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07

「最近調子いいな、鳴。」
「でしょー!もー夏大が待ち遠しくて仕方ないよー!」
「…何かいいことあったか?」
「……別に何もないし!」


何かいいことって聞かれて、名字さんの顔が浮かんだことにむかついた。
別に夏大が楽しみなのはいつものことだし!名字さんが来ても来なくても関係ないし!


「お。この曲何だっけ。」
「聞いたことあんな。」


音楽室から吹奏楽部の合奏の音が聴こえてきた。
これは聞いたことある!この前名字さんが練習してた…


「白鳥の湖!」
「ああ、そう、それ。」
「よく知ってたな、鳴。」
「ふふーん!これ、オーボエって楽器がちょー目立つ曲なんだよ!」
「オーボエ?何だそりゃ。」
「高い音が出る楽器!」
「へー。」
「ふふーん!」
「……」


ふふふ、皆に俺の博識っぷりを見せつけてしまった!
でも…あれ?オーボエの音が聴こえない気がする。遠いからかもだけど。


「…!」


なんとなく音楽室を見ていたら、視界の端で教室の電気がつくのを捉えた。
窓の奥に見えた人影は名字さんっぽい。てか、あそこは多分名字さんが練習する教室だ。
音楽室からは合奏の音が聴こえてるのに、何で名字さんは参加してないんだろ。


「ちょっと行ってきます!」
「はあ!?どこに!?」


なんだか無性に気になって校舎へ走った。
だってこのままほっといたらきっと練習に集中できない。だから、許してよね!












「ふっ…、う…」
「!!」


覗いた教室で目にした光景に俺は思わず息をのんだ。
だって、名字さんが泣いてたから。
名字さんは顔にタオルを押し付けて嗚咽を漏らしていた。
初めて見た泣き顔。こんな風に、静かに泣くんだ…。悪いと思いつつも目が離せない。


「……ふぅー……うん。」
「!」


しばらくして名字さんは深呼吸して、自分の両頬をパンと叩いた。
タオルに隠れていた顔は、目元は赤いけどまっすぐと前を見据えている。
なんか…よくわかんないけど、その表情にドキっとしてしまった。


「…立ち直った?」
「!?」


名字さんから目を離せないでいるといつの間にか隣に美人がいた。
この人、この前名字さんと話してた吹奏楽部の先輩だ!可愛いから覚えた!


「フォローしに来たんだけど…うん、大丈夫みたいだね。」


美人は名字さんの様子を見に来たみたい。俺と同じだ。


「あ、あの!何があったんですか!」
「今日なかなか音程が合わなくて。“ソリストがそんなんじゃ合奏しても意味ない。ちゃんと吹けるようになるまで戻ってこなくていい。”…先生にそう言われたの。」
「!」


何それ。吹奏楽部ってそんなことまで言われるの?がっつり体育会系のノリじゃん。


「名前のこと心配してくれたの?鳴くん。」
「な!?別に!たまたま通りかかっただけだし!」
「ふふ、野球部が校舎の中を?」
「うぐっ…!」


意地悪なことを言われるけど不思議と美人だからそこまで嫌な気はしない…!


「…2年生の名前に今年のソロはすごいプレッシャーだと思う。でも、みんな名前を信じてる。こんなに頑張ってるんだもん。」
「……」


よかった。名字さんの努力はちゃんと、先輩にも伝わってたんだ。


「でも最近は根を詰めすぎてて心配で…。だからちょっと強引に野球応援に誘ったの。」
「!」
「休息をとることも大事だし…何より、同じ2年生でエースの鳴くんのプレーを名前に見てほしかったの。」
「え…」
「…だから、よろしくね。鳴くん。」
「…はい!」


何それ…めっちゃ燃えるじゃん!






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