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07



 
「あれ、名字さんレジ点検しました?」
「あ、忘れてた」


三ツ谷くんに手を繋がれた日の翌日。二度寝して現実逃避をしたかったのは山々だけれど、日曜日のシフトを変更してもらうわけにもいかず私は朝からレンタルショップのカウンターに立っていた。
ここで働き始めて3年目になるというのに今日はうっかり昼のレジ点検を忘れていた。頭がうまく働かないのは昨日のアルコールのせいではなくて紛れもなく三ツ谷くんのせいである。


「花垣くんって元ヤンだよね」
「いきなり何スか」
「でも可愛い彼女いるよね」
「えっ、ま、まあ〜〜」


バイトの後輩花垣くんは元ヤンだけど可愛い彼女がいる。何度かバイト終わりに待ち合わせしてるのを見たことあるけどとても仲が良さそうだった。彼女とは中学の頃から付き合っていて既に結婚の約束をしているらしい。
確かに花垣くんはいい人だと思う。今でこそ黒髪短髪の普通の青年だけど、前に見せてもらった中学の頃の写真ではいかにもヤンキーですよみたいな金髪リーゼントだった。告白も彼女からだったっていうのは正直疑っている。彼女は何で花垣くんを選んだんだろう。


「タケミっちー!」


初めて聞くあだ名だったけどすぐに花垣くんを呼んだんだとわかった。
札束を数えながら視線を向けると、派手な青髪のでかい男の人が手を振っていた。絶対ヤンキー時代の友達だ。人懐っこい笑顔を浮かべてはいるけどヤンチャしてました感は滲み出ている。


「今からタカちゃんちでDVD鑑賞するんだけどコレある?」
「えーと……名字さんどうスか?」
「……ホラーですね」


関わりたくなくてノロノロ電卓を打っていたのに秒で巻き込まれた。お友達のスマホを覗かせてもらうと、丁度私の好きなホラー映画のタイトルだった。今月から新作が上映されてるけどまだ観に行けてないんだよな。


「ご案内しますね」
「……」
「あ、コイツ人見知りで!オレも行きます!」


ちょっとわかりにくい場所にあるから入ったばかりの花垣くんには任せられない。案内しようと営業スマイルを向けたらさっきまでのニコニコ笑顔が嘘のようにスンっとされてしまった。人見知りってレベルじゃなくない?まあ今後私が関わることはないだろうからいいんだけど。


「てかさ、大ニュース!タカちゃん好きな人できたんだって〜」
「へー!彼女いなかったんだ、意外」
「でも苦戦してんだって。タカちゃんに落ちない女とかマジありえねー」


2人を無で先導している私だが背後で繰り広げられる会話は嫌でも耳に入ってきてしまう。その話もうちょっと後でできないかな。"タカちゃん"も片想いしてることがこんなところで知らない店員に聞かれてるとは思ってもみないだろう。申し訳ない気持ちはあるけど私は悪くない。


「三ツ谷くんでも苦戦とかするんだ」
「!?」


三ツ谷くんというホットワードに私の心臓がバクバクとわかりやすく反応した。会話の流れからして花垣くんが言う三ツ谷くんは青髪くんが言うタカちゃんと同一人物だ。
ちょっと待って、そういえば三ツ谷くんって名前何だっけ?よくよく考えてみたら"たかし"だった気がする。三ツ谷タカシくん。タカちゃん……んんん??いやいや世間がそんなに狭いわけがない。元ヤンの友達がいる三ツ谷タカシくんならきっと東京に……2人くらい、いるのでは……。考えながらだんだん自信がなくなっていった。


「中学の同級生で何回かデートしてんのに軽くフられたらしい。ありえなくね!?」
「マジ!?」


これ以上脳裏に浮かんだ仮定を決定づけるような証拠を投下してくるのはやめてくれ。私なりに背中で黙れオーラを出したつもりだったけど伝わるはずがなかった。足速に案内を終えてカウンターへ戻る。
お客さんが去った後も花垣くんに「タカちゃん」の正体を確認する勇気は私には無かった。中学の同級生のことが好きで、元ヤンの友達がいて、私の知らない三ツ谷タカシくんが東京のどこかに存在することを願った。





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