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09



 
(三ツ谷視点)



成人式の時、名字さんの姿を見て周りの男達と同様に可愛いなーと思った。
中学の時は同じクラスになったこともなく、たまに安田さんと一緒にいる女子として認識はしていた。名前は聞けばわかる程度。下の名前は成人式の時に知った。
可愛くなった名字さんを周りの男達がほっとくはずもなく、成人式の二次会では常に誰かが名字さんの隣を陣取っていた。盗み聞きしてる限り名字さんは男達の下心ありありの会話に卒なく対応してるなという印象だった。
しかし帰るとなった時、送ると食い下がった元野球部の鈴木に押し負けそうになっていてたまらず助けに入った。特に名乗りはしなかったけど、多分名字さんは俺のことを知っていたと思う。まあ、それなりに有名だった自覚はあるし。
その日は名字さんに良い印象を与えたくてそのまま別れた。家に帰ってから連絡先くらい聞けば良かったと少し後悔した。


それから頭の片隅で名字さんのことは気になっていたものの仕事の方が忙しくて気付けば4月になっていた。
連絡先は安田さんに聞けば手に入ると思う。成人式から3ヶ月経って今更気が引けるという気持ちでなかなか行動に移せないでいたある日、ドラケンと晩飯を食った夜の繁華街で足速に歩く名字さんを見つけた。
ドラケンに断って追いかけると、名字さんは男に無理矢理手を引かれてるようだった。先導するのはカラオケのキャッチ。おそらくカラオケを口実に誘われてるんだと状況を理解した。あんなヒョロい男の手なんて振り払えばいいのに、それができない名字さんに多少のイラつきを感じた。
カラオケのキャッチもお友達の佐藤くんも平和的に追い払ってやると、安心した表情でオレを見上げてくる名字さんを見てなんとも言えない高揚感を感じた。
結局この日も名字さんに警戒心を持たれたくなくて連絡先を聞くことはできなかったし、一部始終を見ていたドラケンには「好きな子?」とニヤニヤして聞かれた。まあ、そりゃバレるよな。二軒目では酒が進んだ。


次に名字さんと会った時はぺーと安田さんも一緒だった。久しぶりにぺーから連絡が来たと思ったらどうやら安田さんに気があるらしく、オレも含めて4人くらいで食事に行きたいという相談だった。もちろんぺーを応援する気持ちが第一だけれど、これを利用しない手はないと思った。安田さんは名字さんとそれなりに仲が良かったはずだ。男女4人でってことなら、もう一人の女子は名字さんがいい。早速安田さんに連絡を入れた。
そして当日、仕事で遅れて合流するとガチガチに緊張してる2人と、そんな2人を必死でフォローする名字さんがいた。人のために頑張る名字さんの姿を見て改めて好きだなあと感じた。
2人の緊張が解れてきた頃に名字さんにアイコンタクトを送って、名字さんと2人で席を立った。半分はぺーと安田さんのため、もう半分は自分のため。出来る限り下心を感じさせないように二軒目に誘うと名字さんは頷いてくれた。
適当に見つけた居酒屋に入って話していたら時間はあっという間だった。中学の頃接点が無かった分、話題は尽きなかった。名字さんは今保育系の大学に通っていて今年資格試験を受けるらしい。保育士として園児たちと戯れる名字さんを想像したら顔がニヤけた。
名字さんがうとうとし始めてハッと時計を見たら23時半で慌てて居酒屋を出た。一応弁明しておくとオレが無理に酒を勧めたわけじゃない。名字さんが自分のペースで頼んだウーロンハイ3杯だ。おねむで千鳥足の名字さんを引っ張ってもたもた歩いているうちに終電を逃してしまった。正直頭の片隅ではこんな展開を期待していた自分がいたのも事実だ。でも実際に酔っ払った名字さんをアトリエに連れ込むとなったら罪悪感に見舞われた。
もちろんこんな状態の名字さんに手を出すつもりはない。出してはいけない。必死に邪念を振り払うオレに対して名字さんは「三ツ谷くん何でそんなかっこいいの」「顔面整いすぎてびっくりする」「性格も良すぎる。罪深い」などとよくわからない褒め方をしてくる。そこまで言うんだったらキスくらいしてもいいんじゃないかと、火照った顔を近づけたら唇に人差し指を当てられて「だーめ」と言われた。……興奮した。
翌朝、名字さんはこのことを憶えていなかった。危機感を持ってもらうためにも少し意地悪したら、わかりやすくテンパって逃げるように帰っていった。逆ギレしながらもちゃんとお礼は言うんだなと笑ってしまった。


文具屋で会ったのは偶然半分、必然半分ってところだった。二人で飲んだ時に実技試験対策で色鉛筆とスケッチブックを新調しなきゃと言っていたから、土曜日に名字さんの家の近くの文具屋をウロウロしてたら会えた。さすがに気持ち悪いだろうからこの事実は墓まで持ってく。
マナの誕生日プレゼントという口実でデート気分も味わえたし連絡先もやっと交換できたし最高の一日だった。重くなりすぎないように300円の入浴剤をあげたけど、家に帰ってから形に残るものをあげれば良かったと後悔した。そうしたら家でもオレのことを思い出してもらえたかもしれない。


連絡先を交換してから、オレなりにわかりやすく丁寧にアプローチをしていったつもりだ。
ひとつ誤算だったのは、名字さんがタケミっちと同じレンタルショップでバイトをしていて、八戒がその店でオレが頼んだDVDを借りてきたことだった。オレが名字さんとデートするためにわざわざ予習してたことはバレバレだったってわけだ。……くそダセェ。
どうせオレの気持ちは名字さんにバレてる。なりふり構わずに迫ってみたら「私のことを好きだなんて信じられない」と言われた。心外だ。そういうことならもっとわかりやすく攻めてやると決心した。


名字さんと成人式で会ってからもうすぐ1年が経つ。忙しいってのがあったにしても一人の女性にここまで時間をかけたのは初めてだった。
今のところ悪くはない……と思ってる。かっこいいとは思ってもらえてるみたいだし、くだらない会話にもニコニコと笑ってくれるし。それでも「付き合いたい」に至らないのは、もちろんオレの力不足もあるんだろうけど、名字さん自身がブレーキをかけてるように思えた。オレのことを少しでもいいと思ってくれてるんだったら、余計なことは考えず目の前のオレだけを見ていてほしい。理性をとっぱらってオレを求めてほしい。
この長期戦にもそろそろ決着をつけなきゃな。




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