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05



 
「あ」
「おっ」


文具屋さんで思わぬ人物と出くわした。もう二度と会うことはないと思っていたのに。あんな別れ方をした手前ものすごく恥ずかしいし気まずい。
すぐに逃げたくなったけど私が今いる色鉛筆のコーナーはお店の一番奥。ここから脱出するにはどうしても三ツ谷くんの横を通り抜けなきゃいけない。悠然としていて隙が一切ないように見える三ツ谷くんのディフェンスに私はなす術もなく立ち尽くした。


「あー……ごめんって。この前意地悪いことした」


身構える私に三ツ谷くんは申し訳なさそうに頭を掻いた。謝らせるつもりなんてなかったのに。逆にこっちが申し訳なくなってしまう。


「そ、そんなことないよ。私こそ迷惑かけてごめんね」
「迷惑じゃねーよ、全然。一応言っとくけど変なことはしてませんので」
「そこは心配してないので」
「いやいや心配しろよ」


漫才のようなテンポの良い会話に2人して笑い合って緊張がほぐれた。よかった、やっぱり三ツ谷くんは優しい人だ。


「三ツ谷くん文具屋さん似合わないね」
「名字さんってけっこーズバっと言うよね」


リラックスしたせいで失礼なことを言ってしまったけど三ツ谷くんは爽やかに笑って許してくれた。かっこいい。
事情を聞いてみると、小学生の妹ちゃんに誕生日プレゼントにペンケースが欲しいと言われて探しに来たらしい。なんとも微笑ましい理由に簡単に頬が緩んだ。年子の兄がいる身としては妹に優しいお兄ちゃんなんて想像できない。歳が離れてるときっと感覚が違うんだろうな。毎年こうやってプレゼントを用意してるのかと推測するとこっちまで優しい気持ちになった。


「どんなのがいいと思う?」
「雑貨屋さんの方が可愛いのあると思うよ」
「わかんねーから一緒に行ってくんない?」
「え、あ、うん」


女の子向けのペンケースだったら文具屋さんよりも雑貨屋さんの方が可愛いのがあると思う。私も小さい頃は近所の雑貨屋さんでキラキラしたやつ買ってたし。
そう助言をしたら一緒に雑貨屋さんに行くことになった。流れで頷いてしまった数秒前の自分を叱責する一方で、三ツ谷くんの力になりたいと思う自分も確かにいた。些細なことかもしれないけど、これで助けてもらったお礼ができたらいいな。


















幸い雑貨屋さんは同じ通りの少し歩いたところにあってすぐ移動できた。私もよく行く雑貨屋さんだ。
妹ちゃんの好きな色とか持ってるペンの量とかを聞いてこれがいいんじゃないかと提案したものを三ツ谷くんは迷わずレジまで持っていった。心なしかレジのお姉さんの表情が柔らかい気がする。うんうんわかる、ただでさえ雑貨屋さんに男の人の姿は珍しいし、明らかに女の子へのプレゼントだと分かると微笑ましいよね。


「ありがと。こういう店知らないし一人だと入りにくいから助かったわ」
「喜んでくれるといいね」
「ん。こっちは名字さんの」
「え?」


レジから戻ってきた三ツ谷くんに小さなラッピングを渡された。妹ちゃんのプレゼントは別で持ってるしはっきりと「名字さんの」と言われたから、これは私へのプレゼントで間違いないらしい。だからこそ意味がわからない。


「今日付き合ってくれたお礼」


そんな、お礼の品を貰える程の働きはしてないのに。そもそも助けてもらったお礼になればと思っての行動だったのに、これじゃあ全然恩を返せた気になれない。


「妹の反応報告したいから連絡先教えて」
「あ、うん」


成り行きで連絡先まで交換して、ついに三ツ谷くんとの繋がりができてしまった。
漫画やドラマなら恋が始まりそうな展開に、私の理性に反して胸が高鳴る。勘違いしてしまいそうになる自分に自身のステータスを自覚しろと釘を打った。自惚れてはいけない。三ツ谷くんは優しい人だと、散々見てきたじゃないか。
家に帰った後、自室で何時間もかけて気持ちを打ち消したのも、プレゼントの中身を確認したことで無駄になった。最近入浴剤にハマってるなんて三ツ谷くんに話してない。心当たりがあるとすれば、雑貨屋さんで手に取って見ていたくらいだ。もしかしてその様子を見ていてくれたんだろうか。ていうか今日のコレはデートと呼べるのでは……いや、これ以上考えるのはやめよう。
特別高価でもないはずのその入浴剤をすぐに使ってまうのはなんだかもったいなくて、とりあえずサイドテーブルの上に飾ることにした。
今日以降、お風呂に入る度に三ツ谷くんのことを思い出すことになって何回かのぼせるかと思った。





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