任せて!…雅くんのかっこいい姿、楽しみにしてる。」
「……おう。」
美人から千羽鶴を受け取る雅さん。
なんか…この2人の間にただならぬ雰囲気を感じる。
気のせいじゃなかったら、美人はなんかうっとりと雅さんを見つめてるし、雅さんもちょっとだけ顔が赤い。照れてる…?
「…知らなかったの?あの2人付き合ってるの。」
「えええ!?」
雅さんと美人を交互にガン見する俺に教えてくれたのは名字さんだった。
久しぶりに名字さんと話せて嬉しい…けど、流石にこれは驚きの方が勝る。
だって、このちょー美人の先輩と、厳つい雅さんが…!?
「お似合いだよね。」
「どこが!?」
いやいや、どこをどう見たらお似合いに見えるわけ!?リアル美女と野獣じゃん!
てか雅さん、彼女いる素振りなんか全然見せなかったくせに…!
なんか負けた気がする。俺はこんなに好きな子に対して苦労してるっていうのに…!
「…名字さんメアド教えて!」
「え?」
妙な焦りを感じた俺は何の脈絡もなく聞いてしまった。
異性からアドレスを聞かれると自分のことが好きなんじゃ?って思うのは男女共通だと思う。
ちょっとあからさますぎかもしれないけど、名字さんが相手ならきっとこのくらい直球じゃないとダメだ。
「あ!でも今携帯持ってない!」
勢いに任せて聞いたはいいけど、アドレスを登録する携帯が手元にない。
どうしよう、今から部室まで取りに行くかな?それか聞いて覚える?
「んー…!」
「ふふっ、変なの。」
うんうん悩んでたら名字さんが笑った。
柔らかい笑顔だ。この顔、すごく可愛いと思う。
「…変じゃねーし!」
「ちょっと待って。」
名字さんがスカートのポケットから取り出したなのはメモ帳とボールペン。
ボールペンを鎖骨のとこでノックして、メモ帳にスラスラと走らせていく。そして、書き終わったそのページを破って俺に渡した。
「これ、私のメアド。」
「!」
渡されたメモにはアルファベットの羅列。名字さんらしいシンプルなアドレスだ。俺はその紙をぎゅっと握ってお礼を伝えた。
「メールすんね。」
「…別にいいよ、忙しいでしょ。」
「する!断るな!」
「あはは!」
「ふふーん!メアドゲットしたもんね!」
「あーはいはいよかったねー。」
「よくできましたー。」
≪≪prev