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08



 
昨日の夜からいろんなことがありすぎた。私の脳みそはけっこう前からキャパオーバーを訴えていて、とにかく眠気がやばい。情報整理をしたがっている。バイトから帰ってきてすぐにベッドに横になりたかったけどこのまま寝たら絶対夢に三ツ谷くんが出てくる気がして、私はカフェオレを飲みながらテレビの電源を点けた。


「!」


それとほぼ同時にスマホの画面が三ツ谷くんからの新着メッセージを告げた。通知欄には『今大丈夫?』とだけ表示されている。すぐに開こうか迷ったけど、きっと放置したらテレビの内容は全然入ってこないということは想像に容易い。私は一回深呼吸をしてからトークアプリを開いた。


「! な、なに?」


私が『大丈夫だよ』と返事を打つ前に三ツ谷くんから電話がかかってきた。既読をつけた手前この電話を無視することはできない。ていうか前回もこんな感じでデートのお誘いを受けたんだった。男の人って女と比べて文字のやりとりを面倒に思うって言うけど、もはやこれは三ツ谷くんのテクニックなのではと疑ってしまう。


『名字さんホラー好き?』
「うん、好き」
『あー……今日"赤い村"っていうのDVDで観たんだけどさ……』
「!」


三ツ谷くんが観たと言うDVDのタイトルは、今日青髪の人が"タカちゃん"と一緒に観るため探していたものと同じだった。


『すげー面白くて、今続編映画でやってるじゃん?』
「うん……」
『名字さんと一緒に観に行きたいって思ったんだけど、どう?』


繋がってしまった。"タカちゃん"と三ツ谷くんは同一人物で、きっと自惚れではなく、私を映画に誘うために前作のDVDを借りて観てくれたんだと思う。
デートのお誘いに至るまでの裏側を見てしまった罪悪感と背徳感に、今まで経験したことのない種類のドキドキを感じた。


「私も、それ気になってた」
『マジ?良かったー。日程はまた連絡するわ』


私の返事を聞いて声を明るくする三ツ谷くんを、初めて年相応の男の子だと感じて自然と頬が緩んだ。電話を切った後もほわほわした気持ちが治まらない。
私がホラー好きってことはいつ知ったんだろうか。あまり共感して盛り上がってもらえる趣味じゃないから聞かれない限り答えないようにしていて、三ツ谷くんに話した記憶は無い。この疑問は三ツ谷くん本人にぶつける以外に解消することはない。これ以上考えるのは不毛だ。
私は夢で三ツ谷くんと会うことを覚悟してベッドに入った。























そしてデート当日。遠足に行く小学生かというくらいに早起きをして5分前に待ち合わせ場所に到着した。本当はもっと早く来るつもりだったんだけど、昨日のうちに準備していた服もネットで調べたヘアアレンジも、いざ朝になってみたら本当にこれでいいのかと迷ってしまったり化粧をやり直したりでこの時間になってしまった。


「お待たせ……」
「「あー!!」」


私が三ツ谷くんに駆け寄った瞬間大きな声が響いた。聞き覚えのある声だと思ったら、バイトの後輩花垣くんが大口を開けてこっちを見ていた。隣には青髪の人もいる。


「お前ら何してんだよ」


三ツ谷くんも見知った顔に目を丸くしていた。
全員が驚いてる中で私だけが状況を理解した。花垣くんと青髪の人はきっと三ツ谷くんの好きな人がどんな女なのか気になって後をつけたんだと思う。そこに現れたのがバイトの先輩である私だったから驚いた花垣くん。青髪の人が驚いた後に青褪めたのは意図せず三ツ谷くんの気持ちを私にバラしてしまったことに気付いたからだろう。


「ぐ、偶然だなー!邪魔しちゃ悪いんで帰りますね!」
「タカちゃんごめん……頑張って……」
「は?」


首を傾げる三ツ谷くんに、とりあえず花垣くんと同じバイト先だということだけ説明した。





















映画はとても面白かった。最初は暗闇の中で三ツ谷くんの隣で過ごすなんて、と思っていたけれど始まってしまえば全然気にならなくて逆に真っ暗で良かったとさえ思った。
映画の後は近くのファミレスでお酒なしのご飯を食べて、21時前に解散する流れになった。三ツ谷くんは私の感想語りに相槌を打ちながら当たり前のように送ってくれている。
デート直前まではいろいろ考えてしまってドキドキしていたけど、いざ直接会ってみると三ツ谷くんと話すのはすごく楽しくて緊張も忘れて自然体でいられる自分がいた。思い返してみれば前回もこんな感じだった気がする。


「名字さんホラー映画好きなの意外」
「そう?てか三ツ谷くんに言ったっけ?」
「……」


話の流れでぽんと出た私の疑問でスムーズだった会話が突然途絶えた。コミュニケーション能力には長けているはずの三ツ谷くんが急に黙って立ち止まってしまって、私は先にも行けずどうしたらいいかわからなくなった。


「成人式で話してたの聞いた」


ぼそっと三ツ谷くんが呟いた。そういえば、成人式の二次会で話した気がする。鈴木くんに趣味を聞かれて映画と答えて、どんなの見るかと掘り下げてきたから正直にホラーと答えたら愛想笑いで終わった話題だった。
直接話したわけじゃなくて、三ツ谷くんはその時の会話を聞いていたのか。あの時は全然意識していなかったから三ツ谷くんがどこに座っていたのかさえ憶えていない。鈴木くんとの会話を聞いてたってことは、成人式の時から私のことを意識してくれていたってことなんだろうか。そんなことを言われたら、せっかく忘れかけていた期待がまた膨らんでしまう。


「まあ……もうバレてると思うけど、八戒にあのDVD借りてきてもらったのは名字さんを映画に誘うための口実」
「!」


私が話題を変えるよりも先に三ツ谷くんが追い打ちをかけてきた。三ツ谷くんの口からはっきりと伝えられて、あの時思い浮かべた仮定は確定に変わってしまった。私をデートに誘うための口実を作る三ツ谷くんのことを考えると、なんだか胸がぎゅっとなる。


「なあ……オレは対象外?」
「三ツ谷くんは……」


こんな、いきなり雰囲気を変えてくるなんて反則だ。さっきまで楽しくお喋りしてたじゃん。映画の話題で終わって、楽しい気分のまま家に帰してよ。別れ際にこんなにドキドキさせないで。


「かっこいいし……私なんかを好きだなんて信じられない」
「ふーん……かっこいいとは思ってくれてんのね」
「そりゃあ……」


対象外かと聞かれれば、もちろんそんなわけはない。三ツ谷くんは人としても男性としても魅力に溢れた人だと思う。ただし、そういう人と付き合ったからと言って幸せになれるとも私は思っていない。


「オレも名字さんのこと可愛いと思ってるよ」
「え」
「今日の髪も服もすげー可愛い」


本能的にやばいと察知した。三ツ谷くんに一歩近づかれて一歩下がる。そんなことを3回くらい繰り返したら三ツ谷くんがぐっと距離を近づけてきて、更には逃げられないように腰に手を回された。この距離はやばい。とてもじゃないけど三ツ谷くんの顔を直視できなかった。自分の整った顔面を最大限に利用してやがる。


「無理、だめ、やめて」
「何で」
「イケメンの暴力だから……」
「何だよそれ」


私の変な言い回しに三ツ谷くんは笑って、すぐ真剣な表情になった。


「また誘っていい?」
「……うん」


そんな感じで聞かれたら断れるわけないじゃん。三ツ谷くんのばか。




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