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04



 
「……!」


瞼越しに差し込んできた日光が眩しくて目を覚ました。視界に入った三角の天井と独特な木のにおいですぐに見知らぬ場所だと悟る。私は簡易ソファに寝ていてお腹には小さなブランケットがかけられていた。服装は昨日のままだから家には帰らず一晩ここで過ごしたということになる。
昨日は安田さんの頼みで林くんと三ツ谷くんと4人でご飯に行った。邪魔しちゃ悪いと思って私は先に帰って……ん?確か三ツ谷くんも一緒にいて、2人で別の居酒屋に行って……


「あ、起きた。コーヒー飲む?」


私が記憶を辿っている途中で三ツ谷くんの存在に気付かされた。同時に事の重大さにも気付いて動悸が激しくなる。ここはもしかして、三ツ谷くんのアトリエではなかろうか。
三ツ谷くんとのサシ飲みは思いのほか楽しくて、中学の頃接点がなかった分話題は尽きなかった。その会話の中で中学卒業後は服飾の専門学校に通って、今はデザイン事務所でデザイナーとして働いていると教えてくれた。独立を見据えて小さなアトリエを持ってるとも言っていたから、多分ここがそうだ。改めて室内を見渡すと目に入った棚にはたくさんの生地やデザインに関する本が収められていた。


「コーヒー、飲めない……」
「え、マジ?紅茶は?」
「飲める……」


正しくはミルクとシロップが無いと飲めないんだけどそんな説明を付け足せられる精神ではなかった。ここで私は三ツ谷くんと一晩過ごしたというとんでもない事実に気付いてしまったから。
二軒目の居酒屋を出た後の記憶が曖昧だ。けっこう酔っ払っちゃって、足取りの覚束ない私を見かねて三ツ谷くんがアトリエで休憩するかと提案してくれたような気がする。多分すぐ寝ちゃったはずだからいかがわしいことはしていない……はず……。断言できないのが恐ろしい。


「名字さんってさあ……隙がありすぎんだよね」
「え?」
「だから成人式の時もこの前も狙われるんだよ」


三ツ谷くんの方も普通にしてるからきっと大丈夫。「お世話になりました」的な軽いノリで別れられそうだと思ったのに、なんか説教が始まってしまった。隙がありすぎるだなんて心外だ。


「助けてもらったのは本当に感謝してるけど、一人でも断れたもん」
「ふーん……」


鈴木くんに対しても佐藤くんに対しても隙を見せた覚えはないし、むしろ元々コミュ障だから壁を作ることには慣れてるし。
ムキになってキツい言い方をしてしまった私を三ツ谷くんの冷たい瞳が見下ろした。その視線に背筋がゾクっとして三ツ谷くんが元ヤンであることを思い出す。そうだ、昨日はお酒のテンションがあったから楽しく過ごせただけで、元々私と三ツ谷くんは住んでた世界が違うんだ。仲良くなったなんて錯覚してはいけない。


「でも今回は?」
「!」


一刻も早くここから去らなければと自覚したその時、三ツ谷くんが私の隣にドカっと腰を下ろした。小さな簡易ソファだから一気に狭くなったと感じる。未だかつてない程三ツ谷くんが近くにいる。肩同士が触れている事実を受け入れられない。


「お持ち帰りされちゃってますけど?」
「ッ……!」


距離の近さとぐうの音も出ない事実を突きつけられて食い下がることができなくなってしまった。「一人でも断れる」と豪語したくせに、結局こうやって三ツ谷くんと一晩を過ごしてしまったんだから確かに説得力は無い。いかがわしいことがなかったのは結果論であって、もし三ツ谷くんにその気があれば今頃どうなっていたかもわからない。


「か、帰る!」
「紅茶は?」
「いらない!」


反論できなくなった私は逃げるという選択肢を選んだ。こういうのを"逆ギレ"と呼ぶんだろう。
無駄に声を荒げて立ち上がった私を見る三ツ谷くんの瞳はどこか優しげで大人っぽい。余計に自分が幼稚に見えてしまって悔しい。


「あっ、ありがと!」


私の滑稽な捨て台詞に、やっぱり三ツ谷くんは優しく笑ってくれた。





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