夕飯も食べ終えて洗い物も終えて、ソファに寝転んでスマホをいじる。SNSを見るのにも飽きてきて、なんとなく開いたトークアプリの"今日も遅くなる"というメッセージが送信されたトーク画面を見てため息をつく。 仕事が忙しいのは承知の上だし頑張ってる隆に対してもちろん不満なんて何も無いのに、一緒にご飯を食べられないのはやっぱり寂しい。結婚前に思い浮かべていた新婚生活とのギャップに少しだけ挫けそうだ。 「ただいまー」 ネガティブな思考に陥ってるところで隆が帰ってきた。いつもだったら玄関まで迎えに行くのに、私はソファから起き上がれなかった。多分今、涙目だ。こんな顔でお出迎えなんてできない。私は咄嗟に寝たフリを決め込んだ。 「名前ー……っと、寝てんのか」 リビングのソファで私が寝てるのを確認してから、隆が極力音を立てずに鞄を置いたり上着を脱いだりしてるのがわかった。隆の優しさが身に染みると同時になんだか騙してるようで申し訳ない。 「……」 完全に起きるタイミングを逃してしまったと思っていたらソファが軽く沈んで、唇にあたたかい感触を感じた。 「はぁー……好き」 そして頬を隆の髪の毛がくすぐった。 えええ何それ……!隆がリビングを出た後、私は一人ソファの上で熱くなった顔を押さえて悶えた。 +++ 翌日。今日も隆の帰りは遅い。しかし私のメンタルは昨日とは違うのである。楽しみにしてるとこさえある。 待ちに待った鍵を開ける音が聞こえた瞬間、私は昨日と同じようにソファの上で寝たフリを決め込んだ。 「……今日も待たせちまったな」 リビングのそーっと入ってきた隆は優しく私の頭を撫でた。きっと表情も優しい顔をしてるんだろうな。想像したら好きが溢れてきた。 そしてその次にされるであろう行為をドキドキしながら待つ。 「……?」 だがしかし……いつまで待ってもキスが来ない。 「いてっ」 「バーカ」 どこか行っちゃったのかと思って薄めを開けたら思いの外すぐ目の前に隆の顔があって、間抜けな顔にでこぴんをくらった。 「バレバレ」 「!」 どうやら私が寝たフリをしてキスを待っていたことはバレていたらしい。え、うそ、恥ずかしすぎるんだけど。 「んっ」 言い訳も考えられず狼狽えることしかできない私を隆はフッと笑って、待ち焦がれたキスを与えてくれた。嬉しいけど、なんだか負けた気分だ。 「寝たフリなんかしなくても普通にすればいいじゃん」 「そう、だけど……」 隆の言うことはもっともだ。長年付き合ってきて結婚もしていて、キスなんて数えきれないくらいしている。キスしたいって言えば隆はしてくれるし、私からしたっていいんだけど……それは、そうなんだけど…… 「こっそりされるの、きゅんとした」 「!」 いつでもできる仲だからこそ、こっそりされることにドキドキしたしすごく嬉しかった。 「はぁー……」 正直に伝えると、隆は大きなため息をついて額をソファに擦りつけた。隆の髪の毛が顔に当たってくすぐったい。昨日もこんな感じで「好き」を呟いていたのかと思うとまたきゅんとした。 「今日しよ」 「え、でも明日仕事……」 「我慢できねーもん。それとも寝てる時こっそりされたい?」 「そんなこと言われたらもう寝れないんですけど……」 とりあえず今日はお互いに昂った気持ちをぶつけたいということで合意した。 明日からはもう寝たフリはできないなぁと、少しだけ残念に思った。 prev top next |