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08

名字さんにかっこいいとこ見せてね、なんて美人の先輩に言われたらそりゃー頑張っちゃうでしょー!
そういえばあの人、俺の名前知ってたな。やっぱ俺って人気者!先輩の名前も聞けばよかった!


「ふふふ…」
「…何笑ってるの?」
「べっつにー?」


何も知らずにきょとんとする名字さんの顔が面白くて仕方ない。
数日後、名字さんは俺のプレーに釘付けになる…ぷぷぷ!もしかして惚れちゃうかもね!


「名字さん、行こう。」
「あ、うん。」
「は!?何!?どこ行くの!?」


放課後、名字さんはいつものように一人で部活に直行するかと思ったら国木に呼ばれて立ち上がった。何で!?


「応援団と打ち合わせ。」
「俺応援団なったって言っただろ?」


そういえばそうだった。
今日は応援団と吹奏楽部で野球応援の合同練習をするらしい。
ふーんつまり俺のための練習ね!だけどなんか腹立つ!












部活の時間になると、応援団と吹奏楽部が外で合同練習を始めた。
応援団の声と楽器の音が合わさると、ああもうすぐ甲子園なんだなって思う。
野球部のグラウンドからチラチラ見えるそこにはもちろん名字さんの姿もあった。
カンペ役って言ってたから楽器は吹いてない。
そしてその隣には…国木がいる。


「鳴、今日集中力ないぞ。」
「いつも通りだし!」


そんなこと言われなくても自分が一番よくわかってる。
だって仕方なくない!?視界の端でチラチラ名字さんと国木さんが仲良く話してるの見えたら集中できるわけないじゃん!


「…ちょっと休憩してこい。」


俺が休憩になったのと同じくらいに、合同練習が終わったらしい。
バラバラと人が散っていく中で、やっぱり名字さんは国木と話してる。
練習終わったならさっさと戻ればいいじゃん!
…ん?名字さんが国木に何か渡してる……ペットボトルの飲み物だ。
何それ!ふつーそこは俺のポジションなんじゃないの!?
練習頑張ってるエースに女の子が飲み物の差し入れってよくあるパターンのやつじゃん!
俺だってまだしてもらったことないのに!
気付いたら俺は大きな足音をたてて2人の方に向かっていた。


「…お疲れ、成宮くん。」
「…ん。」


俺がついた頃には国木はいなかった。
外での練習だからか、制服じゃなくて吹奏楽部のTシャツを着てる。なんか新鮮だ。


「…疲れた!あーあーノド渇いたなー!」
「? 飲めばいいじゃん。」


自分でもわざとらしく言ってみたのに、名字さんの反応は俺の求めたものじゃない。
だから余計に俺もムキになる。


「今!ここで!むしょーにノドが渇いたの!」
「あはは、何それ。」
「!」


わ、笑った…!なんだ、こんな可愛い笑い方もできるのかよ。


「私のでよければあげるよ。」
「え!?」
「父兄からの差し入れなんだけど、私水筒持ってるから。」


なーんだ!さっき国木に渡してたのは名字さんからの差し入れじゃなくて、父兄からのやつね!
みんな分ある飲み物を名字さんが手渡してただけね。
でも俺には名字さんが貰った分をくれるの?何それ、特別みたいじゃん!


「ありがと!」
「!」


なんかすげー嬉しくて俺は遠慮なく受け取った。だって本人がいらないって言ってるから別にいいよね!


「…変なの。」
「変じゃねーし!」
「おい鳴ー!」
「やべっ、練習始まる!じゃーね!」
「うん、バイバイ。」


お目当てのものを手に入れて満足したし、雅さんに呼ばれたし!
俺は来た時よりも軽い足取りでグラウンドに戻った。
戻ったら雅さんが呆れた顔して立ってた。うげ、怒られるかな。


「お前な…。名字のことが好きなのはわかったから、練習はちゃんとしろ。」
「へー、あの子が鳴の好きな子ね。」
「…なんか意外。」


怒られることはなかったけど、雅さんから出てきたのは意味わかんない言葉だった。
カルロも同じようなこと言ってるし、白河も頷いてる。


「…はあああ!?好きじゃねーし!!」
「いや、好き以外の何でもねーだろ。」
「え!?」
「え、まさか無自覚?ウケるわ。」
「え…えええ!?」


俺が、名字さんのことが、好き?
いやいや意味わかんねーし!好きじゃないし!
顔だって俺の好みじゃないし、性格だって無愛想で他の女の子みたいに可愛くない。
付き合うんだったら…ほら、吹奏楽部の美人の先輩がいい!


「…余計なこと言っちまったか?」
「や、いいんじゃないすか?この調子だとこいつ気付かなかったっすよ。」





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