×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

02



 
成人式以降、いろんな人から連絡がきた。鈴木くんからのご飯のお誘いには「予定が合えばみんなで行きたいね」と返信を打ったらそれきり返事はこなくなったから、多分諦めてくれたんだと思う。他にも何人かお誘いを受けたけど中学の同級生だと思うとなかなか恋愛対象にはならなかった。
ちなみに三ツ谷くんからは何の音沙汰もない。そもそも連絡先を知らないから当たり前なのに、やっぱり心のどこかで期待していたらしい。かっこよかったもんな。顔はもちろん、なんかもう雰囲気がイケメンのそれだった。
そうこうしているうちに4月になり、私は無事大学3年生に進級した。これから実習で忙しくなってくるだろうし、大学は彼氏できないで終わるのかな。別に全然いいんだけど。


「私明日バイト早いし、そろそろ帰るね」
「えー名前ちゃん帰っちゃうの?」
「気を付けてね〜」
「うん」


今日だって大学の友達と飲んでいたのに、途中で知らない男子大学生が3人乱入してきて合コンみたいな感じになってしまった。みんなが盛り上がる中、居心地が悪くなった私は一人で帰らせてもらった。
もう少しフットワークを軽くすれば何か変わるのかもしれないけど、どうしてもこういうノリには馴染めない。根本的に私のこの性格は彼氏つくるのに向いてないんだと思う。


「可愛い子揃ってるよ〜」
「おにーさん達2軒目決まってる?」


夜の繁華街は華やかな女性やスーツをビシッと決めた男性で賑わっている。いくら同世代に可愛いと言われようが私は未だ子供っぽさが抜けない大学生。煌びやかな背景の前では簡単に霞んで見向きもされない。夜の街に紛れてこれが普通なんだと少し安心した。


「!」


そんな賑やかな大通りで三ツ谷くんを見つけた。華やかな街灯や人々にも負けず劣らずの存在感は流石だ。反対の歩道から見つめる私には気付いていない。三ツ谷くんもこの辺で飲んでたのかな。無邪気に笑う頬は赤く見えた。一緒にいるのは背の大きな男の人で、頭に龍の刺青が入っていた。こっわ……!きっとヤンキー時代の友達だ。


「名字さん!」


歩くペースを速めた私を呼び止めたのはさっきまで一緒に飲んでいた男子大学生の一人だった。一瞬でも三ツ谷くんを期待した自分に呆れる。そもそも三ツ谷くんは私の名前さえ知らないだろうに。


「ここらへん変な奴多いし、やっぱ心配でさ」
「大丈夫だよ、ありがとう」


名前は確か佐藤くん。私と一緒で、あまりあの空間に馴染めていなかった印象がある。わざわざ抜けて追いかけてきてくれたんだ。優しいな。


「カラオケどうすか〜?カップル割引あるよ!」
「いや、私達は……」
「カラオケか〜、どうする?」


ペースを落として2人で歩いているとカラオケのキャッチの人に捕まってしまった。一人だったら声をかけられることはなかったのにと少し悔やんだ。


「行っちゃいましょ!ミラーボールついてる部屋あるんで!」
「ハハ、ミラーボールだって。行ってみよっか?」
「え、ちょっと!」


さっきまで送ってくれる感じだったのにいきなり掌を返してきた佐藤くんに驚く。たかがミラーボールにそこまで惹かれるわけがない。この人も成人式の時の鈴木くんと同じだったんだ。気付いた時にはもう遅く、簡単には振り解けない力で手を引っ張られていた。


「名字さん何してんの?」
「!」


佐藤くんに引っ張られてヨタヨタと歩く私の肩に別の手が触れた。聞き覚えのある声に振り返ると少し前に通り過ぎたはずの三ツ谷くんが立っていた。


「おにーさん悪いね、この子今から俺達と二次会なんだわ」
「じゃあ是非ウチで!」
「店予約してるんで。また今度行くよ」
「えーお願いしますよー?はいコレ割引券ね」
「どーも」


三ツ谷くんは私が今置かれている状況を瞬時に理解たようで、機転の効いた嘘でキャッチのお兄さんを追い払ってくれた。これだよ、私が望んでいた対応は。恨めしく佐藤くんをチラっと見上げたら小声で「知り合い?」と聞かれて「まあ……」と頷いた。


「友達?」
「う、うん。佐藤くん」
「佐藤くんも一緒にどうスか?」
「いや、オレは……や、やめとく」


佐藤くんは明らかに三ツ谷くんの隣の刺青の人を見て怖気づいたようで、ハハハと渇いた笑いを浮かべて去っていった。その姿を滑稽だと笑うようなことはしない。私だって怖いもん。


「名字さんよく変なのに捕まるね」
「あはは……ありがとう」


また三ツ谷くんに助けられてしまった。ぐいぐい来られたらはっきりNOとは言えない弱い奴だと思われてたら嫌だな。別にあのくらい、自分で断ることできたし……多分。


「その子連れてくの?」
「!」
「ハハ、まさか。名字さんオレらのペースについてこれねーよ」


私が全力で首を振る前に三ツ谷くんが笑って否定してくれて安心した。あんなのキャッチを追っ払うための口実で、本当に一緒に飲むわけないじゃん。……とはもちろん言えないし刺青さんの顔を見ることさえできない私はやっぱり弱い奴だと思われても仕方ない。


「気を付けて帰れよ」
「うん、ありがとう」


三ツ谷くんは今日も前回と同様に安心できる優しい笑顔で手を振ってくれた。
……あれ?三ツ谷くん何で私の名前知ってたんだろう。三ツ谷くんに背中を向けた後に気付いた。





prev top next